第十九話 逆転のための進撃
恐るべき強敵ジャガーノック――。
ミュナおばさん御一行は逆転すべく、巻き返しを図ります。
それでは本編をどうぞ!
遅れを取り戻すためにはそれ相応の苦労をしなければならない。
後戻りなど誰も出来ないのだから、それこそ命を投げ捨てる覚悟もあるだろう。
イツハはそう思いながらも、必死に耐え続けた――。
「全速力よ!」
風を切りながらも、ミュナはリヤカーと共に疾走する。
ガタガタと車輪が回り、真っ直ぐな道をひたすら進んでいく。
ぼんやりとしていると、このままどこかへと出荷されそうな勢いだ。
そんな不安の中、イツハは酔いに耐えつつもミュナへと尋ねる。
「ミュナおばさん……。その、神代の秘剣って何なのですか?」
「神代の秘剣? うーん、何と言えばいいのかしら……」
ミュナは少し悩んでから、こう答える。
「言ってしまえば、神が技術を極めた形の一つかしらね」
「技術を、ですか?」
複雑な話をしていれば酔いも忘れられるだろう。
イツハのそんな思いも虚しく、ますます酔いが胃の中でぐるぐると渦巻くも、彼は必死に問い返した。
「そ、元々は人間の剣術を参考にしたのよ」
「人間、のですか? でも、あんな……」
「人間も達人の域となると、抜刀の瞬間すら一般人は対応できないでしょ? まあ、神の場合は周囲の法則にも干渉しちゃうけれども……」
「神権とは別なんですよね?」
「ええ。トレンみたく、元々火を扱う神権を持たずとも高熱を発せられると考えると、やっぱりおっかないわよね~」
イツハが小さく頷いていると、マァルナも会話に参加する。
「ミュナ様はお詳しいのでございますね」
「ふふ、ちょっと詳しいだけよ。でも最近の神代の秘剣は分からないことばかりで困っちゃうわ」
「分からないことと仰いますと、先程のジャガーノック様の使われた秘剣の効果もご不明だということでございますか?」
「そうね、おばさんが思うに、あの破天嵐という秘剣は防壁等を強引に打ち砕くものかしらね」
「鬱陶しい防御を取っ払いたいというジャガーノックらしい秘剣ですね」
「そうね~。神代の秘剣も個性が反映されているようね。神の中には、神魂術と組み合わせて使っていたりもするし。でも……」
ミュナは複雑な表情でこう続ける。
「元々の神代の秘剣から色々と派生してしまっているのがね……」
「派生?」
「ええ。今となっては『剣を使った超絶な奥義』という意味合いになっているわね。神代の秘剣の歴史もすっかりと廃れてしまったわね……」
ミュナはイツハ達の方を振り向きながらも、小さく微笑む。
どこか呆れているようで、寂しがっているような笑みだ。
時代の変化を憂いているその顔に見とれながらも、イツハは肝心なことを聞き忘れそうになる。
「あの、ミュナおばさん。そもそも、神代って、何なのですか?」
「うーん……。生命にとって、自由のない時代と言えばいいかしらね」
「え……」
早口で語るミュナを見ていると、ほんの僅かであるが嫌悪感を隠そうとしているのがイツハにも伝わってくる。
もっと詳しい話を聞け――。
イツハの好奇心が彼に耳打ちをする。
その甘い囁きに、彼の心は揺り動かされる。
一体、どんな時代なのか。
ミュナの機嫌を損ねないよう、イツハがどう尋ねようか迷っていると……。
「この話は止めにしましょ。前を見てちょうだい」
「あ、はい」
イツハが進行方向に目を向けると、道がまた三つに分岐していた。
「右を見てちょうだい」
「右? ん、あれは――ジャガーノック達ですね」
三つに分かれた内の右の道にジャガーノックとアンモルはいた。
見てみると茨で覆われている道らしく、ジャガーノックは短剣を手にして茨を切り裂いている。
「さてと、残りの道を進んだ方がいいかしらね」
左の道は何と凍結しており、おまけに急カーブが連続している。
ここを全力で走り抜けようと言い出すのは無謀を通り越して勇敢と評されるだろう。
そして、正面の道はというと――。
「燃えていますね」
「あらあら、厄介ね」
真っ直ぐに伸びた道が続いているが、その行く手を阻むがごとく地面からは火が真っ赤な舌をチラつかせている。
ミュナならば業火の中でも散歩気分で進めるだろうが、イツハとマァルナは無傷では済まないし何よりも木製の荷台が持ちそうにない。
ジャガーノック達のいる道は狭く、とてもではないがリヤカーが二台分通れる余裕がない以上乱戦必須となるだろう。
イツハとしては無理な戦いを避けるべきだとは思っている。
何せコースアウトしてしまったら、斜面の下にある沼へ入浴することになるのだから。
「ここは強行突破するしかないわね」
「え?」
ミュナは速度を落とすことなく、真正面の道へと突っ込んでいく。
まさか、熱さに我慢しろというのだろうか。
イツハが喉の奥から悲鳴を上げようとしたが――。
「あれ?」
イツハの耳元にミュナの詠唱が聞こえた。
神魂術を唱えたらしく、灰が猛烈な勢いで降り出してきた。
容赦のない灰の集中豪雨は、今もなお燃え盛っている火へと覆いかぶさるかのように降り注ぐ。
雪のごとく積もる灰は実に無慈悲なものだった。
あれほど荒れ狂っていた炎は灰に呑まれ、やがてその息の根は静かに止まった。
「ふふん。大量の灰で炎の酸素供給を途絶えさせたのよ」
「す、凄いですね……」
イツハは改めてミュナの神魂術の応用力に驚かされる。
思えば三つに分かれたコースも神によっては楽々と進めるのだろう。
「行くわよ」
ミュナは真剣な顔のまま灰の積もった道を進もうとしたその時だった。
「はっはっは! やるようだな! ならば、某も使わせて貰うぞ!」
茨と格闘していたジャガーノックは声高に宣言してから、やはり声高に唱え始める。
「な、神魂術か――!?」
増長と暴走という神権を持っている以上、イツハは嫌な予感しかしない。
やがて、ジャガーノックが術の詠唱を終えると、赤い閃光が迸り――。
「ひょおおおおっ! 某、本気を出しちゃう!」
奇声と共にジャガーノックは茨を無我夢中で切り裂き始める。
サンドバッグをひたすら乱打しているかのようで、その光景に圧倒されてかアンモルは身体を縮小させている。
「今のうちに距離を離さないと、また銃で狙われるわね」
「はい」
油断と慢心を放り捨て、ミュナは走り出す。
道が三つに分岐していなかったら、ジャガーノック達に追いつけていなかったに違いない。
そう考えると、ミュナの焦りにも納得がいく。
ただ、イツハとして残念なのが、真剣なミュナの様子を楽しめない視聴者もいるということだ。
彼がそう思っていると――。
「皆様。応援をよろしくお願いいたします」
マァルナがカメラに向かって丁寧に頭を下げている。
誰も彼もが重い空気を好んでいる訳ではない。
そもそも、ミュナとジャガーノックの戦いを望んでいないファンも少なくはないだろう。
もし新しい世界を左右する戦いでなければ――。
そうなれば、心の底から楽しめたのだろうか。
イツハは物思いにふけながらも、今の状況を再確認する。
距離が離れている以上、またアンモルが銃撃を試みた場合はミュナの灰のカーテンで防げる。
だがジャガーノックに接近されたら、また神代の秘剣で灰のカーテンが消滅させられてしまう。
向こう側もその状況を理解しているのならば、離れている以上は強引に攻めて来ないだろう。
それでも、彼は背中を舐めてくる陰湿な不安感を振り払えなかった。
「ん?」
イツハはふと気が付く。
気のせいだろうかと思ってしまうも、マァルナも首を傾げている。
となると、彼の気のせいではないようだ。
「ミュナおばさん。大変です」
「どうしたの?」
「ジャガーノックの動きが――加速しています!」
イツハの発言に、ミュナは特段驚きもしない。
まるで最初から分かっていたかのようだ。
「増長と暴走……。恐らくは、調子の波に乗ることで強くなる感じかしらね」
「そうなると、段々と走る速度も上がるということでは――」
イツハが後方に目を向けると、そこには高速で短剣を振り回し、茨を切り裂いているジャガーノックの姿があった。
その顔は愉悦に狂っているものの、その妖しさに心惹かれる者が出てもおかしくないだろう。
その後ろにいるアンモルも影響が及んでいるのか、盛んに拳銃のトリガーに触手を通してグルグルと回している。
「怖いわね……。あらあら、また箱があるわね」
「本当ですね」
イツハが前方に目をやると、そこには箱を載せた台座があった。
今度もまた何かしらの道具が入っているかもしれない。
彼がミュナから受け取り、箱の上に積もっていた灰を払ってから開く。
箱自体はご丁寧に耐熱性のものだったが、中に入っていたのは――。
何とジャガージャックは今まで本気を出していなかったようです。
このまま増長させれば、取り返しのつかないことに……。
リヤカーレースだからこそ繰り広げられる、一風変わった神々の激闘をお見逃しなく!
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




