第二十四話 高々と拳を振るう者
ジェネックルに喧嘩を売られたミュナおばさん。
まさか、戦闘機の上での戦いが繰り広げられることに。
果たして、どちらが勝つのでしょうか!?
ジェネックルは跳躍して強引にミュナの隣へと飛び移ったらしい。
今更神の身体能力についてとやかく言っても仕方ないが、少しは人間に合わせて自重してくれてもいいはずだ。
そんな愚痴を言いそうになりながらも、イツハは急いで配信アプリを操作し、ミュナを撮影している準天使のカメラの視点を表示させる。
すると、二柱の神はちょうど向かい合っていた。
ジェネックルの背丈はミュナよりも若干低いものの、その独特の笑顔は奇妙な威圧感を放っていた。
『お手柔らかにお願いするわね』
『努力はしてみるさ!』
ジェネックルはシャドーボクシングをしながらもミュナを挑発している。
イツハは失礼だなと思っている一方でミュナは平然としており、相手のペースに乗せられないという意志を感じた。
『それじゃあ、喰らうのさ!』
ジェネックルは拳を叩き込もうとするのに対し、ミュナはスリッパでの防御を試みる。
素早い攻撃だが、ミュナはしっかりと対応できている。
これならば防げるだろうとイツハが思っていたのだが――。
『スリッパは――履くものさ!』
そう叫んだ後にジェネックルが短く唱えると、拳が輝き出す。
周囲の光を一か所に集めたかのようで、イツハは思わず目をつむってしまう。
『きゃっ!?』
ミュナの悲鳴に驚きイツハはタブレットを見てみると、何とジェネックルの拳がミュナのスリッパを弾いていた。
ミュナはスリッパを離すまいと体勢を崩した瞬間、ジェネックルはすかさず拳の連打を叩き込む。
『くっ!』
ミュナはどうにか腕でのブロックを試みるが、ジェネックルの猛攻の前にその防御が何度も崩れそうになる。
『履物でどうして殴るのさ!』
『し、仕方ないじゃないの~』
ミュナは口を尖らせながらも猛攻を何とか防ぎ切ると、キッとした目つきでジェネックルを睨む。
『これは神魂術ね』
『そうさ! 僕様々は正論と鉄拳の神! 正論がお前の心を打ちぬくのさ!』
ジェネックルが高笑いをしながらも、タブレットを操作する。
『一気にトドメを刺してやるさ! 力を十倍に引き出してやるさ!』
ジェネックルの身体から勢いのある光が放たれている以上、十倍というのは本当なのだろう。
『視聴者の皆~! 僕様々の応援よろしくさ!』
すると、大きな声援がジェネックルを包み込むように広がる。
さしものミュナもこのアウェーな空気に押されているようだ。
『そもそもその格好も――』
ジェネックルは腰を低くしてから、拳を大きく引く。
明らかに力を溜めているようだ。
『少し、はしたないのさ~!』
ジェネックルが自身の拳で殴りつけるかと思いきや何も起こらない。
ミュナがほんのわずか、防御を解いたその瞬間だった。
『えっ!?』
ミュナの右手方向から唐突に巨大な拳の形をした鉄塊が現れる。
不意の一撃だったためか、ミュナに成すすべもなく鉄拳が直撃した――。
『くっ――。そんなにはしたないのかしら?』
危うくミュナは戦闘機の上から落ちそうになるも、何とか持ちこたえたようだ。
「イツハ様はどう思いますか?」
「え……」
マァルナに突然話を振られ、イツハは戸惑う。
ミュナはドレスの上からエプロンを身に着けているものの、確かに胸元の露出部分が気になってしまう。
というよりも、ドレスの背面の布の面積が妙に少ないのだ。
エプロンに施されている珍獣の刺繍とのギャップ差があまりにも大きく、ミュナという存在が何なのか疑問を抱かせる要因の一つと言っても過言ではなかった。
「何故に頷いているのでしょうか?」
「いや、ごめん! それよりも、ミュナおばさんを助けないと!」
タブレットを見てみると、ミュナが追い詰められている。
ミュナもまたタブレットを操作しようとするも、そうはさせまいとジェネックルは攻撃の手を緩めようとはしない。
≪大将! 間違ってもキャノピーを開けろなんざ言わないでくださいよ!≫
「分かっている。でも、どうすれば……」
「シュザー様。搭載されている武装をお教えください」
≪嬢ちゃん、悪い。機銃と空対空ミサイル、あとは後方にばらまくかく乱用の囮弾ぐらいだ。くそっ、不甲斐ないな≫
「機銃とミサイル……」
イツハはコクピットのメインモニターをちらりと見ると、後方には敵機のグリムクラウンがピタリと張り付いていた。
ジェネックルがシュザーの上にいる以上、流石に攻撃はしてこないだろう。
逆にグリムクラウン相手に喧嘩を売ることで、注意を逸らせないものか――。
イツハはそう考えてから、心の中でかぶりを振る。
恐らく、機体のスペックはグリムクラウンの方が上だろう。
下手にモモカを刺激し、機銃のボタンを押させるのはあまりにも危険だ。
「どうすれば――」
タブレットには苦戦を強いられているミュナの姿が映し出されている。
こういう時こそ、ミュナのような大胆なアイデアが――。
「シュザー。機銃は撃てるのか?」
≪ええ、勿論ですぜ≫
「頼みたいことがあるんだ――」
イツハは小声で自分の考えをシュザーへと伝える。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、そしてとんでもないアイデアだということは分かっている。
どうしてこんな考えが浮かんでしまったのか。
自虐的な笑みを隠すように彼が唇を噛み締めている時だった。
≪出来ますぜ≫
「本当か!?」
≪早速やりますか? ただ、事前に遺書を書くのをオススメしますがね≫
「そんな時間はないかな。マァルナ、その――」
イツハが申し訳なさそうにマァルナの方を向くと、彼女は少しも嫌がる様子はなかった。
「シュザー様。私からもお願いいたします」
≪へっ、実に焼けますぜ。お二人共、姿勢は可能な限り低くしてくださいよ≫
シュザーの言葉を受け、イツハは姿勢を低くする前にキャノピーの上部を叩いてミュナにそれとなく合図を送った――。
大ピンチなミュナおばさんを救うべく、イツハはどんな作戦を実行するのでしょうか?
次回、第三章第二十五話灰と弾丸――!
どうかご期待ください!
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




