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第二十九話 海と大地と空の果てに

どうにか試練を攻略できたミュナおばさん御一行。

さて、暫くはのんびりとした時間となりそうです。

「あ、ここは――」


 つい先程まで自分は戦闘機の中に座っていたはずだ。

 そして、気が付くと柔らかな砂を足場にしている。

 イツハが被っていた酸素マスクを脱いでいると、背後から声が聞こえる。


「試練を乗り越えたのでございますね」


 マァルナが丁寧に言葉を述べている。

 驚きもせずに淡々と感想を口にする点が人工知能の強みなのかもしれない。


「そうみたいだね。って、ミュナおばさんは!?」


 近くにいるはずだ。

 まさか、はぐれてしまったのだろうか。

 イツハが背後から物音がしたのでそちらに目線を向けると――。


「あれは――!?」


 イツハの背後には海があった。

 位置から察するに海を越えて先へ進んでいる形となっているようだ。

 そして、海に漂っていたのが――。


「イツハ様。あれはサメのようです」

「何だサメか……。試練の場所から紛れ込んで来たのかな?」

「そのサメの上にミュナおばさまがおります」

「え、あ、本当だ! って、そっちを先に言ってくれないかな……」


 ミュナはイツハ達に気が付くと、手を振ってから大きく跳躍した。

 そして、空中でクルリと三回転程して、地面へと着地するのだった。


「いっちゃんにルナちゃん。お疲れ様よ~」

「お疲れ様です。何とか試練を突破出来ましたね」

「これも二人のおかげよ~。で、それはお土産にするのかしら?」


 それと言われて、イツハは手にしていた酸素マスクに目をやる。

 確かに思い出の品だが、持って帰る余裕はないだろう。


「いえ、ここに置いていきます。ただ、マスクに付属していたインカムは軽いので、こっちをお土産にします」

「イツハ様。差し支えなければ、私がお持ちいたしましょうか?」

「頼むよ」


 イツハがマァルナにインカムを渡すと、彼女は自身のわき腹の辺りを触れる。

 どうやら収納スペースになっているらしい。


「さてと……」


 イツハは酸素マスクを海へと放り投げる。

 もしかすると、シュザーの元へ届いてくれるかもしれない。

 傍から見ると不法投棄にしか見えないが。


「さて、先を急ぎましょ。夜になっちゃう前に」

「はい」


 イツハは返事をしながらも歩き出す。

 背後を振り返るも、撮影をしていた準天使達はどこかへと行ってしまった。

 思えばレースをしている最中は忙しかったせいか、途中で配信を停止させることも出来なかった。

 トラブルだらけだったが、果たしてファンの心を掴めたのだろうか。


「ええと、ポイントはっと――」


 イツハが配信アプリを操作すると、画面にポイント等が表示される。


 登録者:イツハ

 応援ポイント  :21050p

 累計応援ポイント:23266p

 ファン数    :  912名


 この数字に、イツハは大いに満足した。

 試練突破ボーナスが前回は3000pで、今回は5000pと段々と貰えるポイント数も増えていくようだ。


「いっちゃん。どんな感じ?」

「ファンの方もかなり増えています。ミュナおばさんはどうですか?」

「こんな感じね~」


 登録者:ミュナ

 応援ポイント  :213324p

 累計応援ポイント:316978p

 ファン数    : 17047名


「ファン数が一万七千人もですか!?」

「これもいっちゃんとルナちゃんのおかげね~」


 イツハが負けられないなと思っていると、隣でタブレットを見ていたマァルナがこんなことを言う。


「ミュナおばさま。累計ポイントとの差が10万ポイントもございますが……」

「あ、本当だ」

「それね~。ジェネックルとの戦いの時に使っちゃったのよ」

「なるほど。今後の強敵との戦いを考えると、ポイントの使いどころを考えないといけないということですね」

「節約もしないといけないのかしらね~」


 戦いは避けた方がいいかもしれないが、それだとファンの期待を裏切ることにもなる。

 一筋縄ではいかない戦いを考えると、イツハは気が抜けないことを改めて確信した。


「イツハ様、これからまた試練があるのでございますか?」

「いや、夜になると試練に参加が出来なくなるから、その前に休む場所を探さないといけないんだ」


 また、休める場所が都合よくあるのだろう。

 まるで家路を歩くような、疲れているけれどもどこか楽し気な足取りでイツハ達は進む。

 砂浜を抜けると、彼らの前には荒野が広がっていた。

 朽ちたガラクタ達がそこかしこに散らばっており、青い砂に呑みこまれているかのように埋もれていたりもした。

 その多くはかつて優雅に空を駆けていただろう航空機の類だった。

 プロペラのシャフトがへし折れたヘリコプターや、エイの姿にどことなく似ているステルス爆撃機の残骸がひっくり返っている。

 ここは墓場なのだろうか。

 何も語ろうとしない彼らの横を通り過ぎ、先へと向かおうとしたその時だった。


「あら?」


 ミュナが何かに気づいたようだ。

 その目線の先には塔に似ているが、よく見てみると機首から地面に突っ込んだ航空機の残骸だった。

 その残骸の近くに、二つの人影が見える。


「誰かいますね」

「行ってみましょ」


 いきなり戦いになることもないだろう。

 先程の試練に勝利したことで心の余裕があったのかもしれない。

 イツハ達が近づくと、彼らはまるで石碑の下で参拝しているようにも見える。

 足音で気が付いたのだろうか、彼らはイツハ達の方を振り向く。


「む、あなた様は――」


 声を掛けて来たのは紺色の作業着を身に着けた男だった。

 白髪交じりの黒髪で、茶色の瞳は死んだ魚のような目をしていた。

 背には籠を背負い、軍手と長靴、それに手にはゴミバサミを持っている。

 どこをどう見ても清掃活動に勤しんでいる最中のスタイルという他ないのだが、イツハには分かってしまった。


「神ですね。でも……」


 何だろうか、この奇妙な気迫は。

 今まで出会った神と比べると、どこか恐ろしい気配を漂わせている。

 イツハが自然と身構えていると、作業着の男は驚いた顔で話しかけてきた。


「よもや、ミュナ様でございますかねぇ?」

「もしかして、シューシャ?」


 お互いが驚きながらも名前を呼び合っている。

 そんなに長い間会っていないということなのかとイツハは推測した。


「力を封じられている関係かしら? すぐに気が付かなかったわね」


 よく見てみると、シューシャの腕にはイツハが見覚えのある輪っかが付けられている。

 ミュナと同じく力を抑えられた神ということは、恐るべき力を秘めているようだ。


「ええ、参ったものですねぇ。っと、ごめんねぇ」


 シューシャは隣にいた頭からフードを被ったローブ姿の子供に謝る。

 シューシャとコンビを組んでいる残されし者だろうか。素顔や性別は不明であり、アケルのような活気さもなければ、モモカのように強い意志を持って神命新天の儀に臨んでいるようには見えなかった。


「意外ね。あなたが神命新天の儀に参加するなんて」

「いえ、実は前からこの始まりへと続く終着点に興味がありましてねぇ。一応は神命新天の儀に参加はしていますが観光のようなものですねぇ」


 シューシャは航空機の亡骸を撫でながらも呟き続ける。


「ここには多くのガラクタがあり、それを見に来たのです。身共(みども)は決してあなた様や他の参加者の妨害はしませんので」


 観光というよりも、巡礼なのではないだろうか。

 悲しみと疲労の溜まったその両眼を見ていると、イツハはそんな感想を抱かずにはいられなかった。


「そうね。確かに見学にも来るのも分かるわ~」


 朗らかに笑っているミュナを見ていると、イツハはあることに気が付いた。

 初めてミュナの知り合いに出くわしたということだ。

 ミュナと比べると、少し変わっているが悪い神ではないことに彼は安心してしまう。


「ミュナおばさん、シューシャさんはどんな神様なのですか?」

「シューシャ、この子に言っちゃっていい?」

「ええ、身共は拾捨(しゅうしゃ)原罪(げんざい)の神です。よろしくお願いいたしますねぇ」

「拾捨と原罪……? ん、取捨(しゅしゃ)ではなくて?」

「ええ、よく勘違いされておりますねぇ。生きとし生けるものは生きていく過程の中で様々なものを拾い、そして捨てていきます。捨てられたものはどんな気持ちを抱いたままゴミ箱で泣いているのでしょうかねぇ」


 歌うように語り出すシューシャを見ていると、イツハは不思議と頷いてしまう。


「そして身共は生きとし生ける者が生まれ持っている罪を罰することが出来るのですねぇ」

「え――」


 イツハはぶるりと身を震わせる。

 今まで出会った神と比べると、次元の違う神権を持っているということなのか。

 しかし、それにしてはその外見からは威厳の欠片もないのが、イツハには納得出来なかった。


「す、す、凄い神様なんですね」

「ふふふ、大したことはないさ。こちらにいらっしゃるミュナ様と比べれば、私なんて壁に張り付いている虫のような存在なのさ」


 シューシャは急に声色と喋り方を変える。

 一体どうしたのかとイツハが身構えていると、ミュナはポンと自身の両手を叩いた。


「あ、その物真似そっくりね~」

「身共も練習したのですねぇ」


 どんな内輪ネタなのだろうか。

 それよりも、今サラッと恐ろしいことを言っていたような。


「えっと、ミュナおばさんはやはりとても偉い御方なのですか?」

「青年、偉いというのはどういう意味なのかねぇ?」

「え、それは、神位が高いとは別ですか?」

「神位はどっかの誰かさんが勝手に定義したものだからねぇ」

「では、宇宙を創ったりとか――そうだ、生命を創った神様がいるのでしょう?」


 その言葉に、二柱(ふたはしら)の神は驚いた顔をしている。

 イツハは変なことを言ってしまったのかと後悔する。

 ふと、マァルナにも意見を求めようとしたが、彼女が近くにいない。

 と、彼女がローブを着た子と一緒になって砂地にお絵描きをしていることに気が付いた。

 一体何の絵を描いているのだろうか。

 いずれにせよ、小さな子の面倒を見てくれるというのは彼には出来ないことだ。

 すると、シューシャはイツハにこう問いかける。


「青年。君は神についてどう思っているのかねぇ?」

「え? え、ええっと……」


 イツハは今まで出会った神のことを思い返す。

 個性的で、いい加減で、そして、自分らしく生きている――。

 否、神は生きてはいないのだ。

 そう思うと、彼は怒りに近い感情を覚えてしまう。

 短い人生を懸命に生きている人間をどうにも小馬鹿にしているような。

 トレンやジャガーノック、それにジェネックルの振る舞いを思い出し、彼は小さく拳を震わせる。


「正直な反応だねぇ」

「え、あ、すみません!?」


 イツハは頭を下げる。

 心が沸騰するような感情の高揚は何だろうか。

 昨日もあったが、爆発させないようにだけ気を付けねばと思っているとシューシャがこんなことを言い出す。


「ミュナ様。この青年は何者なのですかねぇ?」

「いっちゃんはいっちゃんよ?」

「ううむ……。なるほどですねぇ」


 白髪の混ざった髪の毛を掻きながらも、シューシャはイツハを注視する。

 もしかすると、この神様は自分のことを知っているのだろうか

 イツハが淡い期待を抱いていると――。


「ミュナ様。この青年に話しては如何でしょうかねぇ?」

「話すって、何のことかしら?」

「生命の起源の話ですねぇ」

「生命の――」


 ミュナはゾッとするような目線をシューシャへと向ける。

 やさしさが微塵もなく、ただただ死に絶えた海のように深く、そして氷塊のごとく冷え切っていた。


「そうね、頃合いを見ていっちゃんに話しましょ」

「え……」


 果たして、どんな話なのだろうか。

 聞きたいようで、聞きたくないようで。

 イツハが複雑な表情をしていると、ミュナは彼の心境を察したのかこう切り出す。


「そろそろ行きましょ」

「身共はここでのんびりとしております」

「じゃあ、私達は先を急ぐわね」

「で、では」


 ミュナ達は手を振ってシューシャ達と別れる。

 ローブの子はすっかりマァルナに懐いてしまったらしく、マァルナへと何度も強く手を振っていた。


「ルナちゃん、ありがとね」

「いえ、当然でございます」

「でも、観光目的の参加とは……」

「誰もが理由を持って参加しているってことよ」


 いや、そもそも新しい世界を賭けた戦いなのでは?

 イツハはそう思っていたが、新しい世界に興味がない神がいても不思議ではないのだろう。

 彼は飛行機の墓場を眺めながらも先へと進んでいった――。

謎多き神、シューシャ。

ところで、誰の物真似をしていたのでしょうか?

気になる方は、フレア少年のお話をお読みくださいね。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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