第二十二話 次の舞台は大空へ
前回、増長と暴走の神であるジャガージャックに勝利したミュナおばさん御一行。
次なるレースはどういったものになるのでしょうか?
それでは本編をどうぞ。
――海を越え、大地を駆け、そして天空の先に辿り着きし者が試練を成し遂げる。
その言葉が正しいならば、イツハ達は苦難の末に海と大地を制した。
残すは天空なのだが、どのようなレースが待ち受けているのだろうか。
イツハはこれまでサメを操り、リヤカーの荷台の上で賑やかな時間を過ごした。
何が待ち受けているのかと思い、彼が辺りを見回すとハンガーらしき建物が何棟か見える。
「ここは空港か?」
放置されているヘリコプターは大きさからして兵員輸送用のものだろうか。
ガラクタの類なのだろうか、錆が浮いている機体を見ていると飛行は難しいかもしれない。
イツハはリヤカーの荷台の上で身構えていると、タブレットから通知音が聞こえた。
「新しいルールのお知らせか。えっと――」
イツハはメッセージを読む。
そして、思わず叫んでしまった。
「えっ!?」
イツハは思わず叫んでしまう。
すると、ミュナはゆっくりとその場で停止した。
「いっちゃん?」
「イツハ様。何が書かれていたのでございますか?」
「次のレースなのですが、飛行機に乗ってレースをするそうなんです」
「飛行機……。いっちゃん、操縦できる?」
「いえ。技能で習得出来るかどうか……」
「いざとなったら、私が操縦を試みます」
「マァルナ、その時は頼むよ。あとミュナおばさん」
イツハは荷台を降りながらも、ミュナへと話しかける。
「なあに?」
「ルールによると、ハンガーを一つ選んでくださいとのことです。どんな飛行機が格納されているかは分からないそうです」
「くじ引きみたいなものね」
マァルナもイツハを真似して荷台から降り立った。
そして、二人して期待を込めた目でミュナを見つめる。
「え、ひょっとしておばさんが決めるの?」
「お願いします」
「ミュナおばさまならばきっと良い飛行機をお選びになるかと」
「責任重大ね~」
ミュナはリヤカーから離れ、ずらりと並んでいるハンガーに目を向ける。
やがて、ミュナは一番離れているハンガーへと向かって行った。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「ええ、これにするわ。どうやって開くのかしら?」
「これはもしかすると……」
入り口のシャッターは閉まっていたが、イツハがタブレットを近づけるとゆっくりと開き始める。
「さあて、どんな子がいるのかしらね?」
ミュナがハンガーの中に入ると、それに反応してか照明が瞬時に点灯する。
果たしてどんな飛行機なのだろうか。
イツハがハンガーの中央に目をやると、そこには――。
「あれは――戦闘機じゃないか!?」
イツハは思わず力を込めて叫んでしまった。
目の前の流線型のフォルムと銀色のカラーリングは彼の目を惹きつける。
戦闘機の知識はないものの、どんな風をも裂いて飛べそうな銀色の主翼を見ていると、興奮が収まりそうになかった。
二枚の垂直尾翼には国旗らしきものがペイントされ、武装を搭載している点からも単なる趣味で作られたおもちゃではなさそうだ。
「いっちゃん。この穴は何?」
「それは機銃の銃口ですね。そこから高速で銃弾を発射するんです」
「じゃあ、この翼に付いているのは?」
「それはミサイルですね。標的に着弾すると同時に爆発します」
「物騒ね~」
イツハとしても物騒だなと思ってしまうが、いずれにせよ神相手には通用しない兵器であることには違いない。
「それにしても、これはガラクタなのか……?」
イツハは神命新天の儀において多種多様なガラクタと出会ってきたが、廃棄されたにしてはあまりにも状態が良すぎる。
どちらにせよ、途中で墜落という悲惨な事態にはならないだろう。
「いっちゃん。これに乗ってレースをするの?」
「はい、そのようです。ん、戦闘機でレース?」
イツハ自身疑問に思うが、サメやリヤカーと比較すると戦闘機でレースをするのがごく普通なことのような気がしてきた。
届いたメッセージにはハンガー内に入っている飛行機で指定されたポイントまで飛行するようにと書かれていた。
戦闘機を見てみると複座型になっており、二人までならば乗ることが出来るのだが――。
「二人しか乗れないとなると……」
「当然、私は戦闘機の上に乗ることになるわね~」
――暫時の沈黙。
イツハは引きつった笑いを抑えながらもこう返す。
「いや、物理的に無理です! ミュナおばさんが風圧で吹っ飛んでしまいます!」
「いやね~、おばさんが風圧程度で飛ばされる訳ないじゃないの~」
ミュナは手で口を覆いながらも、お上品に笑う。
よくよく考えれば、物理法則がおばさんに通用する訳もない。
風だけでなく炎すらもおばさんパワーの前では無意味なのだから。
「そ、そうですよね。結構旧式みたいですが、早速操縦を――いや、どうやって動かすんだ?」
イツハがコクピットのキャノピーに触れるも、そもそも外側からどうやって開くのか。
通知か何か送られているのかと思い、彼がタブレットを操作しているその時だった――。
≪おいおい、ベタベタ触るのはやめてくれよ。俺はあんたの恋人じゃあねえんだぜ≫
唐突な声に、イツハは言葉を失う。
「いっちゃん?」
「じ、自分じゃないです! もしかして、この戦闘機が――喋った!?」
≪ああ、喋ったさ。自慢じゃないが、こちとら人工知能を搭載していてね≫
声は無機質なのだがやたらと流暢に喋る。
なるほど、命を預ける機体だからこそ、多少フレンドリーな方が死ぬ間際まで退屈はしなくて済みそうだ。
「凄いのね~。私はミュナ、こっちの子がイツハこといっちゃんで、こっちの子はマァルナことルナちゃんよ」
≪これはこれはご丁寧に≫
「そうそう、私のことはおばさんって呼んでちょうだい」
≪了解、おばさん≫
この対応にはイツハも驚いた。
何の抵抗もなく、すんなりとおばさん呼びを受け入れるとは。
彼が只者でないなと確信していると、ミュナは嬉しそうにこう尋ねる。
「ありがとね。それで、あなたのお名前は?」
≪俺、ですか? こう見ても試験機でしてね。開発名は確かシューティングフェザーでしたか。まあ、お好きに呼んでくれて構いませんぜ≫
「好きに読んじゃっていいのね? じゃあ、しゅざーちゃん!」
≪レディーにちゃん付けされるとは思いませんでしたぜ。まあ、悪い気はしませんがね≫
「えっと、じゃあ、そのシュザーと呼ばせて貰うよ。行って貰いたい場所があるんだけれども大丈夫かな?」
≪構いませんぜ、大将。ちょうど予定が空いていたところですぜ。立ち話もなんですから、乗ってくださいよ≫
シュザーがそう言うと、キャノピーが静かに開いた。
前方の操縦席にはイツハが乗り、後方の支援用の席にはマァルナが座ることになった。
≪ん、おばさんは留守番ですかい?≫
「私は翼の上にいるから大丈夫よ。そうそう、おばさんはこう見ても、神と呼ばれる存在なのよね」
≪目覚めたばかりで流行りの冗談が分からなくてね。大将、マジかよ?≫
「そうなんだ。自分も信じられないんだけれども」
「そうね。こんな感じの力を持っているわよ~」
ミュナが早口で神魂術を唱えると、どこからともなく灰が降り注ぐ。
その灰はミュナが指を動かすと、まるで生き物のように踊り出す。
≪おお、これは驚いたぜ。しかし、神ですか……≫
「その口ぶりですと、シュザー様は神々について何かご存じなのでございますか?」
≪いや、どうだったかね。で、フライトは急がなくていいのかい?≫
「そうだ、急がないと。場所はここなんだけれども――って見える?」
イツハは持っていたタブレットにゴールの場所を表示させる。
空港の場所とゴールまでの距離、そして高度が書かれていた。
≪バッチリ見えていますぜ。忘れ物がなければ今すぐにでも出発出来ますぜ≫
「そうだ、武装について聞いておきたいのだけれども」
≪いいですぜ?≫
「えっと、機銃は超速電磁式のもの?」
≪はい?≫
「え? じゃあ、ミサイルは反物質性だよね?」
≪へ? 大将、冗談がキツイですぜ。そんな大層なものじゃないです。30ミリ口径の機銃と、直撃すれば敵機を沈められる程度の空対空ミサイルですぜ≫
「あれ? あれ……」
何故こんな物騒なことを言ってしまったのか。
イツハはとっさに笑いながらもこう返す。
「も、勿論冗談だよ。うん、ごめん」
≪やれやれ、もう少しユーモラスな冗談を頼みますぜ。では、キャノピーを閉じるので、手を挟まないよう気を付けてくださいよ≫
キャノピーが閉じたのを確認してから、イツハは改めてコクピット内を確認する。
マニュアルでも操縦できるよう操縦桿はあるが、操縦はシュザーに任せた方がいいだろう。
≪大将。酸素マスクがシートの横にあるから使いな。彼女の方は必要ないかもしれないが、ペアルックは出来ますぜ≫
「いや、その彼女じゃ……」
「彼女――」
イツハが後ろを振り向くと、顔を硬直させている。
≪おっと、友達以上恋人未満でしたかい? どちらにせよ、人の女に手を出す趣味はないんで、安心してくださいよ≫
「ははは……」
≪それじゃあ、楽しいフライトを始めますかね。座席に座っているお二人さんはシートベルトを締めてくれよ。ところで、大将が今着ているのは耐Gスーツみたいなもんかい?≫
「あ、どうなんだろう?」
≪おいおい、大将。自分の着ている服のブランドを忘れるなんざ、色男の所業じゃねえですぜ≫
「実はその、記憶がないんだ……」
≪ああ、そいつはすみませんね。加速の衝撃が辛かったら遠慮なく言って貰っていいですぜ≫
「ありがとう」
のんびりと空を飛行している余裕もないだろう。
イツハはそんなことを考えながらも、座席に備え付けられているシートベルトで自身の身体を固定してから酸素マスクを被っていると、マスクからシュザーの声が聞こえる。
≪大将、マスクのノズルをシートの近くにあるホースへ繋げてくださいよ≫
「わかった」
マスクの中にはインカムが入っており、これでもシュザーと通信が可能らしい。
イツハが言われた通りにすると、またもシュザーが話しかけてくる。
≪さあ、出発と。おっと、後ろにいるカメラを持っているちっこいのは、大将のおっかけですかい?≫
「あ、それは準天使で、彼らが今の状況を配信しているんだ」
≪へえ、そいつは随分と素晴らしい。配信で得た投げ銭はきっと寄付に回してくれるでしょうな≫
軽口を叩きながらもゆっくりとだがシュザーが動き出す。
機体下部のタイヤを走らせているようだ。
そして、開いたシャッターから抜け出ると滑走路へと向かっていく。
雲一つない空を見上げると、普段ならばスッキリとした気分になるだろう。
だがしかし、今のイツハはその空を見るのが怖かった。
膨大な不安がどっと振って来そうな、そんな嫌な予感に彼は小さくため息を零した――。
まさかの戦闘機でのレースとなるようです。
新たな仲間シューティングフェザーと共に、今度は大空の旅になりそうです。
余談ですが、作者はシュザーのキャラを大変気に入っております。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




