第三話 前へと進む理由
新たにミュナおばさんとイツハの仲間に加わった機械人形のマァルナ。
配信をする以上、仲間が沢山いた方が盛り上がるに違いないでしょう。
さて、今回はイツハが妙な音に気付いたところから物語は続きます。
「あら? 何の音?」
「目覚ましのアラーム音に酷似してございます」
「これは……」
イツハはとっさにタブレットを見てみると、やはり音はそこから発生していたようだ。
「いっちゃん、どうしたの?」
「いえ、タブレットにメッセージが」
「どんなメッセージなのでしょうか?」
「『朝になりました。あと一時間で神命新天の儀を再開します』とのことです」
タブレットのホーム画面を見ると、試練が再開されるまでのタイマーが表記されている。
次にイツハが窓の方に目線を向けてみると、真っ暗だった景色に光が顔を覗かせていた。
一時間という猶予時間は、次の戦いに備えての覚悟を決める時間にしては短いのか、それともちょうど良いのか。
彼が顔を顰めていると、ミュナがこう尋ねてくる。
「あと一時間以内に準備を済ませないといけないのね。いっちゃん、よく眠れた?」
「え、ええ。ぐっすりと」
イツハはとっさに口にしてから内心焦る。
一睡もしておらず、それならば目に隈が出来ていたり、顔に疲労の色が残っているかもしれない。
しかし、ミュナとマァルナが指摘してくる様子はない。
現にイツハ自身も疲れてはいなかった。
これも少し横になっていたおかげのようだと彼が思っていると、マァルナがこんなことを言い出す。
「イツハ様。朝食は如何なさいますか? 食材はどちらかにございますか?」
「いや、それなんだけれども……」
イツハは食事には応援ポイントが必要であり、様々な技能習得にも必要であるため、今後に備えて無駄遣いが出来ないことをマァルナへと説明する。
「かしこまりました。節約生活に挑戦なさっているのですね?」
「う、ん、うん? まあ、そういうところかな」
何か違う気がするが、マァルナが納得したのでイツハはよしとすることにした。
それから、彼は昨夜と同じ栄養補給ゼリーを注文し、それを一気に胃へと収める。
「お食事が終わりでございますね」
何やら寂しそうにしているマァルナを見ていると、イツハは申し訳ない気持ちになってしまう。
その後、イツハは身支度を整えてみるも、まだ時間は余っている。
どうしたものかと思っていると、マァルナが恐る恐る彼へと話しかけてくる。
「イツハ様。僭越ながら、私めにお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「え、別にいいけれども。何をするの?」
「私の仲間の状態を確認したいのでございます」
「そうか。自分も一緒に行くよ」
「あ、おばさんもいいかしら?」
「ありがとうございます」
皆で小屋の外へと出ると、明るくなったおかげで当然視界も良好だ。
「ん、あれは――」
山の奥へと向かう道を見てみると、何やら半透明の壁のようなもので塞がれている。
なるほど、時間にならないと先へは進めないということらしい。
「で、これは――」
そして、マァルナが埋まっていた山積みとなった機械人形を見てみると、改めて薄気味の悪い光景だった。
「う……」
幸いにも機械人形の中に入っていた循環液は赤ではなく薄い水色だった。
もし赤ければ、それこそ人間の死体の山とさほど変わらなかっただろう。
しかし、精巧な技術で作られたせいか、イツハは彼らのこと切れた表情から思わず目を背けてしまう。
それほどまでに彼らの表情が生々しかったのだ。
「私の同型の機種が何体かおります……」
「その子達は動かないのかしら?」
「私と同じ機種であれば、破損に関しましては通常であれば標準装備されているセルフメンテナンスユニットでの自動修復を行えます。恐らくは半永久稼働炉に異常があったものと思われます」
「そうなんだね……」
イツハは恐る恐る機械人形の積まれた山に目を向ける。
マァルナとどこか似ている雰囲気の機体もあれば、角の生えた機体や、全身に体毛が生えた機体といった多種多様なものが見られる。
「どうして、自分そっくりのお人形が欲しくなるのかしらね?」
「どうして、でしょうかね……」
イツハにもわからなかった。
どうして、わざわざ自身そっくりに作るのだろうか。
創造主を気取りたかったのか、それとも等身大の何でも言うことを聞いてくれるお友達が欲しかったのか。
いずれにせよ、どんなに愛着を込めて作ったとしても、彼らの主がどこにもいないと思うとイツハは悲しくて仕方なかった。
「イツハ様。私の用件は済みました」
「え?」
「私めは長時間機能停止状態にありました。つい先程、人の気配を感じることが出来たために、こうして再起動いたしました」
「それは、自分のこと?」
イツハが自身を指さすと、マァルナはこくりと頷く。
自身がたまたま近くにいたから、彼女が覚醒した切っ掛けになったのか。
「しかし、どうして私めだけが再起動出来たのかが知りたかったのです」
「た、確かに……」
たまたまだとか、偶然だとか、そういった言葉で片付けてしまってもいい。
だが、マァルナを見ていると、とてもではないがイツハは雑な言葉で対応する気にはなれなかった。
「もしかして、何かしらの意味があるのかもしれないかな」
「意味……」
「うん。自分も記憶がなくてどこの誰だかすらわからないんだ。ミュナおばさんと出会ったのも、意味があることだと思っているよ」
「私もね、いっちゃんとルナちゃんと出会えたことに、必ず意味があると思うのよ!」
果たして、どんな意味があるのだろうか。
少なくとも、今のイツハには前に進みたい理由が欲しかった。
そして、迷えるマァルナにも希望を与えたかった。
そう思うと、ミュナの言葉に対して彼は力強く頷いていた。
「さて、そろそろ開始の時間みたいね」
「あ、もうこんな時間か……」
タブレットに表示されていた時間が残りわずかとなっていた。
イツハが空を仰ぐと、天使のライトムが舞い降りてくる。
「はてと……」
天使の案内で次なる試練へと導かれる――。
何ともまあ、世知辛い世の中だ。
その試練の先に待ち構えているのは、果たして天国か、それとも――。
前に進む理由というのは誰もが欲しがるものなのかもしれません。
さて、次回はミュナおばさん達が次の試練の場所へと向かう所から始まります。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




