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第七話 釣りとは戦いであるが故に

海を渡るためにサメを釣ることになったミュナおばさん一行。

他の参加者にも負けないよう、早急にサメを釣らなければならない状況です。

果たして、大物を釣ることは出来るのでしょうか?


 イツハは思う。

 自分と同じ境遇の存在はいるのだろうか、と。

 仲間が欲しい訳ではない。

 ただ、理不尽な出来事に巻き込まれて苦労している者がいるに違いない。

 そう思って、イツハは少年に目線を向ける。

 少年はイツハに気が付くと、ペコリと丁寧に頭を下げる。


「み、皆さん! 僕はアケルっていいます! 良い勝負をしましょう!」

「うん。よろしく」


 少し怯えながらも挨拶をするその姿を見ていると、頑張っているのだなとイツハは同情してしまう。


「ええ、お互いに頑張りましょ」

「はい!」


 返事をするアケルの頭上に見覚えのある影が浮かんでいる。

 それらはカメラを構えた準天使で、なるほど配信の真っ最中のようだ。


「ミュナおばさん、自分達も配信を開始しましょう」

「そうね。じゃあ、おばさんが操作するわね~」


 ミュナがタブレットを操作すると、待っていましたとばかりに三体の準天使達がどこからともなくやって来た。


「あれで撮影をされるのでございますね」

「うん」

「二人とも、一緒にカメラで視聴者の皆に挨拶しましょ」

「かしこまりました」


 ミュナを中心にして、イツハ達はカメラの前へと並ぶ。


「皆~! ミュナ&イツハの配信を始めるわよ~」


 ミュナの一言と共に、タブレットから賑やかな声がした。


「皆に新メンバーを紹介するわね~。この子はマァルナ。愛称はルナちゃんよ~」

「どうぞよろしくお願いいたします」


 マァルナが深々と頭を下げると、歓迎するような暖かな声援が巻き起こる。


「今回は~、何とサメを釣ります!」

「サメ、ですね!」

「そう、この海を越えるためにも、サメさんの力が必要なのよ! そんな訳で、レッツシャーク!」

「レ、レッツシャーク!」


 レッツシャークってなんだ――。

 イツハは疑問に思うも、タブレットから『レッツシャーク!』という反応が大量に返ってくる以上、深く考えない方がいいようだ。


「そして、こっちは今回競争する相手のアケル君よ~」


 ミュナはしゃがみ込んで、アケルと目線を合わせる。

 いきなり話を振られ、少年はさぞ驚いていた。


「あ、はい! どうかよろしくお願いします!」

「アケル君は頑張り屋さんね~」

「はい! 博士からもよく言われます!」


 ――博士?


 イツハはよもやと思い、アケルの様子を伺う。

 少年の目線の先には、釣り竿を垂らしている球形の神がいた。


「物知りな神様なのね!」

「はい! 生命について色々なことを教えてくれるんです」


 少年の楽しそうな声が響くと、博士は喋り出す。


「いつの間にか博士と呼ばれてしまってのう。博士号を取ってすらいないのだがの」


 表情もなく、身振りすら出来ないが、その声色からイツハは仕方なくといった様子が伺えた。


「博士さん、初めまして~。お手柔らかにお願いするわ~」

「一応ワシの名はエボルア=エボリアという名前じゃがの。こちらこそよろしく頼むのう」


 穏やかな会話を見ていると激しく火花を散らして戦わずに済むようだが、実際の所はどうなるのか。

 イツハは様子を伺いつつも、釣り竿にサメゲットガムを取り付ける。


「では、釣りますね!」


 イツハは竿を海へと投げて、サメ釣りを始める。

 試練の最中なのに、呑気に釣りをしていいのだろうか……。

 彼が疑問に思っていると、マァルナがじっと水面に浮かんでいるウキを眺めている。

 慌ててはいけないなと思いながらも、彼もまたウキを眺めることにした。


「掛かるかな……」

「私も釣ってみるわね~」


 ミュナもまた同様に釣りを始める。

 波の音を聞きながらも、魚と戯れるのもいいかもしれない。

 イツハはそう思ってみるも、心の中で微かに(くすぶ)っている感情が笑いかけてくる。

 その感情は表現するのは難しいが、ただ見下すような嫌な笑みを浮かべていた。

 それはひたすら小馬鹿にしていたのだ。

 あるはずもない平穏を――。


「あの」


 突如声を掛けられ、イツハは小さく悲鳴を上げてしまう。


「あ、ごめんなさい」


 声を掛けて来たのはアケルだった。

 釣りは博士に任せているのだろう。


「イツハさんは、戦ったことがあるんですか?」

「実は記憶を失っているみたいでよく覚えていないんだ」

「じゃあ、その剣は?」

「大切な剣なんだ。それだけは覚えているよ」


 絶対に手放してはいけない――。

 イツハはそれだけを確信している。

 レイゼイが妙なことを言っているのを思い出したが、呪われているはずがない。

 イツハが剣の柄を握っていると、アケルは恐る恐る話し出す。


「イツハさんは、最後の時のことは覚えていないよね?」

「最後の時?」

「うん。僕は覚えているんだ――」


 少年は唇を震わせ、何かに耐えていた。

 顔を青くして今にも倒れそうだが、少年は力強く前を向く。

 今もなお少年の心には最後の時とやらに見た恐怖がうずくまっているのだろう。

 それに耐えようとしているのか思うと、イツハは心の中で称賛の拍手を送ってしまう。


「あの時は――」

「ぬおっ!?」


 アケルが語り出そうとしたその時だった。

 驚きの声と共に、水の中で何かの激しく動き回る音が聞こえた。


「アケル君! ヒットしたぞ!」

「博士!」


 アケルは博士の方へと急いで向かう。


「負けていられないな――ん!?」


 イツハの手にしていた釣り竿がズシリと重くなる。


「イツハ様!」

「わかっている!」


 サメが掛かったに違いない。

 この重みはかなりの大物だ。

 手に汗を握りながらも、イツハは思わずニヤリと笑ってしまう。


「イツハ様。お手伝いします」

「ありがとう」


 マァルナがイツハと共に釣り竿を持ち、一緒に引っ張り上げる。

 大きな背びれを見ていると、俄然(がぜん)やる気が湧いてくる。

 チラリとエボルア達の方を見てみると、引っ張り上げるのに苦労しているようだ。

 いや、そもそも胴体に釣り竿が刺さった状態でどう引き上げるのかが疑問ではあるが。


「負けてたまるか!」


 獲物もまた食らいついたご馳走を離してやるものかとばかりに暴れ回る。

 そう、これは戦いなのだ。

 例えるならば、拳を使わない殴り合い――。

 生きるか死ぬかは文字通り単純な力比べだ。

 この残酷な海では勝者こそが全てとも言える。

 全身に(たぎ)る血を燃やしつつも、イツハは全身全霊を込めて、釣り竿を引っ張り上げた――。

ついに獲物を釣ることが出来そうです。

さて、どんな大物が掛かったのでしょうか?

次回をご期待ください。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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