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第二十五話 灰と弾丸

ジェネックルの猛攻でピンチなミュナおばさん。

果たして、この危機をどう乗り越えるのでしょうか?

 ジェネックルは実に爽快だった。

 正論の名の元に叩きのめすのはとても愉快で、この配信を見ている視聴者もまた楽しそうな反応を返してくれる。

 新しい世界は正論がまかり通り、そしてそれに逆らう者はこのように処罰していけばさぞ愉快なものになるだろう。

 心の中で吹き荒れる勝利のファンファーレと共に、ジェネックルはこう叫ぶ。


「抵抗しても無駄なのさ!」


 ジェネックルの目の前ではミュナは膝を折っていた。

 本来ならば簡単に戦闘機上から叩き落とせるが、それでは面白味がない。

 弱者は徹底的に叩かなければ。

 ジェネックルにとって、弱者にはそれぐらいの価値しかないのだ。


「抵抗は得意なのだけれども」

「無様なすがたを晒しても意味がないのさ~」

「その言葉、そっくり返すわね」


 ジェネックルの胸中で、再度ファンファーレが鳴り響く。

 いや、これは祝砲だろう。

 ジェネックルがそう思っていた時だった。


「む?」


 今の足場にしている機体が加速したかと思いきや、その直後にわずかだが下降する。

 不自然な動きに、ジェネックルは小首を傾げた。


「これの何が――。は!?」


 ミュナは待っていましたとばかりに灰を振り撒いたかと思いきや、その灰を突き抜けながらも高速の何かがジェネックルの身体に突き刺さった。


「何これ? これは何なのさ――」


 ジェネックルは怯む。

 勝利の余韻に浸っている最中に外野から石を投げられれば誰もがムッとするだろう。

 そして、次に考えるのは当然ながらも石を投げた犯人を探すことだ。

 ただ残念ながら今は戦いの真っ最中であり、大きく隙を見せたジェネックルに対してミュナはやにわにスリッパを構えた。


「そこよっ!」


 ミュナのスリッパによる頭部への一撃を――ジェネックルは回避した。

 油断はしていてもその動きは風のごとく素早い。


「甘いのさ!」


 上体を大きく仰け反り、ジェネックルはドヤ顔で返答する。

 最高に決まっているさ――!

 そんな余裕すらもジェネックルにはあった。


「えい」

「ありゃ?」


 ジェネックルは足に衝撃を受けたかと思いきや、自身の身体が戦闘機の上から落とされたことに気が付く。

 調子に乗りすぎるのは良くないことだろう。

 ジェネックルはやってしまったなという顔をし、真っ逆さまになりながらも落下していく。

 神である以上落下による消滅など到底あり得ないのだが、それでも嫌な気分であることには変わりない。


「あれは、どこから飛んできたのさ?」


 首を傾げながらも、ジェネックルは真下にある青い水源へと徐々に近づいていることを自覚した――。


                 ◇         ◇


 ミュナとしては増長しすぎて失敗した先例をつい先程見たばかりであった。

 ミュナの足払いにより、ジェネックルは勢いよく空へと投げ出されていった。

 神ならば高度から落下した程度で消滅はしないため、失礼なことを言ったジェネックルを反省させるにはちょうどよいかなとミュナは思っていた。


「さてさて」


 ミュナはエプロンのポケットからタブレットを取り出して、起動していたミーティングアプリでイツハへと話しかける。


「いっちゃん。ありがとうね」

『いえいえ。ミュナおばさんは大丈夫ですか?』

「私は大丈夫よ~。ジェネックルは――あらあら」

『どうしたんですか?』

「えっと、モモカちゃんがジェネックルを助けに行ったみたいね~」


 ミュナはグリムクラウンが勢いよく下降していくのを見ながらもイツハへと報告した。


『また襲ってくるかもしれませんね』

「その前にさっさとゴールしちゃいましょ」

『はい』

「それにしても……。いっちゃんの作戦には驚いたわ」

『いえ、ミュナおばさんも自分の考えを察していただいて何よりです』


 イツハの作戦とは実に無謀なものだった。

 下手をするとイツハの脳天に風穴が空いていたかもしれない。


≪まさか機銃を発射後に、機体を加速させることで銃弾をあの野郎にぶつけるなんざ。曲芸師というよりもギャンブラーの仕事ですぜ≫


 タブレットから聞こえてくるシュザーの声を聞きながらも、ミュナはこう答える。


「ありがとうね、しゅざーちゃん。でも、自分の撃った弾に当たっちゃうことってあるのかしら?」

≪実はあるらしいんですよ。そうならないよう、機銃を撃った後はきちんと弾道を計算した上で飛行しているんですぜ。今回はその弾道をあの野郎に合わせたんですがね≫

「凄いのね~。それにしても、いっちゃんも無理をしすぎよ」

『いえ、あのままミュナおばさんが一方的にやられる姿は見ていたくなかったんです。でも、ミュナおばさんもすぐさま灰で対応されていましたね』

「そうね。普通の銃弾ならば神にはかすり傷も負わせられないもの。一時的に振りまいた灰で銃弾に力を与えたことで何とかジェネックルを怯ませられたのよ」

『ミュナおばさまはあの一瞬でそこまで判断されたのでございますね』

「ふふん、おばさんの勘よ」


 ミュナとしては不思議だったのが、機銃の発射音に対してジェネックルはどうして恍惚の表情を浮かべていたのか。

 何かと聞き間違えていたのかなとミュナは思うことにした。


≪さて、あのおっかねえ攻撃機のあんちゃんは後ろだ。加速しても大丈夫ですかい?≫

「私は大丈夫だけれども、いっちゃんは大丈夫なの?」

『いえ、大丈夫です。恐らく、自分の身に着けているスーツのおかげかもしれません』

「そうなのね」


 ミュナはそう答えてからのんびりと空を眺める。

 どこまでも広がっている青い空を見ていると、先程の戦いで荒ぶった心が段々と落ち着いて来る。

 そして、ジェネックルから言われたことを思い出し、ミュナは自身の格好を改めて確認してみる。


「うーん、そんなにはしたないかしら?」


 お気に入りのエプロンを撫でながらも、ミュナがその場をクルリと小さく回転している時だった。


「あら?」


 通知音が鳴ったためミュナがタブレットを見てみると、モモカが再度ミーティングへ入室してきたらしい。

 どんなお話なのかしらと思いながらも、ミュナはモモカの言葉を待つことにした。


『こ、こんにちは……』

「こんにちは。あらあら、ジェネックルはどうしたのかしら?」

(へそ)を曲げている、みたいです』

「それは可哀そうね。それで、私達と話したいことがあるの?」

『はい。先を行かせて、貰います』

「そうなのね」

『近づいたら、撃ち落とし、ます』

「あらあらあら。怖いことを言うのね?」

『私、勝ちたいから……』


 モモカは小さく呟く。

 酸素マスク越しでもその目には負けたくないという意志が見て取れる。


「困ったわね~」


 ミュナとしては不要な争いは避けたかったものの、この様子ではそれも難しいようだ。

 後方を見てみると、グリムクラウンが戻ってきている。

 シュザーとの航行速度を比べると、やはりグリムクラウンの方が上回っているらしい。


≪心拍数の増加を確認。身体に相当の負荷が掛かっております。パイロットの安全を優先し、航行速度を低下――≫

「あら?」


 この独特な声はグリムクラウンのものだ。

 その声に反論するかのように、モモカは急いでこう答える。


『待って、私、大丈夫だから――』

≪バイタルチェック――。体調不良と判断。現在の作戦任務は最短距離での目的地点までの到着でしたが、パイロットの人命を優先。加速を中断します≫

「お願い――!」


 モモカの懇願も虚しく、グリムクラウンは速度を緩めていく。

 そしてモモカはミーティングから退室していったらしく、ミュナはイツハと話し合うことにした。


「いっちゃん。モモカちゃんのことだけれども……」

『大丈夫でしょうか……』

≪それにしても、融通の利かない人工知能なんですな≫

「でも、どうしてモモカちゃんが危険な状態になったのかしら?」

≪おばさん、いくら耐Gスーツを着ていようが子どもには急加速による負担は辛いんですぜ。失神、あるいはもっと酷いことになってもおかしくないですぜ≫

「なるほどね……」

『向こうの機体性能が上だったとしても、そんなに差を付けられるということはなさそうですね』


 シュザーとイツハの話を聞いて、ミュナは安心してしまう。

 これで懲りてくれたらいいのだけれども……。

 しかし、ミュナはハッと気づかされる。

 人間とは諦めの悪い生き物なのだ。

 そのことを、ミュナはよく知っている。

 そこから多くのことをミュナは得たのだから。


「まだまだ、勝負は終わりそうにないわね」

ジェネックルの撃退には成功しましたが、まだまだ戦いは続くようです。

果たして、レースの勝利者はどちらになるのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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