第十七話 そして灰に散る
いよいよ、ミュナおばさんとトレンとの戦いに決着がつきます。
果たして、どちらが勝つのでしょうか?
それでは本編をどうぞ!
ギガントは目を閉じながらも、必死に祈っていた。
師と崇めているトレンが負けぬように。
ただ、敵対する存在が強大な神ならば、果たしてその祈りに価値などあるのだろうか。
『おのれ……』
接近戦に持ち込まなければ勝てないと確信したのだろう。
トレンはミュナへと接近を試みるも、離れていくミュナへと追いつくことが出来ない。
ミュナは散歩するような感覚で歩いているだけだというのに。
『何故だ、何故だ……』
灰は視界をも遮っているせいか距離感が掴めない。
トレンはそれには気づいているのだが、単なる距離感ではどうにも説明がつかない。
何もかもをコケにされているようだと自覚したその瞬間、トレンの怒りは頂点に達した。
『奥義を放てばならんとはいかんかの』
トレンは覚悟を決めたかのように剣を構えた。
両手で剣を掲げ、そして大きく仰け反る。
その様子を目にして、ミュナはピタリと足を止める。
『滅びよ。【黄襲】!』
トレンが剣を振るったその瞬間、黄金色の光がけたたましい音と共に放たれる。
――この一撃は防げん。
トレンはそう確信していた。
事実、ミュナも回避しようとはしなかった。
だが、その代わりにミュナは大きく地面をドンと踏みつける。
「えっ!?」
イツハの所まで届く衝撃で、思わず体勢が崩れるほどの勢いだ。
しかし、この行動に何の意味があるかと思ったその瞬間――。
『なぬっ!?』
トレンの放った雷を纏った一撃は――輝く結晶により防がれてしまった。
ミュナが地面を踏みつけたのは、足元に転がっていた大量の結晶を衝撃で強引に空中へ舞い散らせるためのものだった。
浮き上がった結晶はトレンを阻む形で立ち塞がる。
その光景を目にして、イツハは思わず綺麗だなと感動してしまう。
視聴者も感動したのだろう、感嘆の声が響き渡ってきた。
だが、それよりも感動させられたのが、黄金色の雷撃を完全に受け止めてしまったことだ。
役目を終えた結晶のカーテンは眠りに就くかのように地面へと落下していった。
『そ、そんな――』
結晶の絨毯の上でトレンが落胆し、力なく剣を手から離した瞬間だった。
ミュナはそれを狙っていたかのように、一気にトレンとの距離を詰める。
『ぬおっ!?』
トレンは反撃をしようにも何もかもが間に合わなかった。
ミュナはスリッパを取り出し、そして――。
『えい!』
トレンの頭部に痛恨の一撃を叩き込む。
容赦のない攻撃が直撃し、トレンは地面に大きくめり込んだ。
『ごげへうっ!?』
悲鳴にしてはあまりにも耳障りなものだった。
神としての威厳がまるでなく、勝者が耳にしても優越感に浸ることすら出来ないだろう。
「この試練中は、試練の中で手に入れたものでないと攻撃は出来ないはずじゃ……」
「それはあくまでも、もふもふ☆に攻撃する時だけかと」
「あっ」
ギガントが驚いている最中、ミュナはスリッパをトレンへと突き付けながらもこう言った。
『降参して貰えないかしら?』
『誰が降参など……』
どう見ても圧倒的大差で負けてしまったというのに、トレンは意地でも首を縦に振らなかった。
既に灰は止んでおり、決着といった感じなのだがこれでは視聴者に申し訳ない気さえもする。
すると、ミュナは自分の手をポンと叩き、準天使の構えているカメラに向かってこんなことを口にした。
『皆~! ぶん投げて貰いたい物ってあるかしら~?』
「「へ?」」
イツハとギガントの困惑の声が重なる。
「ぶ、ぶん投げる――!?」
ギガントとトレンが驚愕する中、イツハは気が付いてしまった。
ああ、そうか。
つまりはそういうことだ。
イツハが申し訳なさそうに頭を下げていると、ミュナはタブレットを眺めてリクエストを確認する。
うんうんと頷いてから、ミュナが再度歌い出す。
『よ、よせ――!』
『だ~め♪』
とびっきりの笑顔と共にミュナは両手の人差し指を交差させてバッテンを示す。
あ、もう容赦しないんだと思うと、イツハはますます申し訳なくなってしまう。
彼がどう謝罪すればいいのか困っていると上空に灰色のもやが現れ、それが徐々に集まり出す。
車輪だろうか。
それにしてはやたらに大きく、その直径は人の背丈の倍ほどはある。
『皆~! これからフィニッシュするからね~♪』
そう宣言してからミュナはその場で跳躍する。
トレンは逃げようとするも、先程のスリッパの一撃が大きかったらしく、一歩も動くことが出来ないようだ。
一方、ミュナは上空で形成された巨大なそれを掴む。
二つの車輪をくっつけたようなもので、イツハの頭の中には裁縫という単語が思い浮かぶ。
そうだ、糸を巻き付けあるアレに酷似している。
その名前を思い出そうとする前に、ミュナは急降下しながらも叫ぶ。
『パンジャンドラムよっ!』
パンジャンドラムと呼んだそれを、ミュナはトレンへと全力で叩きつけた。
すると、この世の終わりとばかりに大地がひび割れ、地面が激しく揺れる。
『おのれ……!』
トレンは最後のあがきとばかりに、パンジャンドラムを両の手で何とか受け止めた。
地上と空中にて、パンジャンドラムを挟んだ形で二柱の神々は対峙する。
「なんだこれは――」
シュールすぎる光景だ。
神々の大真面目な戦いだというのに。
事情を知らない者が目にしたら、「馬鹿じゃないの?」という感想を漏らすだろう。
そう、そんな率直な感想がとっさに出てしまう。
それは間違いではないし、何よりイツハもまた視聴者Aという存在であったのならば一笑していただろう。
「先生! 負けないでください!」
ギガントが大声を上げており、イツハも負けずに声を張り上げる。
「ミュナおばさん!」
力が拮抗する最中、ミュナは――叫んだ。
『もういっちょ!』
「もういっちょ?」
タブレットから聞こえたその声に、何のことやらとイツハが首を傾げていると――。
「あ」
そういう意味か。
ミュナの片手にもう一つ――パンジャンドラムが現れた。
『なにぃっ!?』
『そいやあああっ!』
ミュナは容赦なかった。
トレンが押さえつけているパンジャンドラムに対し、パンジャンドラムで殴り掛かる。
嗚呼、もう意味がわからない。
そもそもパンジャンドラムって何だ?
イツハの混乱を余所に、二つのパンジャンドラムの衝突が壮大な破壊の音楽を奏でる。
「ひっ――」
離れていてもわかるとんでもない衝撃に、イツハはその場にへたりこむ。
まるで超新星爆発を間近で体験しているかのようだ。
彼の隣ではギガントもまた頭を抱えたその場に座り込んでいた。
「トレン先生――!?」
やがて、パンジャンドラムが灰となって消え去ると、そのあとには巨大なクレーターが残されていた。
その下にはまるで干からびたカエルのように潰れたトレンの姿があった。
普通の生物ならば粉微塵となっているはずだが、これもトレンが口にしていた鍛錬の賜物に違いない。
『おばさんの勝ちね♪』
嬉しそうに跳ねているミュナと共に視聴者の歓声が響き合う。
パンジャンドラムを高らかに讃えるような声も聞こえ、イツハは帰る場所もわからないという状況下にありながらも家へ帰りたい気分に駆られる。
「なんだかな……」
壮大な戦いの末、ミュナの圧勝で終わってしまった。
イツハは色々と思うことがあったが、彼としてはやはり今後不安で仕方なかったのは――。
「これからも、このテンションに付き合わないといけないのか……」
カメラに向かってポーズを決めているミュナを目にして、イツハはがくりと項垂れた。
無事にミュナおばさんの勝利となりました!
今後も圧倒的な力で盛り上げてくれるでしょう。
それに付き合わされるイツハ青年が気の毒ではありますが――。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハの活躍をお楽しみに。




