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第十四話 神々の対峙

休憩を終えたミュナおばさんとイツハ。

もふもふ☆ぐれいとを鎮めるべく、西にある森へと向かうところから物語は続きます。

 足がくたびれ、息が切れ、そして額からは汗が噴き出す。

 生物としては当たり前の生理的現象だ。

 疲労感はあれども、生きているという実感が湧いてくる。

 イツハは考える。

 神にはこの実感がないのだろうか。

 そう考えてしまうと、ミュナという存在がやはり遠いものに感じられてしまう。


「いっちゃん。この森みたいね」


 ミュナの声で、イツハは顔を上げる。

 目的地を思い出して改めて周囲を見てみると、前方には写真の葉を生やした木が群生していた。


「あれが森――。写真の木が生えているんですね」

「そうみたい。でも、あっちの方はなぎ倒されているわね」

「本当だ……」

 

 木々が根元からなぎ倒されている区画を見てイツハは目を丸くする。

 根本から力づくで折れている点から見ても、自然現象の類ではないようだ。


「もしかして、もふもふ☆ぐれいとが……?」

「可能性はあるわね」

「この先にいるのでしょうか?」

「ええ。ちょうどお相手さんも来たみたいだものね」

「お相手さん?」


 ミュナの真剣な眼差しを目にして、イツハは瞬時に察する。

 手にいれたもふもふ☆スラッシャーの前脚を構えていると、見覚えのある大男が近寄ってきた。

 その傍らには顎から伸びる白い髭が特徴的な小柄な男がいた。


「いやあ、久しぶりですぜ」

「そうね」

「お前さん方も来たのか」

「はい」


 言うまでもなくギガントとトレンのコンビだ。

 先程会った時と比べると、ギガントは鱗を強引に繋いで作ったと思われる鎧で身を固め、先端に牙やら爪を打ち付けた巨大な獣の骨を手にしていた。


「悪いが何とかぐれいとやらはわし達が退治させて貰うぞい。お前さん達は邪魔だからどっかに行って貰えんか?」

「冗談はよしてちょうだい。もふもふ☆ぐれいとちゃんは私達が説得するのだから」


 すると、トレンは手にしていた剣――カマキリの外骨格を加工したものだろうか、その刃先を見てからこんなことを言い出す。


「提案じゃが、わしらとお前さんで勝負をせんかい?」

「勝負?」

「お前さんとワシの単純な力比べじゃ」


 トレンはミュナを指さす。

 その様子からして、絶対に負けないという自信に満ちているのだろう。

 この提案に対し、ミュナおばさんはどんな反応をするのか。

 イツハが固唾を飲んで見守っていると――。


「え?」


 キョトン、としていた。

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしており、ミュナはまるで想定すらしていなかったようだ。

 余程滑稽だったのか、ギガントが大声で笑い出す。


「はっはっは! 降参するならしてもいいんですぜ?」

「そうじゃないのよ~。久々なのよね」

「久々とな?」

「ええ。真正面から戦いを挑まれるのはね」


 ミュナは微笑んでいる。

 恐れもせず、ましてや戦意で高揚しているわけでもない。

 まるで、近所の子供の遊びに付き合ってあげているような。

 そんな余裕を目にして、イツハは例えようのない戦慄を覚える。


「ワシも小馬鹿にされるとは思わなんだ。して、力比べに応じてくれるということでよいかの?」

「ええ、勿論よ」


 にこりと笑ってから、ミュナはこう続ける。


「おばさんとして、もう逃げないと誓ったもの」

「ん?」


 どういう意味なのだろうか。

 イツハがミュナに尋ねようとする前に、トレンが低い声でこう言った。


「当然、この戦いは配信させて貰うぞい」

「それは助かるわ~」

「無様な姿を晒すことになってもよいかの?」

「それはないわよ~」


 ミュナおばさんは「いやね~」と言うように手を振る。


「このワシに勝てると思うておるのか?」

「私が負けるはずないもの。何故かというと――」


 ミュナは快活な笑みを浮かべる。

 その自信に満ちた様子を見ると、確固たる根拠があるのだろう。

 イツハが期待していると、ミュナは答える。


「私が、おばさんだからよ」

「ふざけおって……」


 トレンは怒りの言葉を口にしながらも、タブレットを取り出して操作する。

 すると、カメラを手にした準天使達が現れたため、ミュナも同じようにタブレットを操作して配信の開始を行った。


「えっと、ミュナおばさん……」


 イツハにはトレンの企みが手に取るように理解してしまった。

 配信によって自身の実力を視聴者へ伝えることでさらにファンを得ようとしているのだろう。

 ミュナとイツハのコンビを打ち負かし、競争相手を蹴落とすということも視野に入っているに違いない。


「いっちゃん。離れていてちょうだい。とても危険だから」

「あ、は、はい!」

 

 イツハが急いでその場から離れると、ギガントもまた同じように退避し始めている。


「トレン先生! 頼みましたよ!」


 イツハがギガントに目をやると、当然といった様子で喋り出す。


「巻き込まれたら一巻の終わりだからよ」


 イツハはミュナの戦っている場面を思い出す。

 単純に考えると、神による無茶苦茶な戦いがぶつかり合うのだ。

 その余波は大災害級であることは容易に想像が出来る。

 辛うじてミュナとトレンが対峙しているのがわかる距離まで距離を離すと、ギガントがタブレットを取り出している。


「知ってるか? 配信アプリの設定変更で、相方を撮影するカメラ視点で見られるぜ」

「あ、ありがとう」


 ギガントに教えて貰った通りにタブレットを操作してみると、ミュナを撮影する準天使のカメラ目線での映像が表示された。


「これは便利だ。」

「だろう? ところで、その格好からするとあんたは軍人か?」

「ぐんじん……?」


 ギガントに指摘され、イツハは改めて自身の格好を注視する。

 身に着けている服は身体にピッタリと張り付いているかのように弾力性が高く、右胸には意味ありげなマークが描かれている。

 『ウェットスーツ』という単語がイツハの頭に浮かぶが、脛や腕、それに左胸の部分にはプロテクターが付いており、街中や砂浜を歩くにしては不格好だ。


「俺は元軍人でよ、こう見ても少佐だったんだ。最後の最後まで、戦線で戦っていたんだぜ」

「そ、そうだったんですね」

「そいつは、俺の所属していた軍だとスマートバトラーっていう多目的戦闘用歩兵の標準装備にどこか似ているな」

「考えたこともなかったですね……」


 気が付けば、イツハはこのスーツを身に付けていた。

 ホフリの剣といい、以前どこかで戦っていたのだろうか。

 誰かを平然と傷つけ、それをすっかりと忘れてしまっているのか。

 彼は深く思い返してみるも、何も思い出せなかった。


「おっと、どうやらおっぱじまったようだな」


 ミュナとトレンが向かい合う。

 一礼でもするのだろうかと思い、イツハが瞬きもせずタブレットを注視していると――。


『ミュナ&イツハ! 皆応援よろしくね~♪』

『支援者の諸君! 我が鍛錬の結果をお見せしよう!』


 双方の丁寧なあいさつがタブレット聞こえてくる。

 手を振りながらも、にこやかな笑顔を送る二柱の神を見ていると、イツハは不思議な気持ちだった。


「え、えぇ……」


 これはこれで正しいかもしれない。

 全身を縛り付けていた緊張感がどこかへ飛んで行くのを感じながらも、イツハは神々の戦いを見守ることにした。

次回はミュナおばさんとトレンの戦いが始まります。

果たして、どんな戦いとなるのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハの活躍をお楽しみに。

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