第二十六話 少女の覚悟
今回はジェネックルとコンビを組んでいる少女、モモカの視点から始まります。
さて、少女はどんなことを考えているのでしょうか?
それでは本編をどうぞ。
私はどうして無事だったのだろう?
モモカは不思議で仕方なかった。
あの大災害の中、どうして自分だけが生き残ってしまったのか。
運が良かったのか、それとも悪かったのか。
お父さんとお母さんはもうどこにもいない。
生きてはいないと思うだけで胸が張り裂けそうになるくらいだった。
「私が、私が頑張らないと……」
彼女の将来の夢はケーキ屋さんだった。
平和で平凡で、それでいて楽しい人生。
今考えると、あまりにも贅沢な願いだった。
腰かけている戦闘機のパイロットシートに座り直していると、どうして関わる予定がなかった乗り物に乗ってしまっているのかと不思議でならなかった。
『モモカ……。まあ、とりあえずゴールを目指すさ』
タブレットから聞こえてくるのはジェネックルという名のよく分からない神だ。
外見が怖いし、何よりも無理矢理な笑顔には嫌悪感すら覚えてしまう。
それでも、神命新天の儀というものに勝てば、新しい世界を自分の望むものに出来るというのは少女にとってとても魅力だった。
「勝てば、勝てば、私の望む世界が……」
歯を食いしばりながらも配信アプリに切り替えてみると、そこにはモモカを応援するコメントで溢れかえっている。
*モモカちゃん頑張って!
*凄いね、応援するよ
*無茶はしないで
沢山の人から同情されるとは思ってもいなかった。
だが、彼女は自分の安否を気遣うコメントが少々癪だった。
「今、今頑張らないでどうするの……」
頑張らなければ、望みは手に入らない。
家族も、帰る場所も、そして何もかもを失った少女は残酷な世界の真実を知ってしまった。
「私は大丈夫、大丈夫、大丈夫――」
呼吸を整え、少女は何度も何度も自分自身に言い聞かせる。
一度でいいから魔法を使いたかったな……。
そんな夢見がちな少女に与えられたユニーク技能はそんなメルヘンチックな物とは程遠かった。
≪心拍数正常――。目標地点へ向けて加速いたします≫
「急いで」
『モモカ、ちょっといいかい?』
「はい?」
低いジェネックルの声に、モモカは身を強張らせる。
嫌な予感がするし、声も聞きたくなかったが、少女には従う他に選択肢はなかった。
『ミサイルを撃つのさ』
「ミサイルって――」
『直接当てる必要はないのさ。あいつらを驚かせてやればいい』
「でも……」
『僕様々のお願いを聞いてくれないのかい?』
モモカはびくりと身を震わせる。
あの飛行機に乗っているのも悪い神でないのだろう。
しかし、躊躇っている暇はない。
配信を意識して行動しなければならないものの、この試練で勝たなければ後れを取ってしまう。
勝たなければ、勝たなければ……。
少女は心の中で何度も囁き、そして決心した。
「グリムクラウンさん。ミサイルを発射して。狙いは――」
◇ ◇
≪大将! 敵機がミサイルを撃って来やがった!≫
「何だって!? ええと、そうだ、囮弾を撃つんだ!」
≪アイアイサー!≫
ミサイルが直撃すれば一瞬のうちにシュザーは撃墜してしまうだろう。
イツハはモモカ達の容赦のなさに驚きつつも、必死に助かるための算段を立て続ける。
『いっちゃん! 囮弾とかいうので、ミサイルの片方が逸れたわ!』
「それはよかった――。ん?」
「イツハ様。ミサイルがもう一発来ているということでしょう」
「え」
イツハはメインモニターで後方を確認すると、確かにミサイルらしきものの影が確認できた。
≪ヤバイ! 大将、嬢ちゃん、それにおばさん! ちょいと手荒な飛行になりますぜ!≫
シュザーはそう言うと、機体を急加速させる。
「うおうっ!?」
猛烈な衝撃にイツハは変な叫び声が出てしまうも、彼はシートに体重を預けながらも必死に耐えた。
「マァルナ、大丈夫か?」
「私は無事です。イツハ様こそ、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ――うええぇっ!?」
今度はシュザーが宙返りを始めたらしい。
視界がひっくり返り、頭に血が昇っていく感覚がイツハを苦しめる。
頭上にはミサイルらしきものが高速で飛んでいくのが見えたものの、意識がぼんやりとしていく。
眩暈と吐き気で意識が飛びそうになる最中、誰かが彼に声を掛けてくる。
「イツハ様! 気をお確かに!」
『いっちゃん!?』
イツハは目を見開いて現状を確認していると、光の波がどうっと押し寄せて来た。
「うわっ!?」
ミサイルが爆発したのか――。
衝撃波から逃れるように、シュザーは再度加速し始める。
すると機体が揺れ、イツハの身体もまた右へ左へと揺れていく。
胃の中が酸性の液体で溢れるのを感じながらも、彼はどうにか生きていることに一安心した。
直撃こそしなかったものの、その威力は恐ろしいものだ。
仮に直撃したら、人間なんぞ木端微塵となるに違いない。
『皆、大丈夫!?』
「だ、だ、大丈夫です」
「私も機能に問題はございません」
≪旦那、かなり無理をさせちまってすみません! あのミサイルの弾道からすると、直撃させるつもりはなかったらしいですが、爆発の位置をもう少し考慮して貰いたかったですぜ≫
「そ、そうか……」
あくまでもレースであるためミサイルで対戦相手を蒸発させてしまったらそれこそ非難の嵐だろう。
それよりも、レースをする機体の武器を撤去しなかった神命新天の儀実行委員会の不手際でもあるが。
≪ミサイルの破片にも当たりそうでしたぜ……。ん?≫
「シュザー、何かあったのか?」
≪いえ、ミサイルをぶっ放した野郎にも破片が飛んで行ったんですが、その破片が一瞬にして消えちまったんです。お供の子機が何かをしやがったのか……≫
『しゅざーちゃん。いっちゃん。あっちの飛行機に先を越されちゃったわ!』
「ほ、本当ですか!? しまった、ミサイルは陽動だったのか……」
ミサイルの破片が舞う空域を強引に突っ切るとは。
イツハは愕然とする他なかった。
「何と恐ろしい陽動なのでしょう……」
≪す、すまねえ……。しかし、あんなに加速しちまって大丈夫なのか?≫
イツハとしても、モモカがすぐに体調を回復したのは不自然としか考えられなかった。
『無理をしているのかしらね。いっちゃん、ミーティングアプリでモモカちゃんと話してみたいのだけれどもいい?』
「分かりました。自分がモモカを招待してみます」
本来はビジネスや遠方の友人達との雑談が主なのだろうが、敵方を自分の部屋に招待するとは実に奇妙な気分だ。
イツハがミーティングアプリでモモカを招待してみると、すぐさま反応があった。
画面に表示されたモモカを見てみると、やはり本調子とは思えない。
『モモカちゃん。大丈夫なの?』
『私は、大丈夫、大丈夫、だから、心配しないで』
息を切らしながらも返答する様子を見ていると、イツハは何と声を掛けていいのか分からなかった。
この鬼気迫る気配は何だろうか……。
少女の抱える重い感情が見え隠れしている。
彼は息を呑んでいると、ミュナがモモカへと話しかける――。
モモカもまた覚悟を持って神命新天の儀に挑んでいるようです。
次回をどうかご期待ください。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




