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第十四話 水槽

海上での熾烈な戦いは終わりましたが、次もまた新たなレースが展開されるのでしょうか?

加速する物語をお見逃しなく!

 進化と真価の神エボルア=エボリアとアケル少年とのサメレースを何とか制し、イツハ達は陸へと上がることが出来た。

 久しぶりに踏みしめる土の感触を楽しみながらも、イツハは後ろを振り向く。


「ブルーノ君! ありがとうね~」


 ミュナが海へと去っていくブルーノ君へと大きく手を振っている。

 イツハとマァルナも別れの言葉を告げてから、改めて現在の状況を確認することにした。

 砂浜には様々な物が流れ着いていた。

 ガラクタの類だろうか、ポンプや蛍光灯、それにフィルターらしきものが散らばっている。

 どこからか流され、ようやく陸地に辿り着いたとしてもその先には誰もいない。

 彼らの旅に一体何の意味があったのかと考えるだけでも、イツハは無性に悲しい気持ちに陥ってしまう。


「私達の先にいたコンビは――もう行ってしまったみたいね」


 ミュナの視線の先を見ると、イツハが先程目にした神と残されし者のコンビがいた。

 神の方は女性の姿をしており、キャップ帽を頭に被り、タンクトップにショートパンツという格好をしていた。

 護身用だろうか、太もものベルトには短剣らしきものが取り付けられていた。

 他方、コンビを組んでいると思われる残されし者は――初見では何なのかよく分からない。

 単純に言ってしまえば頭足類だ。

 巻貝を被り、大きな二つの目玉と十本の触手を駆使して直立しているようだ。

 そして、もっと意味が分からなくなるのが……。


「どうして、リヤカーを引いているんだ?」


 今、アンモナイトはリヤカーの荷台の中にいた。

 そして、そのリヤカーを引いているのはラフな格好をした神だ。

 もしかすると、映画のワンシーンなのかもしれない。

 どこか遠い星からやって来た知的生命体――。

 アンモナイトに酷似したそれを偶然にも見つけた心優しい女性が、なんやかんやで追手から逃れるためにリヤカーを押しながらも逃避行を始める――。


「何だそれは」


 イツハは自分自身にツッコミを入れながらも、ミュナの様子がおかしいことに気が付く。

 黙ったまま砂浜を見つめており、そこにはいつものおばさんの姿はなかった。

 何をしているのだろうと彼が様子を伺っていると、ミュナは砂浜を眺めていた。

 その足元には水槽があった。

 酷い船旅だったのだろう、ガラス部分が砕けており、残った枠に辛うじてガラスがしがみついている有様だった。


「ミュナおばさん?」


 声を掛けると、ミュナは慌ててイツハの方を振り向く。

 そして、とっさに素敵な笑顔を作るのは流石おばさんだなと彼は感心してしまう。


「いっちゃん。ごめんなさいね」

「いえ、水槽に何か思い出でもあるのですか?」

「ちょっとね……。昔のことを少し思い出しちゃったのよ」

「過去のことでございますか?」


 ずいと進み出てくるマァルナに対し、ミュナはその髪を撫でながらもこう続ける。


「ねえ、宇宙は果たして水槽みたいなものなのかしらね?」

「どういう意味でございましょうか?」

「ふふ、言ってみただけよ」

「では、神々は生命をその中に放流させたということですね」


 イツハは当然とばかりにそう言った瞬間だった。

 ミュナの表情が凍り付く。

 その驚いた顔を目にし、イツハは自分が口にしたことを頭の中で何度も再生する。

 特段、変なことは口にしなかったはずだ。


「ご、ごめんなさいね。今はレースに夢中にならないと」

「そうですよね!」


 タブレットを見てみると、新しいメッセージが表示されている。


「えっと、『道に沿って進むべし。陸地ではリヤカーで移動すること』ですか。これがルール、なのか?」

「何故にリヤカーなのでごさいましょうか?」

「ともかく、リヤカーを決めましょ」


 見てみると、砂浜から離れた場所にリヤカーが何台か置かれている。

 どれも二輪車で、なおかつ荷台の模様や柄が違うだけで大きさや素材に違いはなさそうだ。

 ただ、エボルアのような神でも使えるよう、ハンドルの代わりにロープで引っ張るタイプのリヤカーも見られた。


「これでいいかしらね」


 ミュナが指差したのは花柄の荷台が特徴のリヤカーだ。

 子どもがペンキで塗りたくったような塗装で、近くで見るとニスの塗り方が雑なことがよく分かる。


「素敵でございますね」

「あ、はい」

「じゃあ、二人とも乗ってちょうだいね~」


 言われるがまま、イツハとマァルナは荷台に乗り込む。

 荷台の素材は木製の合板であり、どこにでもあるようなごく普通のリヤカーだ。


「視聴者の皆~。これからリヤカーでの旅が始まるから是非見てね~」


 ミュナの言葉に対して、タブレットから声援と共に、どうしてリヤカーなんだという疑問の声が上がる。

 イツハとしても疑問だった。

 だが、神の()く車に乗せて貰えるという体験は人生を何度やり直しても経験出来ないことではないだろうか。

 そんな感じで彼はプラスに考えようとしてみるも、やはり納得がいかなかった。


「行くわよ~!」


 ミュナがリヤカーのハンドルを持ち、そして走り出す。

 エプロンを身に着けた神が、人と機械人形を載せたリヤカーを運ぶという世にも不思議な光景だ。

 そして、イツハの思っていた通りミュナの走る速度は人間のそれを軽く上回っている。

 勢いよく風を切りながらもリヤカーは走り出す。

 タイヤがカラカラと回り、そして彼の目の前の風景もまた回り出す。


「イツハ様。狭くありませんか?」

「いや、大丈夫だよ」


 荷台はそれほど広くないため、イツハは両足を縮めてマァルナの座るスペースを何とか確保する。


「それにしても――」


 ミュナの進行方向には舗装された道が広がっている。

 辺りには誰もおらず、その中をリヤカーが爆走する姿はやはり珍妙と呼べるだろう。


「さてはて、前の組に追いつかないとならないわね」

「そうですね。でも、サメレースと比べると、何だか平穏ですね」

「うーん、それはどうなのかしらね?」


 ミュナは心配そうな顔で首を傾げている。

 やはり、神同士の戦いの始まりを危惧しているのだろうか。


「あらあら」


 ふとミュナの目の前にカーブの連続するコースが現れる。

 明らかに不自然なカーブだ。

 極めつけに道の両端は大きく(くぼ)んでおり、ショートカットという不埒(ふらち)な行動をすればリヤカーが故障する原因となるだろう。

 そして、そのコースの先にはアンモナイトをリヤカーで運んでいる神の姿があった。


「なるほど。これは……」

「二人とも、ちゃんと掴まっていてちょうだい!」


 ゆっくりと進めばいいかもしれないが、これはレースだ。

 先を急がねば勝てる勝負にも勝てなくなる。

 そして、視聴者も恐らく期待しているのだろう。

 躍動感のあるミュナのとびっきりの走りを――。


今度はまさかのリヤカーレース!?

テンション高めの展開がまだまだ続きます!

そんな次回をご期待ください!


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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