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第四話 霧の中の吊り橋

いよいよ、ミュナおばさん達が新しい試練へと挑みます。

さて、今回はその道中のお話となります。

どうぞご期待ください。

 タブレットからアラーム音がけたたましく鳴り響く。

 いよいよ神命新天の儀が再開すると思うと、イツハは気が重くて仕方なかった。


「皆様方、この度も短いながら私がご案内いたします」


 そして、やって来た天使は実に無表情かつ事務的な口調でこんなことを言う。

 これはこれで正しい対応かもしれない。

 イツハがそう思っていると、ライトムはおやと首を傾げてマァルナへと目線を向ける。


「ミュナ様。そちらの方は――人形、でしょうか?」

「そうよ。マァルナことルナちゃん。私達の新しい仲間なのよ」

「初めまして。マァルナと申します」


 丁寧に頭を下げるマァルナを目にして、ライトムは無表情でこう返す。


「かしこまりました。では、次なる試練の場はこちらへとなります」


 機械人形がメンバーに加わることは問題なさそうだ。

 イツハが安堵していると、ライトムは自身の翼で空へと舞い上がりながらも手招きする。


「さて、行くわよ~!」

「了解です」


 張り切るミュナと共に、イツハ達は駆け足でその後を追いかける。

 通せんぼをしていた半透明の壁も無くなっており、果たしてこの先に何があるのか。

 幼い子供ならば好奇心と共に心を弾ませるのだろう。

 だが、イツハにはそんな余裕はなかった。


 本当にこの先に進んでしまっていいのか――。


 迷いがイツハの耳元で息を吹きかけてくる。

 立ち止まっている時間などない。

 だが、彼には考える時間が欲しかった。

 自分は、本当は何者なのか。

 過去に何があったというのか。

 昨夜見た光景を何度も思い浮かべていると、マァルナが彼に声を掛けてくる。


「イツハ様? 何かお困りでしょうか?」

「いや、特に」


 イツハは首を横に振りながらも、さらに悩みを深める。

 この苦しみを誰かに打ち明けるということは、ある意味苦しみを押し付けているのと同じだ。

 誰かを苦しめるくらいならば、いっそ一人で抱え込んでしまった方がその分気が楽だ。


「何か見えるわね」

「ええ、あれは――橋ですね」


 木製の吊り橋なのだが、その殆どがガラクタで構成されていた。

 踏み板は木製看板や壁材、それに船のマストらしきものも見られ、それらの木材が強引に組み合わさっている。

 寄せ集めの連中が仕方なく集まったという印象が強く、正直イツハは壊れないかが心配だった。

 ワイヤーを中継させる主塔には強引に切り取ったかと思しき送電塔の一部が使われる他、艦船の艦橋を再利用した物も見られる。

 ある種の芸術品だなとイツハが感心していると、ライトムが地上へと降り立ち、先導する形で橋を渡り出す。


「ここを渡るのね」

「はい。言い忘れておりましたが、皆様に是非とも気を付けていただかなければならないことが」


 ライトムは無表情のままこう続ける。


「橋から落ちぬようにお気を付けくださいませ」


 その言葉に悪意はないのだろう。

 純粋な忠告であることには間違いない。

 だが、イツハは下手な怪談を聞くよりも肝が冷えた気がしてならなかった。


「確かに危なそうね」


 ミュナと共にイツハは橋の下を覗き込んでみると、不自然なほど白い霧のせいで何も見えない。

 もしも橋から落ちたら、果たしてどこまで落ちてしまうのか。

 少なくとも、天国のように暖かな場所ではないし、ましてや地獄のように底があるような場所とも思えなかった。


「いっちゃん?」

「イツハ様?」

「あ、すみません!」


 ミュナとマァルナが先へと行ってしまった。

 イツハが慌てて追いかけようとするも、そんなことをしたら吊り橋が揺れてしまう。

 彼が慎重に足を動かし、ミュナ達の背中を追う。

 どんなにゆっくりと踏み板に体重を移動させても、必然的に足元が揺れる。

 絞首刑に処された罪人の上る階段も、恐怖と絶望で揺れに揺れているのだろう。

 生きた心地のしないまま、彼が進んでいるその時だった。


「ん?」


 イツハは進行方向の右手側に何かがくっきりと見えた気がした。

 

 ――吊り橋だ。


 そして、イツハ達と同じように天使に導かれて橋を渡る者達の姿が見える。

 遠方にある景色は何も見えないというのに、彼らの姿だけがまるで切り取って編集したかのようにはっきりと確認できた。

 神命新天の儀の参加者に違いない。

 気になって左手側も見てみると、案の定吊り橋が掛かっていたがそちらには誰もいなかった。


「おお!」


 イツハの右手側から声が聞こえる。

 彼がそちらを見てみると、そこには黒髪の男がいた。

 黒髪の男の後ろには長身の男――独特の雰囲気は異法神に違いないだろう。

 丈の高いマントを身に着けており、体格は痩せているものの、その両眼は狼のように鋭く、黙って黒髪の男の様子を伺っている。

 道草を食っていては怒られるのではないか?

 そんな雰囲気だというのに、黒髪の男はイツハに向かって大きく手を振っている。


「あらあら」

「あれは……」


 ミュナとマァルナは驚いている。

 二人して目を丸くしており、イツハもまた同じような反応をしてしまう。


「ど、どうして……」


 その男は実ににこやかな顔をしていた。

 悩みから吹っ切れ、爽やかな笑みを浮かべている。

 それならば特に問題はない。

 ただ、問題があるとするならば――。


「ねえ、いっちゃん。どうして上半身裸なのかしらね?」

「さあ……」


 ミュナの期待するような視線を受け、イツハは考える。

 そして、彼の頭に素敵な答えが浮かんだ。


「ミュナおばさん、わかりました」

「いっちゃん。何もかもが嫌になった、という答えはダメよ」


 ――ダメか。

 イツハは残念そうに肩を竦める。


「趣味、なのでしょうか?」

「どうなんだろう……」


 マァルナが嫌そうな顔をしている。

 この反応を見ていると、普通の女の子とまるで変わりがない。


「そこのあんた! ちょっといいか!?」


 男が声を張り上げる。

 よくよく見てみると男は腰に獣の皮のような物を巻いており、衣服に苦労しているという点が伺えた。

 蛮族の類だろうか。

 イツハは警戒しつつもこう尋ねる。


「なんです?」

「もしかすると、俺と同じ部隊にいなかったか!?」

 

 ――部隊?

 その言葉に、イツハは首を傾げるよりも先に驚きの叫びをあげる。

 ……まさか、自分の知り合いなのか!?

 喜んでいいのか、それともすんなりと信じていいのだろうか。

 男の澄み切った青空のような笑顔を目にして、イツハはただただ戸惑い続ける――。

まさか、イツハの過去を知る人物が登場するとは――。

男は一体何者なのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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