第二十一話 母親
現像のガラクタが取り出した写真の中には、何とイツハのお母さんが映っていたそうです。
はたして、イツハのお母さんとはどんな方なのでしょうか?
「いっちゃんのお母さん?」
「はい!」
ミュナは写真の人物とイツハの顔を見比べる。
写真には眼鏡を掛けた一人の女性が映し出されていた。
真正面を向いており、表情は何の面白味もない真顔だった。
見る人が見れば、証明写真の類かと推測するだろう。
問題はその女性とイツハの類似点だ。
冷淡な顔つきと真っ黒な髪の色、そして真紅の瞳。耳が尖っているのも特徴的だ。
イツハの白い髪と青空のような瞳、丸い耳と比べても、本当に親子なのかどうか疑ってしまう。
だが、嬉しそうな彼の顔を見ていると、ミュナは柔らかな表情でこう答える他なかった。
「素敵な方ね」
「はい!」
「なんて、お名前かしら?」
「え、名前、ですか……」
イツハは顔を曇らせる。
名前は分からなかった。
沈黙に耐えきれず、彼は弁明するかのようにこう答える。
「あっと、その――。自分のお母さんで間違いないんです!」
「ええ、それならばいつか思い出せるわよ」
「はい」
ミュナの笑顔を見て、イツハもまた笑う。
「ありがとうございます。でも、どうして、これを――」
「皆様の、写真や画像データ。それらもまたいつかは捨てられる定め。僭越ながらも、私は、それを復元できるのです」
「そうでしたか……」
「お役に立てたならば光栄です。よければ、これも差し上げましょう」
そう言うと、現像のガラクタは自身の胸から先程放り投げたフィルムを取り出す。
「え、いいのですか?」
「構いません。どうか、お守り代わりに、してください」
「あ、ありがとうございます」
「大盤振る舞いで申し訳ないわね~」
「いえいえ。私のような、ガラクタでも、誰かのお役に立てるのならば光栄です」
「そんな……」
イツハは写真とフィルムを懐にしまいながらも、どう答えようか迷う。
そして――。
「もしかすると、何かの意味があったからこそ、今のあなたは自我を持っているのかもしれません。現に、自分の大切な人を思い出せましたもの」
「そう、ですよね、そう、なんですよね」
現像のガラクタは感銘を受けたのか、身体を細かく震わせる。
その度に、身体を構成している部品から軋む音がする。
「そうだ、先を、急いでいるのでしょう? 引き留めて、申し訳ございません」
「いいのよ~。いっちゃん、行きましょ?」
「は、はい」
ミュナとイツハは現像のガラクタに別れを告げて先を急ぐ。
山道であるものの起伏は緩やかであり、今の所道にも障害物もない。
まるでハイキングでもしているかのような心地で歩きながらも、彼は背後を気にする。
トレンとギガントのコンビが追ってくる気配はない。
恐らくは試練を攻略したイツハ達がその特典として先へと進めているということだろうか。
「こっちに進めばいいのかしら?」
「道がいくつも分かれていますね。って――」
周囲を見てみると、矢印の掛かれた立て札を持った準天使達が飛んでいる。
撮影を行う準天使とは別の個体なのだろうか。
イツハが札をよく見てみると何やら文字が書かれているが、彼には読めない文字だ。
「えっと、応援ポイントの累計によってルートが決められています、ですって」
「そうなんですね。ちなみに、今はどのくらいポイントが溜まっていますか?」
「見てみましょ」
イツハとミュナはそれぞれのタブレットを操作し、配信アプリを起動する。
登録者:イツハ
応援ポイント :3527p
累計応援ポイント:3732p
ファン数 : 53名
「かなり増えていますね」
ポイントの取得履歴を確認すると、試練突破ボーナスで3000ポイントも加算されている。
「ミュナおばさんはどのくらいポイントが溜まりましたか?」
「こんな感じよ~」
登録者:ミュナ
応援ポイント :51045p
累計応援ポイント:54699p
ファン数 : 3506名
「う、流石ミュナおばさんですね……」
よく見てみると、タブレットのユーザー名にきちんとミュナの名前が表記されており、問い合わせがきちんと反映されていることに彼は安心した。
「ふふん。これぞ、おばさんパワーよ。立て札によると累計ポイントが5万ポイントを上回っているから近道を進めているんですって」
「順風満帆ですね」
「そういうことね♪」
テンポよく進んでいくミュナと共にイツハも前進していく。
肉体的な疲れは残っているものの、上り調子の身体はまだまだ動きそうだ。
「しかし、暗くなってきましたね」
「そうね~。あら?」
ミュナが声を上げたため、イツハはとっさに足を止める。
「何かあったのですか?」
「ここは廃墟かしらね?」
暗くてよく見えなかったが、確かに小屋らしきものが数件建っている。
小屋の中から灯りも見えない以上、人が住んでいるわけもないようだ。
離れたところには暗くてよくわからないが、何かが積まれて山状になっている。
怪しい雰囲気のせいで否が応でも警戒心が高まり、イツハは自然とホフリの剣の柄に手を添えた――。
何やら不穏な雰囲気となりましたが、どのような展開となるのでしょうか?
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハの活躍をお楽しみに。




