第十話 いざ大海原へ
キングホホジロザメのブルーノ君と共に、大海原を南へと向かうミュナおばさん一行。
恐らくは先行しているアケル達とも戦うことになるかもしれません。
それでは緊迫するレースをご覧ください!
まさかサメに乗って大海原に臨む日が来るとは――。
イツハは不思議な気持ちだった。
優雅に泳ぎ進んでいくその姿を見ていると中々に爽快なのだが、何よりも恐ろしかったのが混乱の連続で本来の目的を見失ってしまいそうなことだった。
「ブルーノ君って、とっても速いのね~」
「これならば追いつけそうでございます」
そうだ、急いで前の組に追いつかなければならない。
カメラを手にして追ってくる準天使を見上げながらも、イツハは目を凝らして接敵に備える。
「いっちゃん! 前方に気配を感じるわ!」
「了解です!」
そうだ、これは単なるレースではない。
サメに乗っている以上、激しいデッドヒートを繰り広げるのは容易に想像できる。
話し合いでの解決などと悠長なことは言っていられないが――。
「アケル君と戦うのは気が引けるわね」
「え、ええ」
なるべくならば手加減をしたいところではあるものの、イツハにはどうしても見逃せない懸念点があった。
「エボルアがどんな神権を持った神なのかしらね?」
「た、確かに……」
「おばさんも頑張らなくちゃね」
戦闘面はミュナにお願いした方がいいだろう。
そしていざとなったら自分も戦わなければ――。
イツハがホフリの剣の柄を握っていると、水平線の向こうに影が見える。
「いた!」
先を越されてしまったものの、泳ぐ速度ではブルーノ君の方が上のようだ。
この調子ならば追い越せると、イツハが思っていたその時だった。
「え?」
イツハは目を疑う。
アケル達の乗っているサメ――確かハイパーハンマーヘッドという名前だったか。
イツハ達の接近で加速してくるかと思いきや、目に見えて減速し始める。
「これは……」
嫌な予感がする。
イツハはブルーノ君に体重を乗せて迂回を試みた。
「曲がります!」
イツハはアケル達と距離を取った方が賢明と判断した。
最短距離で目的地へ急ぐべきかもしれないが、イツハはどうにも嫌な予感がしてならなかった。
アケル達と距離を離しながらも、徐々に進路を南へと向けようとしたその時だった。
「タブレットが……」
聞きなれない呼び出し音にイツハは身を強張らせる。
恐る恐る画面を見てみると、見慣れないアプリが起動していた。
「ミーティングアプリ?」
画面には【ユーザー名:アケルからミーティングの誘いがありました。入室しますか?】と表示され、ご丁寧にアケルの顔写真のアイコンまで載っていた。
「よし」
イツハは【入室】のアイコンをタップしてから、急いで【ユーザーを招待する】をタップした。
すると、今度はミュナのタブレットから呼び出し音が鳴る。
「いっちゃん? これは?」
「ミュナおばさま、お見せください」
「ルナちゃんってこういうの詳しいの?」
「多少の心得はございます。……なるほど、こちらは操作をすればアケル様とイツハ様のお話し合いにミュナ様も参加できるというものでございます」
「おお! ルナちゃんすごいわね~♪」
喜んでいるミュナを横目で見ながらも、イツハはタブレットを注視していると、タブレットのスピーカーから声が聞こえてくる。
『こ、こ、こんにちは……』
画面にはおどおどとしたアケルが映し出されていた。
緊張しているのだろうか。
イツハはなるべく優しい笑顔を心がけて話し出す。
「アケル、自分達に何か伝えたいことがあるのかい?」
『は、は、はい!』
「相談事ならばおばさんも乗ってあげるわ~」
画面にはミュナの顔もリアルタイムで映し出されている。
本来は会議用で、競い合っている最中に使うアプリではないのだなとイツハは改めて確信した。
『う、あう……その……』
突如アケルは顔を赤くして俯いてしまう。
イツハはどうしたものかと思い、そしてある仮説を立てた。
――もしかして、ミュナおばさんと面と向かって話すと緊張してしまうのか。
ミュナの美貌は小さな少年には刺激が強すぎる。
そもそも、ミーティングアプリで最初からミュナをメンバーに入れなかったのも納得がいく。
どうしたものかとイツハが困惑していると――。
『アケル君! 大丈夫かの!?』
第三者の声が聞こえて来た。
画面を見てみると、ミュナの隣に何やら妙な球体の一部が映し出されていた。
そこでイツハはようやくエボルアが参加したことに気が付く。
『だ、大丈夫です』
『ミュナといったかの~。ワシがアケル君に代わって説明しよう。悪いが、お前さん達にはここで降参して貰うぞ』
「降参ですって?」
やはり戦うつもりということか。
そして、アケルは決意表明のためにイツハとコンタクトを取ろうとしたのだろう。
『ご、ごめんなさい。でも、僕は博士と一緒に理想の新世界を目指したいんです!』
アケルの力強い言葉に、イツハは一瞬だけ心が動かされそうになる。
しかし、イツハとて手を抜くわけにはいかない。
それは他ならぬ自分自身の正体を知るためにも。
だが、果たしてそれが正しいことなのか――。
彼が悩んでいると、ミュナが真面目な表情で語り出していた。
「アケルちゃん。ならば真剣勝負ね。泣いちゃダメよ?」
『な、泣きません!』
顔を赤くしながらも、アケルは怒った顔で反論した。
微笑ましい光景だなとイツハは思っていると、ブルーノ君がアケル達を追い抜いている。
アケルの騎乗するハイパーハンマーヘッドが追いかけてくる中、果たしてどんな攻勢を仕掛けてくるのか。
イツハは緊張に身を震わせながらも、アケル達の動向から目を離さぬようじっと身構えた――。
次回はアケル達の戦いになりそうです。
果たして、どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか?
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




