第八話 誰が為に釣りをする
海を渡るためには、サメを釣らなければならない――。
というよく分からない状況下において、大物がゲットできるチャンスが到来する。
果たして、どんな獲物がヒットしたのでしょうか?
イツハは自分の愚かさを呪った。
確かに、釣りは戦いであることには違いない。
ただ、惜しむらくは戦いの決着がつくまで、互いの顔をしっかりと見ることが出来ないのは致命的だ。
「イツハ様、これは――」
「う、うん」
背びれは見えていた。
だが、背びれだけでサメの種類が判別できる知識がイツハにあるはずもない。
最も――釣れたのはサメですらなかったのだが。
「いっちゃん! その子は?」
「マンボウ、ですね」
どこか愛嬌のあるのんびりとした顔。
魚の中でも独特の体型。
ゆる可愛いというのだろうか。
陸に引き上げられ、苦しそうにひれをパタパタと動かしている。
「こんなに大きいマンボウが存在しているとは驚きでございます」
「でも、マンボウでは――」
サメと比べると、遅いや速い以前に人畜無害すぎる。
苦しい生存競争で生き延びてきたのは確かだが、サメと勝負させるのはあまりにも酷だ。
「あ、そうだ」
もしやと思い、イツハがエボルア達の様子を伺ってみると、大きなサメを釣り上げていた。
「博士! 凄いですね!」
「うむ! 見たか、諸君!」
エボルアが準天使達の構えているカメラに向かって自信満々に言い放つと、大きな歓声が返ってくる。
「おお! 見事なサメだ! これはハイパーハンマーヘッドじゃないか!」
声を上げたのは先程あった釣り好きの男だ。
頭の形がハンマーだからそんな分かりやすい名前が付いているのか。
イツハが感心していると、釣り好きの男はどこかへと走り去ってしまう。
「あんなに大きなサメだと泳ぐのも速いか」
「イツハ様……」
がくりと項垂れるイツハの肩を、ミュナが優しく撫でる。
「いっちゃん。マンボウ次郎君は頑張りたいみたいよ」
「え?」
ミュナはそう言いながらも、マンボウ次郎を海へと放してあげる。
逃げてしまうんじゃないかと思っていたが、マンボウ次郎は元気そうにその場を旋回する形で泳ぎ出した。
「見て、あの動きを!」
「おお!」
マンボウとは思えない俊敏さだ。
それよりも、勢いのある泳ぎにイツハは感服する。
サメには及ばないかもしれないが、それでも前に進むという意志はありありと感じられる。
「いけますよ、これは――!」
「そうでしょう?」
「レースとは速度だけで決まるものではございません」
「うん。頑張りましょう、マンボウ次郎と共に!」
イツハがそう言った瞬間だった。
唐突に肩を叩かれる。
彼は心臓が揺さぶれるような恐怖に見舞われた。
恐る恐る彼が後ろを振り向くと――。
「サメ以外は許可できない」
釣り好きな男がそこに立っていた。
あの陽気さはどこに捨ててしまったのだろうか。
狂気すらも感じる無情さに、イツハは無言で頷く。
そして、男が去ったのを確認してからイツハは喋り出した。
「結局、サメじゃないとダメなのか……。ん?」
海の方を見ると、エボルア達が沖へと出発しているのが目に入った。
「え?」
よくよく見ると、先程釣ったサメの胴にベルト状の器具を取り付け、そこから伸びたワイヤーの後ろには木製の桶が結ばれている。
その桶の中にはエボルアの姿があり、サメの背には何とアケル少年がしがみついているではないか。
「なんだありゃあ……」
シュールな光景に、イツハは何と感想を漏らせばいいのかわからなかった。
「ああいうのが流行っているのかしら?」
「そうでございましょう」
ミュナとマァルナが顔を見合わせている。
その状況にイツハは危機感を覚えてしまう。
如何せん、このままでは配信が盛り上がらない。
イツハは確信した。
この空気に乗らないと、視聴者が満足してくれない。
だからこそ、自分が引っ張らなければ――。
「ぼんやりとしていられません! さあ、サメを釣りましょう!」
イツハは自分に言い聞かせながらも、再度釣りの準備をしようとしたその時だった。
「いっちゃん! ルナちゃん! 見て!」
ミュナの鋭い一声にイツハは怯む。
何を見ろというのだろうかと思っていると、マァルナがすかさずそれを指さした。
「あれは、マンボウ次郎様の背びれ?」
「その後ろを見てちょうだい」
他にもマンボウがいるのだろうか。
マンボウ次郎とは別の背びれが見え、彼の後を追いかけているようだ。
「きっとお友達を紹介してくれるのでございましょう」
「いや、マンボウの友達は結局マンボウなのでは……」
「違うわ」
ミュナは真剣な目でイツハとマァルナにこう告げる。
「あれはサメよ」
「え? サメ!?」
「何となくサメってわかるのよ。そして、マンボウ次郎君が身体を張ってサメをおびき寄せてくれているのよ!」
「え?」
いや、それは流石に――。
イツハが否定しようとするが、それを押しとどめるかのようにマァルナが彼に釣り竿を手渡す。
「イツハ様! 用意は出来てございます」
「あ、あ、ありがとう」
イツハは自身の情けなさに気づかされる。
何を躊躇っているのだろうか。
まだ、挽回する機会はあるし、少しの失敗で挫けている場合でもない。
彼は急いでサメゲットガムの着いた釣り竿を海中へと投げる。
それを見てか、マンボウ次郎は追いかけてくるサメを誘導――しているようにも見えた。
「掛かれ――!」
気合でどうにかなるという問題ではないが、それでもイツハは叫んだ。
すると、獲物が掛かったのか浮きが大きく沈んで――。
次こそは大物が掛かるのでしょうか?
次回にご期待ください!
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




