第二十三話 銀色の翼で
戦闘機のシューティングフェザーと共に目的地まで向かうミュナおばさん御一行。
果たして何のトラブルもなく、ゴールへと辿り着けるのでしょうか?
≪管制塔との連絡も出来ないし、天気も確認出来ないのは不満ですがね。じゃあ、加速しますが、おばさんは大丈夫ですかい?≫
イツハは早口で喋り出すシュザーの声を聞いていると、ミュナはニコニコと笑いながらもイツハへと手を振っている。
≪まったく、妙なフライトになっちまったな。段々と加速していきますぜ≫
飛行するためには翼に揚力を得る必要があり、揚力を得るためには加速しなければならない。
イツハは自身の身体に段々と加速度がかかってくることを感じていると、機体が徐々に上昇していく。
彼がチラリとコクピットから外を見ると、ミュナは平然と翼の上に座っていた。
≪これはたまげたぜ……。なあ、大将?≫
「あ、ああ……」
今もなお高度を上げ続けている中、ミュナは風圧をものともしない。
金色の髪がそよ風に吹かれているように靡かせ、後ろからついて来る準天使達に手を振っている。
戦闘機の上に乗りながらのんびりと空の旅というのは神だけに許された行為なのかもしれない。
イツハは羨ましいなと思っていると、シュザーが話しかけてくる。
≪大将、どういった目的で神様と素敵な友達を連れているんですかい?≫
「あ、ああ。実は――」
イツハはこれまでの経緯をシュザーへと簡単に話す。
サメやらリヤカーでレースをしたという話は、シュザーの人工知能が重大なエラーを引き起こしそうなため流石に止めておいた。
≪なるほど、新しい世界を決めるために配信で対決をされる、と。世が末だから許される対決ですな≫
「そうだな……。って、マァルナ。大丈夫? さっきから何も喋っていないけれども」
「大丈夫でございます」
棒読みな返答にイツハは違和感を覚えるも、しつこく聞くのは止めておくことにした。
「おっと、そうだ」
イツハはタブレットを操作し、ミーティングアプリでの通話を始める。
「ミュナおばさん。聞こえますか?」
『はーい、聞こえるわよ~』
画面ではミュナがタブレットへ向かって手を振ってくる。
『何かあったのかしら?』
「いえ、もしもの時に備えて確認をした方がいいと思いまして」
『もしもの時ね。そうそう、下の方で何かの気配があるのだけれども』
「け、気配ですか? シュザー、レーダーに反応は!?」
≪大将、反応なんざありゃあしませんぜ≫
「いや、ミュナおばさんを信じたい。敵機が迫ってくるかもしれない」
≪了解ですぜ≫
イツハは迫り来る戦いの予感に身を震わせる。
戦闘機での戦いとなると、どんなに激しい空中戦となるのだろうか。
ミサイルが直撃すれば、命の保証はないだろう。
≪大将、墜落しそうになったら座席を射出させますぜ。だから、色男らしくドンと構えてくださいよ≫
「あ、ありがとう」
しっかりしなければと、イツハが思ったその時だった。
『いっちゃん! 来たわよ!』
≪な!? 後方のカメラにて確認しましたが、ありゃあ何ですかい?≫
「え? 一体何が来ているんだ?」
≪メインモニターに表示させますぜ≫
イツハの前にあるモニターが点灯すると、そこに表示されていたのは――。
「敵機か――!?」
イツハは驚愕する。
見た目は戦闘機なのだが、見れば見るほど違和感がにじみ出てくる。
まず目を惹くのが、炭のように真っ黒な塗装だ。
特殊な塗装なのかは分からないが、少なくともレーダーに反応しない何かしらの対策がしてあるに違いない。
「しかし……」
準天使が後方におり、おまけに主翼の上で身構えている武道着を身に着けた人影(神以外に考えられない)がいる以上、神命新天の儀の参加者に違いない。
それよりもイツハは敵機に随伴して飛行する物体が気になって仕方なかった。
機体を守っている直掩機にしてはあまりにも小さく、球体のボディに重火器のようなものが取り付けてあるようだ。
そもそもその球体には翼と推進器がないというのに、どうやって飛行しているのだろうか。
「ん? タブレットからの通知だ」
もしやと思ってイツハがタブレットの画面を見てみると、【ユーザー名:ジェネックルから連絡が入りました。今行っているミーティングへの入室を許可しますか?】と表示されていた。
「ジェネックルって誰だ?」
恐る恐る表示されているアイコンを見てみると、そこにはハチマキをしたいかつい男性の姿があった。
戦闘機のメインモニターに映っている敵機の上にいる姿を見比べてみると、神に違いない。
「話をしないといけないのか……」
今現在、ミーティングのホストはイツハとなっており、許可の権限も彼が持っている。
彼が恐る恐る【許可】のアイコンをタップすると――。
『やあやあ! どうぞよろしく頼む!』
開口一番大きな声が響いて来る。
ジェネックルは爽やかに笑おうとするも、顔に筋肉が寄ってしまっているせいで周囲に恐怖を巻き散らしてしまっている。
「ん?」
次に、モモカという人物からの入室の申請が来ている。
すかさず同じように許可を出すと、酸素マスクを被った人物がタブレットに表示され、蚊の鳴くような声が聞こえて来た。
『よろしく、お願いしま、します!』
ジェネックルとコンビを組んでいる残されし者なのだろう。
声から察するに女の子らしいが、酸素マスクのサイズが合っていないらしく、しきりに頭を振っている。
『よろしくね~。で、一体どんなご用事かしら?』
『可能であれば戦ってみたいと思っているのさ!』
『乱暴ね~』
『いやね、僕様々のファンが戦いを望んでいるのさ!』
爽やかな話し方を心がけているのだろうが、話している内容は無茶苦茶なものだ。
相手をサンドバッグにしてそれで人気を得ようというのだ。
信者を片っ端から集めるには最適な方法だろう。
だが、サンドバッグにされた方は溜まったものではない。
信者の広告塔として全身の骨が砕かれるまでに殴打され、挙句の果てには梟首にされることもあるのだから。
「もし、断った場合はどうなるのでしょうか?」
『それはおすすめしない。僕様々の乗っているこの船は――えっと、なんだ?』
『はい。えとえと、お願いします』
誰にお願いするのだろうか。
イツハが様子を伺っていると、機械音声が聞こえてくる。
≪当機は敵陣営制圧のために製造された広域制空特化型戦闘機です。開発元はオールオーバー社。機体名はF/O‐28。軍の公式愛称はグリムクラウンとなります≫
タブレット越しに回答しているのはモモカとジェネックルの乗っている攻撃機――グリムクラウン自身だろう。
あまりにも情報が多すぎるためイツハは混乱してしまうが、要するにとんでもない機体だということだ。
『ということさ! 他にも何か凄いのさ!』
≪はい。機銃や空対空ミサイルを装備しております。また、高感度レーダーを搭載した防衛用子機を直掩させております≫
「ぼ、防衛用子機?」
≪大将、物騒な奴が来ましたぜ。しかも子連れだそうで≫
「ああ、そうみたいだね……」
制空権を確保するためには、やはり敵機を破壊する力が求められる。
下手をするとシュザーよりも空中戦において優位なのかもしれない。
そして、向こうも人工知能を搭載しているため、操縦の技術での勝負も出来なさそうだ。
「いや、そもそも人工知能を搭載しているのならば有人機である必要がないような……」
≪大将、有事に備えるためには無人機だけでは対応が出来ないこともあるんですぜ≫
「そうなの?」
≪そうですぜ。もしかすると、巨大怪獣と戦うことがあるかもしれないですからね≫
「なるほど……」
イツハは素直に納得してしまう。
現にシュザーは神と出会ってしまっているのだ。
怪獣がどこかにいてもおかしくはないだろう。
『まあ、そういうわけさ! お前達の飛行機がボコボコにされたくなければ、勝負勝負!』
『仕方ないわね~』
ミュナは呆れた顔で頷いている。
まるで子どものわがままに仕方なく付き合ってあげるといった様子だ。
「ミュナおばさん、勝てるんですか?」
『大丈夫よ。だって、私はおばさんなのだから』
ウインクを返すミュナを見ていると、イツハは少し心配してしまう。
『で、どこで戦うのかしら?』
『そっちの飛行機の上にしよう、そうしよう!』
すると、ミーティングから強引に退室したらしく、タブレットの画面からジェネックルの姿が消えてしまう。
「こっちの飛行機の上で、だって?」
まるで隣近所の子供が遊びに来るかのような言い方だ。
そもそも、互いの戦闘機は今も高速で空を移動している。
どうやってこちらまで来るのかと、イツハが考えていると――。
≪大将! 変な奴が機体の上に飛び乗って来やがった!≫
「な、何だって!?」
神々の喧嘩の売り方にもマナーというものがあるのだろうか。
少なくとも、一言断りを入れてくれただけでもまだマシな方なのか。
いずれにせよ、どんなにマナーが良かろうとも巻き込まれる人間の気など知る由もないに違いない。
やはり敵が現れてしまったようです。
ジェネックルとモモカ、それにグリムクラウン相手に、ミュナおばさん達は勝てるのでしょうか?
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




