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第五話 見知らぬ理解者

前回、イツハは自身のことを知っているかもしれない人物と出会います。

果たして、イツハの記憶が戻る手がかりを掴めるのでしょうか?

 男とイツハのやり取りを聞いて天使達は足を止めてくれるが、あまりのんびりと会話をしている暇もないだろう。

 イツハは急いでその男に問いかけた。


「あなたは、何者なんですか!?」

「俺か? 俺はレイゼイ! 人類救世軍最終決戦隊――通称アタッチメントの副隊長だ!」

「じんるい、きゅうせいぐん……?」


 どことなく物騒な名前に、イツハは何度も瞬きをする。

 最終決戦という点から察するに相当の武力を持っている上に、その副隊長ともなるとかなりの手練れなのだろうか。


「もう一度聞こう! 俺と同じ部隊にいなかったか!?」

「いえ、わからないんです!」

「そうか! だが、その剣を持っている以上、部隊員だとは思うんだが!」

「剣、だって?」


 イツハはとっさに自身のホフリの剣に目をやる。

 これはその何とか軍で使われていた武器なのだろうか。

 しかし、イツハはあることに気が付いて眉を顰める。


「レイゼイ! 君は持っていないのか!?」

「冗談は止してくれ!」


 何が冗談なのだろうか。

 イツハが眉間に皺を寄せ、話を続けようとしたその瞬間だった。

 彼の後ろで黙っていた長身の人物が、レイゼイの肩をポンポンと叩く。

 急いでいるのか、それとも余計なことを言わせたくなかったのか。

 いずれにせよ、お話はここでお開きにせざるを得ないようだ。

 レイゼイは自身を案内してくれる天使を忌々しそうに睨んでから、去り際にイツハに向かってこう叫んだ。


「いいか!? その剣は――!?」


 レイゼイの言葉を耳にした瞬間、イツハは目を丸くする。

 まるで、自分自身の存在そのものを否定されたような気がしたからだ。


「イツハ様? 顔色が悪いようですが……」

「いや、大丈夫。大丈夫だから。すみません、先を急ぎましょう」


 イツハは力なく笑いながらも声を絞り出すと、ライトムが了解したとばかりに前進を再開する。

 イツハがレイゼイのいた方に目をやると、先へ行ってしまったらしく誰の姿もなかった。

 先程のやり取りが全て幻であったかのようだ。

 だが、彼の脳裏では、レイゼイが最後に口にした言葉が何度も往復する。


 ――その剣は、()()()()()()


 そんなはずはない。嘘に決まっている。

 彼はそう断定しつつも、ホフリの剣の柄を力強く握り締める。

 だが、ホフリの剣は何も答えてくれない。

 掌が痛くなるほど握った後、彼は自分の手を見つめる。


 ――自分は、本当に何者なんだ?


 不安と焦りに苛まれ、イツハは歩いた。

 いっそのこと、運悪く踏み板が破損してしまえば……。

 そうなれば、全てが楽になる。

 だが、すぐ近くにはミュナがいる。

 異変に気が付けば、すぐさま助けてくれるだろう。

 

 ……本当に助けてくれるの?


 猜疑心(さいぎしん)が囁く。

 小さいが、しっかりと染み渡る声で。

 誰を、何を信じていいのか分からない。

 イツハが眩暈と悪寒を同時に感じているその時だった。


「イツハ様。着きました」

「え?」


 マァルナの言葉で、イツハは顔を上げる。

 気が付くといつの間にか吊り橋を渡り終えており、ブーツの底が久しぶりの再会とばかりに青い土を踏みしめていた。


「さっき会ったコンビとは別の場所へ向かっているのね」

「はい。獲得した応援ポイントの累計が多い方ほど、優先的に先へ進むことが出来ます」

「なるほどね~」


 ミュナが頷いていると、ライトムが前方を示しながらもこう告げてくる。


「皆様、暫く先に試練の場がございます」

「そ、ありがとね」

「では、私はこれにて」


 ライトムは丁寧にお辞儀をすると、またどこかへと飛び去って行った。

 その姿を見て、イツハは徹頭徹尾真面目な天使だなと感心してしまう。

 オーヴィとウィルの天使達とはどういう関係なのだろうか。

 もし、同僚ならばさぞ苦労しているのやら。

 

「この先に試練があるのね」

「試練、ですか?」

「試練を楽しく攻略して、応援ポイントを稼ぐのが目的よ~」

「なるほど……」


 マァルナが頷いている最中、イツハは前方に目を向ける。

 果たして何が待ち構えているのだろうか。

 ふいに、しょっぱいようなにおいが彼の鼻を刺す。

 これがひょっとすると潮の香りというものなのだろうか。

 そう考えると、彼は思わず叫んでしまう。


「う、海があるのか!?」

「え、そうなの?」

「海でございますか?」

「はい。この香りが――って、マァルナに嗅覚センサーはついていないのか」

「申し訳ございません」


 しかし、イツハは妙なことに気が付く。


「えっと、ミュナおばさんもこのにおいはわかりますよね?」

「うーん、そのことなんだけれども。私もにおいがわからないのよね」

「え? どうしてなんですか?」

「どうしてって言われてもね~」


 ミュナおばさんは困った顔をする。

 そして、渋々といった様子で説明し出した。


「いっちゃん。神は食事をしないのは知っているわよね?」

「はい」

「嗅覚って物を食べる時に重要よね?」

「あ、言われてみれば……」

「嫌な臭いとかって出来れば嗅ぎたくないわよね」


 ミュナは当然といった様子で語っている。

 イツハはただただ頷く。

 生まれた時から持っている嗅覚に対して、誰もが疑問を抱かないだろう。

 不便なこともあるかもしれないが、嗅覚があるからこそ得られる思い出というのもある。

 同じ場所に立っているというのに、感じている世界はまるっきり異なっている。

 イツハは今更ながら神と人の次元の違いに驚かされる。


「神は周囲に存在している物質ならば感知できるけど。う~ん、確かにこの辺りに塩っぽい成分が漂っているわね」

「ほ、本当ですか……」


 ミュナが指差している方向に目をやりながらも先へと進むと、そこには案の定膨大な水源が広がっていた。


「海だ……」


 イツハは感動に心を震わせる。

 果てしなく広がる青い水面がどうしてこうも心を掻き立てるのだろう。

 潮の香り、そして波の押し寄せる音――。

 この解放される感じは生命の本能かもしれない。


「いっちゃん、とても嬉しそうね」

「微笑ましいものでございます」


 ミュナとマァルナの淡白な反応を見ていると、イツハは少し悲しくなってしまう。

 ただ、彼としても感動しているばかりではなかった。


「しかし、山の中だというのに――」


 どこをどう考えてもおかしい話だ。

 だが、遠方にサメの背びれらしきものが見えてしまった以上、誰が否定しても海は海なのだ。

 イツハが海に近づこうとしたその時だった。

 白い霧が急に立ち込め、視界が急激に狭くなる。

 そうか、そろそろ試練の場に入るということか。

 やれやれと思いながらも、彼がタブレットに目を向けていると、白い霧が辺りを呑みこみ始める。


「いっちゃん。ルナちゃんの手を握ってあげてちょうだい!」

「へ?」

 

 イツハは言われるがままマァルナの手を恐る恐る握る。

 そして、驚いた。


「温かい……?」


 機械人形の手が人間の肌と同じように温かいとは思ってもいなかった。


「イツハ様は大胆なのでございますね」

「え、いや、その――!」


 マァルナに対して、イツハが言い返そうとしたその時だった。

 全てがホワイトアウトし、彼は意識が朦朧とする感覚に襲われる。

 そして、タブレットが通知音と共に辛い戦いを告げるのであった。


『試練の場に入りました』


 画面に表示されている短い召集命令に、イツハは覚悟を決める他なかった――。

結局、イツハは何者なのでしょうか?

謎が謎を呼ぶ中、ついに試練の場所へと辿り着きました。

さて、次回をご期待ください。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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