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第十三話 自分だけの技能

前回、凶悪な進化を遂げたカイザー君の攻撃を受け、ピンチとなったミュナおばさん一行。

どうにかして、逆転は出来るのでしょうか?

白熱するサメレースも今回で決着がつきそうです。

それでは本編をどうぞ。

 イツハは初めて技能を習得できる『ワザオボーエ君』のアプリを開いた時のことを思い出す。

 あの時、ユニーク技能をプレゼントして貰えたが、恐らくは残されし者全員に与えられるものなのだろう。


『その通りです! ちなみに、僕のユニーク技能は【希望と活力の声援】です!』

「それは羨ましいね」


 タブレットの中でドヤ顔をしているアケルに対し、イツハは短く答える。

 効果としては応援された者は力がみなぎるといったものだろうか。

 言葉の意味が分からずとも、サメだけでなくプランクトンにまで活力を与えるのだからイツハからすれば羨ましい限りだ。

 彼は改めて現在の自分達が不利だということに気づかされる。

 そんな様子を見てか、ミュナが意味深な表情でこう言い出した。


「いっちゃん。私も神魂術を使わせて貰うわね」

「え? どうにかなるのですか?」

「任せなさい。ただ、カイザー君を酷い目に遭わせちゃうのが……」


 アケルとエボルアはなるべくならば強引な手法を使いたくないようだ。

 手痛いサメの体当たりを受けたというのに、ミュナもまた強引な手法に出ようか躊躇(ためら)っているということらしい。


『ほっほっほ、気にしている場合かのう?』

「え?」

『なに、安心するが良い。そちらが攻撃を加えたら、その分カイザー君を進化させて反撃してやるだけじゃ』

「今の言葉に二言はないわね?」

『勿論じゃ』

「言ったわね?」


 ミュナは不敵な笑みを浮かべる。

 果たして、一体どんな神魂術を使うというのだろうか。

 イツハが期待と不安を胸に抱いていると、ミュナは声高に歌い出す。


「神魂術を使われるのでございますね」

「うん。どういう原理なのか分からないけれども」


 機械は果たして物理法則とは無縁の奇跡や神秘をどう解釈するのだろうか。

 イツハが不安に思っていると、カイザー君の前方広範囲に白い霧のようなものが巻き起こり、そして海中へと沈んでいった。


『あれは灰かのう?』


 灰を降らせているというよりも灰を直接海中へ投げ込んでいるかのような勢いで、そのあまりの量に海が白く濁り始めた。

 一体どんな効力のある灰かと思っていると、ミュナはタブレットにこう話しかける。


「アケル君はその灰に触れないで頂戴ね? 痛いからね」

『痛い、ですか?』

「そうよ~」


 確かにカイザー君が嫌がっているようにも見える。

 水に何かを混ぜているとなると濃度も関係してくるだろう。

 一体どんなことをイツハが考えを巡らせていると、マァルナがこんなことを言い出す。


「あの灰は普通の灰なのでございましょうか?」

「うーん、ミュナおばさんは色々な灰を呼び出せるみたいだけれども……」


 そもそも、普通の灰でも危険なものは危険ではないだろうか。

 そう考えると、イツハの頭の中にある考えがよぎる。

 そうだ、きっとそうに違いない。

 ややあってから、彼は声を上げる。


「そうか! pH(ピーエイチ)か!」


 その声を聞き、タブレットから即座に反応が返ってくる。


『pHじゃと? なるほどのう。灰と水を反応させてアルカリ性にしようということかのう』

「いっちゃん!?」


 ミュナの一声に、イツハは小声でしまったと口にした。


『博士、アルカリ性の水は生物にとって危険ですね!』

『強アルカリ性にはならんと思うが、カイザー君にもダメージは出てしまう。ならば、カイザー君を現環境に耐えられるよう進化させればよいだけじゃ。実にちょこざいのう』


 エボルアは含み笑いをしてから、ブツブツと詠唱を始める。

 すると、カイザー君の皮膚に変化が現れた。

 皮膚が裂け、その下から何か管のような物が何本も伸び始める。

 骨が変形したものだろうか。

 いずれにせよ、そこから体内に海水を直接取り込んでいるのがイツハにも何となく理解できた。

 暫くの間、カイザー君は進化に慣れるためかその辺りをウロウロしていたが、何事もなかったかのように前進を再開する。


「何とか追わないと――」

「いっちゃん! カイザー君の尻尾を見てちょうだい!」


 イツハは言われた通り、カイザー君の尻尾の先には鋭利な棘が伸びていた。


「まさか、あれは毒針か――!?」


 イツハの脳内に軟骨魚類であるエイの姿が思い浮かぶ。

 恐らくは、エボルアがサメを進化させたことで毒針を与えたのだろう。

 下手に追いかけた所で、ブルーノ君が毒針で刺される危険がある。


『この程度ではワシらには勝てんのう。それじゃあ、お先に失礼させて貰うかのう』

『え、えっと。じゃあ、お先に失礼します。ミーティングアプリも終了させていただきますね』


 今もなお(にご)った海を掻き分けるかのごとく、カイザー君は突き進んでいく。

 距離を大きく離されていく中、ミュナは笑った。

 力なく笑うその様子を目にして、マァルナはどういった言葉を掛ければいいのか分からなかった。

 そして、イツハも真似するかのように笑い出す。

 波の音に紛れるかのような低い声が続く中、ミュナは突如ニヤリと笑った。


「ミュナおばさま!?」


 あまりの豹変にマァルナはとっさに叫ぶ。

 すると、ミュナはマァルナの方を向いてこう言った。


「あ、ビックリさせちゃった? いっちゃんが素敵な演技をしてくれたから、ね?」


 ミュナはイツハに対して笑いかけると、彼は大きく頷き返す。


「いえいえ、しかしああもあっさりと信じてくれるとは思いもしませんでしたよ」

「どういう意味でございましょうか?」


 クスクスと上品に笑い出すミュナと、笑いを堪えるのに精一杯なイツハを見比べて、マァルナは若干のフリーズを起こしてしまったようだ。


「大丈夫、見ていればきっとわかるよ」

「そうそう。ただ、カイザー君には悪いことをしてしまったわね」


 マァルナは何度も首を傾げていると、カイザー君が――戻ってきた。


「どうして――?」


 カイザー君の背に乗っているアケルとエボルアも何が何だかといった様子だ。

 エボルアが必死に何かを叫ぶも、そもそもサメは言語での対話が出来ない以上、カイザー君から事情を聞くことも出来ないだろう。


「カイザー君!? どうしちゃったの!?」

「これ、やめぬか!? こら!?」


 Uターンしていったカイザー君御一行に対し、ミュナは大きく手を振って見送る。

 イツハとマァルナも同じように手を振っていると、タブレットから疑問の声が上がり始めた。


「解説タイムをしないと、視聴者の皆が怒り始めちゃうわね」


 そう言いながらも、ミュナはカメラの方へ向けてとびっきりのウインクを披露した。


「もしや、アルカリ性とは別の毒を使用されたのでございましょうか?」

「ええ、ある意味そうかしらね。ルナちゃん、さっきカイザー君の皮膚が水膨れを起こしていたのは見たかしら?」

「いえ……」

「あの一瞬で確認するのは至難の(わざ)よね。さっき私が呼び出したのは灰塩(はいじお)――塩分を多く含んだ灰だったのよ」

「塩分を、でございますか?」


 マァルナがキョトンとしている最中、ミュナは視聴者にも分かりやすく解説を始める。


「そ、あの時カイザー君の進行方向にあった海域の塩分濃度を高くしたのよ」

「カイザー君の身体から伸びた管から海水を取り込み始めたのは、自身の体内の塩分濃度と海水の塩分濃度を調節していたんだよ」

「その後、カイザー君は私の神魂術の影響範囲外――つまり塩分濃度が低い海域に行ってしまったから水膨れを起こしてしまった訳ね」

「浸透圧が低い方から濃い方へと水分が流れるのでございましたね」


 そこまで口にしてから、マァルナはあることに気が付いた。


「イツハ様はいつミュナおばさまの策略に気が付いたのでございますか?」

「いや、ミュナおばさんのことだからただ単に水をアルカリ性にするだけではないと思ったんだ。灰塩を呼び出すとは思わなかったけれども」

「そうなのよね~。気付かれたらすぐに対策されてしまうもの」


 エボルアもミュナが海水をアルカリ性に変更する以外にも何かしてくると予想していたのだろう。

 だからこそ、あの時カイザー君を現在の環境に適応できるよう進化させた。

 もし、塩分濃度に気づかれていたならば、カイザー君が海中の塩分の変動に即座に対応できるよう進化させられたことだろう。


「そこでイツハ様が一芝居を打ったということでございますね。しかし、どこで確証を得たのでしょうか?」


 すると、イツハは恥ずかしそうにこう喋り始めた。


「ミュナおばさんは確かにカイザー君やアケルを心配していたけれども、それでも自重をしないお方だから――」

「だから、とんでもない方法を使ってくる、って言いたいのかしら?」

「い、いえ、そんなことはないです! はい!」


 イツハがペコペコと頭を下げていると、

 その様子が面白おかしかったのか、視聴者の笑い声が聞こえてくる。


「やれやれと――ん?」


 イツハが気を取り直していると、前方に何かが見える。


「あれは――サメ?」

「サメでございますね」


 桶をロープで牽引しているサメは限られている。

 先行していたコンビに追いついたと分かり、イツハはホッと胸を撫で降ろす。

 桶の中には女性が乗っており、その頭上には準天使達が同行していた。

 そして、サメの背の上には――。


「ようやく追いついたわね!」

「え、あ、ああ……」

「いっちゃん?」

「そ、そ、そうですね! やっと、追いついたんですね!」


 イツハは喜ぶも、その胸中は実に複雑なものだった。

 何故ならば、サメの背中に乗っている恐らくはイツハと同じ残されし者なのだろう。

 当然と言えば当然かもしれないが、ただ彼は自分が目にしたものをそのまま信じる訳にもいかなった。

 再度、前方にいるサメの背の上を見てみると、やはりそれは実在していた。


「アンモナイト……?」


 それが本当にアンモナイトと呼んでいいのか分からなかった。

 ただ、巻貝を背負ったイカのような生き物で、全長は成人男性ほどもある。

 そして、何本もある触手でタブレットを眺めながらも、今も器用にサメを操っているのだ。


「いっちゃん!」

「イツハ様」

「え、あ、すみません」

「陸地が見えたわよ!」

「あ、本当ですね!」


 陸地でもまた新たなレースが始まるのだろうか。

 今度は一体どんな戦いとなるのか……。

 イツハは期待と不安で高鳴る心音を余所に、ひとまずは上陸の準備をすることにした――。

どうにか、アケル達に勝利が出来たミュナおばさん一行。

しかし、また新たなる敵との戦いが控えてそうです。

次回もまたぶっ飛んだ内容のレースが始まりますのでご期待ください。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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