第二十一話 そして逆転劇へ
今回、とうとうジャガーノックとの戦いに決着がつきます!
果たして、ミュナおばさん御一行はどう立ち向かうのでしょうか?
それでは本編をどうぞ!
どんなに道が分かれていようとも、結局のところ行きつく先は一つなのだろうか。
それではこの分岐には一体何の意味があるのか。
人の運命もまたそんなものだと揶揄したいのか。
イツハが複雑な感情を抑えているその時だった。
「いっちゃん」
「は、はい!」
ついにとうとうこの時が来てしまったようだ。
三つの道が交わって一本の大きな道が前方に伸びている。
障害物もなく、舗装された真っ直ぐな道だ。
ドライブをするならば最適かもしれないが、この場においてはまるで争ってくださいと言わんばかりの闘技場のようにも見える。
そして、イツハのそんな考えを煽るかのように、右方からジャガーノック達が迫って来ていた。
「はっはっは! また会えるとは実に奇遇だ!」
荒ぶる神は短剣を片手に叫ぶ。
その後ろには嬉々として二丁の拳銃を掲げる頭足類が荷台に乗っていた。
「どんなに頑張ろうと! 某には追いつけんぞ!」
今にも後方から近寄ってくるジャガーノックに対し、イツハはマァルナに声を掛ける。
「マァルナ!」
「はい!」
二人はそれぞれの手にした箱をひっくり返す。
その箱から転がり落ち、ジャガーノック達の前に現れたのは――。
「な、なんぞ!? ん、これは……」
ジャガーノックは驚くも、その歩みを止めようとはしなかった。
粘土に針金を突き刺し、まるでウニのようにも見えるそれが脅威には思えなかったのだろう。
「某、笑っちゃう! こんなもので止められる訳ないじゃないの?」
一笑しながらも、ジャガーノックが前進したその時だった。
「ん?」
妙な音にジャガーノックは首を傾げた。
気の抜けるような音で、それに続いて自身の引っ張るリヤカーにも異変が生じた。
「閣下、どうした!? え、パンクだと!?」
作戦が上手くいったことで、イツハは満足げに笑う。
ホフリの剣で針金を切った際に断面を尖らせ、それを何本も粘土へと突き刺していた。
リヤカーの車輪がそれを踏んだことで、見事パンクしてくれたようだ。
「気が大きくなっているから、警戒もしなかったのでございますね」
「増長しているものね~」
だが、それでもジャガーノックの牽くリヤカーが停止した訳ではない。
パンクした車輪を強引に引っ張り、荷台をガタガタと大きく上下に揺らしながらもかの神は追ってくる。
少しばかり速度が落ちるはずかと思いきや、むしろ加速しているようにも見える。
「ほれほれ~! 追いついたぞ~!」
そして、あっという間にミュナと並走する形で追いついてしまった。
「あらあら。追いつかれちゃった」
「さあて、閣下の弾丸が今度こそお前達の箱舟を破壊しちゃうぞ♪」
そう言いながらも、ジャガーノックが自身の指を拳銃に見立ててイツハ達へと突き付ける。
「ふふん、それならば」
アンモルが弾丸を放つよりも前に、ミュナは素早く神魂術を唱える。
すると、灰で出来た盾がイツハ達の乗っている台車を守るように現れた。
「今度は打ち消せないわよ?」
「はっはっは! 笑止千万! 某も笑いすぎて怒り方を忘れちゃう♪ 閣下もそうだろう!?」
ジャガーノックの呼びかけに対し、アンモルは小さく頷くだけだった。
どうやら、乗り物酔いを起こしているらしく、必死に吐き気を堪えているようだ。
「早速、消し去ってしまおうぞ! 秘剣【破天嵐】!」
ジャガーノックは短剣を構え、そして叫びと共に高速で振るう。
すると、灰の盾は――呆気なく散ってしまった。
「あらあら。私は知らないわよ?」
ミュナの言葉と共に、大量の灰がジャガーノック達の方へと飛び散った。
さながら返り血のようで、ジャガーノックは自身に覆いかぶさった灰を気にすることもなく高笑いを響かせる。
「ようし、守りは壊した! 某の前に立ちふさがる者と物などないのだ! 今だ閣下!」
続いて銃声が響き渡る――かと思いきや何も起こらない。
「閣下!? どうなさいましたか?」
「申し訳ございませぬ。灰で、銃が――」
ジャガーノックは首を傾げる。
灰はアンモルの持っていた銃にも降りかかっていた。
弾倉にも灰が潜り込んだらしいが、それが何だというのだろうか。
荒ぶる神は唇を尖らせてこうねだる。
「早く撃ってよ~」
「ジャガーノック様。いくら灰と言ってもこのままですと、暴発する危険があります」
「ぼうはつ~? うじうじ悩んでいても仕方ないじゃん!」
アンモルは手にしていた銃を――投げ捨てた。
唖然とするジャガーノックへと追撃するかのように彼はこう言った。
「ふざけないでください! 私に死ねというのですか?」
「え? 某、そんなこと言ってないし!」
「大体、あなたの理想の誰もがイケイケな世界って何ですか!? あなたに付き合わされる私の身にもなってください!」
「今は関係ないじゃん!」
「いえ、この際だからはっきり言わせて貰います。道中での箱も調べてくれず、さらに無策で突撃するのは危険であるとも進言しました!」
「だって、小細工なんて必要ないし!」
「そもそも――」
声を荒げるアンモルを見ていると、イツハは罪悪感を覚えてしまう。
まあ、今の今までアンモルを蔑ろにしていたジャガーノックにも非はあるのだが。
アンモルの抗議により、ジャガーノックの走る速度がみるみるうちに減速していく。
萎れた花のような表情を見ながらも、イツハはミュナに対してこう言った。
「ミュナおばさん、お願いします」
「ちょっと可哀そうだけれども~。ごめんなさいね」
ミュナは謝りながらも手にしていた物を振り回す。
それはイツハが先程作成した武器だった。
複数のロープを針金で束ね、その先端に輪っか状の重りを付けたものだ。
ミュナの力が込められているのかわずかな灰色の光を帯びている。
「えいっ!」
ミュナが投げ縄のごとくそれをジャガーノックの足元に投げた。
本来ならば軽く避けられるだろうが、増長と暴走の神は落ち込んでいるせいか反応が明らかに鈍っている。
「ありゃ? ありゃりゃああ!?」
上手いこと足にロープが巻き付き、バランスを崩したジャガーノックはその場で転倒してしまった。
「うわおっ?!」
アンモルは何とか荷台から投げ出されずに済んだものの、倒れ込んだジャガーノックは起き上がらない。
「ジャガーノック様!?」
「ううう……。某、もう無理……」
どうやら戦意を喪失してしまったようだ。
不貞腐れているジャガーノックを余所に、ミュナは先を急ぐ。
軽快に走りながらも、ミュナは楽しそうにイツハへと話しかける。
「それにしても、いっちゃんの作戦が大成功しちゃったわね」
「はい、これも連携の勝利です。視聴者の皆、応援ありがとうございます!」
イツハはカメラに向かって丁寧に頭を下げると、労うかのような声援がタブレットから聞こえて来た。
「イツハ様。此度の作戦はお見事でございました」
「いっちゃんも性格が悪いわよね」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
「まさか、最初からジャガーノックとアンモルを争わせることが狙いだったなんて」
「はい。そうでもしないと勝てないと思ったんです」
イツハはマァルナとミュナへ話した内容を思い返す。
リヤカーのタイヤをパンクさせるのは容易だった。
だが、それだけではあのジャガーノックを止めるのは不可能だとも察していた。
「パンクしたタイヤで走ったら、荷台が揺れに揺れちゃうものね」
「アンモルも流石に我慢できなかったようですね」
あそこで立ち止まっていたらアンモルも激怒することはなかっただろう。
そう考えると、増長というのは実に面倒なもので、追い風とするにはあまりにも害が多すぎる。
「次に、ミュナおばさまは灰で盾のようなものをお作りになりました。あれはどういったものなのでございますか?」
「あれね~。攻撃されると灰を敵の方へと飛び散らせるだけのもの。防御用じゃないのよ」
「灰でアンモルの持っていた拳銃を覆うのが目的だったんだ」
すると、マァルナは首を傾げる。
「アンモルは撃てないと言っておりました。拳銃とはデリケートなものなのでございますね」
「うん。銃身の内部に異物が入ったら、撃つに撃てないんだよ。暴発する危険があるから」
「暴発ってそんなに危険なのね」
「はい。必ず暴発するという保証はありませんが、暴発で弾丸や部品が自分に当たることもあります」
イツハとしてもナーバスになっているアンモルに対して、ジャガーノックの無神経な一言がトドメになったような気がする。
結果、増長していたジャガーノックが落ち込んだせいで、神魂術の効力がなくなったのだろう。
あそこまで意気消沈するとは思わなかったが、どちらにせよ仲間割れしてしまった以上ジャガーノック達に勝ち目はなかった。
「あ、いっちゃん、ルナちゃん! 見て!」
「あ、ゴールみたいですね」
舗装された道が終わり、何やら開けた場所が前方に見える。
恐らくは、まだレースは続いているのだろう。
後方にいる一組のコンビとも戦うことになるのか。
イツハは戦慄を覚えながらも、荷台から身を乗り出して前方をじっと見据えた――。
イツハの作戦により、どうにかジャガーノックに勝利出来ました。
しかし、レースはまだもうちょっとだけ続くようです。
次回は、空が舞台?
とんでもレースの後半をご期待ください!
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




