第十五話 リアカーと共に
ついに始まったリヤカーでのレース!
傍から見ると、不思議な光景ですが、白熱する戦いが繰り広げられます!
それでは本編をどうぞ!
「ミュナおばさん! 風になってください!」
「風? なんだかとてもカッコよさそうね~」
意味不明な無茶ぶりだが、ミュナは快諾してくれる。
そして、速度を殺すことなくカーブへと挑んだ。
「うおおおっ!?」
気軽に無茶ぶりしたことをイツハは後悔した。
遠心力が身体に抱き着いて来るかのようにのしかかってくる。
振り落とされそうになりながらも、彼は必死に台車にしがみついた。
マァルナは無事かと思っていると、彼女もまたイツハと同じような格好で遠心力と戦っていた。
人は恐怖心があるからこそ、とっさに身を守る行動が出来る――が、そのとっさの行動が裏目に出るのもままある。
そもそも、人工知能には感情がないはずなのだが、イツハと同じような行動を取っているということは、マァルナにはかなり高性能な人工知能が搭載されているのだろうか。
「イツハ様。ご無事でしょうか?」
「あ。大丈夫」
イツハは頷きながらも様子を伺っていると、ミュナは連続したカーブを抜けたらしい。
「追いついたわよ~」
イツハがミュナの前方に目を向けると、先行していたコンビにどうにか追いついたようだ。
「ふん、やるようだな」
タンクトップ姿の神はキャップ帽を被り直し、ミュナを一瞥する。
オレンジ色の瞳に、帽子からははみ出ている髪もまたオレンジ色だ。
「某の名は増長と暴走の神ジャガーノック! 某に勝てると思うならば、追ってくるがよい!」
「私の名前はミュナ! 負けないわよ~」
ミュナは笑顔を向けるも、ジャガーノックは毅然としたままだ。
この調子だと、激しい戦いになりそうだなとイツハは身を引き締める。
「その前に、やはり重要なことが一つあるな!」
「ええ、そうね」
二柱の神は睨み合う。
イツハにはこの後の流れが大体予想出来てしまった。
そして、案の定準天使の構えているカメラに向かって――。
「某、ジャガーノック、頑張っちゃう♪」
「視聴者の皆、ミュナおばさんをよろしくね♪」
お互いにとてもいい笑顔で挨拶をしている。
まるでこれから起こる戦いなんて無視して、今すぐにでもどこかへ遊びに行ってしまいそうな顔だ。
本来ならば神ならば下々の存在に対して威厳を見せつけるのが常だろうが、そんな常識に縛られている場合ではない。
イツハが神々の覚悟をひしと感じ取っているその時だった。
「む、どうした? アンモル閣下!」
「閣下?」
ジャガーノックはリヤカーに乗せているアンモナイト――アンモルへと話しかけている。
「ほうほう、お手柔らかに、だそうだ! だが、某は手を抜かんぞ!」
「ふふ、私も手は抜かないわよ~」
「行くぞ、加速だ!」
ジャガーノックは叫びながらも走る速度を強める。
「私もよ!」
ミュナもまたジャガーノックを追い抜こうとするも――。
「どうされましたか?」
ミュナが加速を中断したため、イツハは不安そうに声を掛けた。
「前の道を見てちょうだい」
イツハが荷台から身を乗り出してみると、道が三つに分かれていることに気が付いた。
真正面の道は砂利道になっており、直線だが凹凸が激しい。
そんなことに一切構うことなく、ジャガーノックは砂利道を突き進んでいく。
ミュナから見て右の道は泥道で、砂利道以上に足場が悪そうだ。
「左の道は――」
イツハが左方向を見てみると、そちらは上り坂になっていた。
舗装されているのが利点だろうが、傾斜が急すぎる。
人間ならば少し走るだけでも肉体に相当の負荷が掛かるだろう。
見ているだけでも太ももが痛くなりそうな角度だ。
おまけに、途中で隣にあるコースへ移動できないよう各コースの間は急斜面になっており、コースアウトしたらご丁寧に用意してある沼に浸かることになるだろう。
「ミュナおばさん、どの道を――?」
イツハが言い終わる前に、ミュナは迷うことなく左の道へと向かっていった。
「ミュナおばさん。かなりのタイムロスになってしまうのでは……」
イツハが尋ねると、ミュナは真面目な口調で説明する。
「いっちゃん。これは単なるスピード重視の戦いではないわ」
「それはどういう意味ですか?」
「アップダウンの激しい道を行くとどうなるか、わかるでしょう?」
ミュナの問いかけに対し、イツハは首を竦める。
彼はマァルナに意見を求めようとするも、やはり分からないというばかりに首を傾げるだけだった。
「酔っちゃうわよ」
「え、そりゃあ、ごく普通の生理的な反応かと」
「……視聴者が見ているのよ?」
「あ、待って下さい。ミュナおばさんが言いたいのは――うええっ!?」
ミュナが猛スピードで坂を上り始めたせいで、荷台が大きく傾いた。
「なるほど、酷い乗り物酔いのせいで、リバースする可能性があると!」
「そうよ。いっちゃんは視聴者にそんな醜態を見せたくないでしょ?」
「た、た、確かに……」
イツハは現在進行形で胃部への不快感が強まっていた。
砂利道を強引に進んだらもっと酷いことになっていただろう。
「ジャガーノック一行は揺れに対する対策があるのでございますか?」
平然とした様子でマァルナはミュナへと尋ねる。
機械人形だからこそ、傾きや揺れなどでも酔うことがない。
イツハは少しズルいなと思っていると、ミュナはこう答える。
「きっとあるに違いないわ」
そして、ミュナはちらりと視線を砂利道へと向けた――。
増長と暴走の神ジャガージャックとアンモルのコンビとの戦いが始まります!
果たして、ジャガージャックの秘策とは――!?
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




