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【1部完結】ひとりぼっちふたりの連れ添いまで冒険譚 ~少女とドラゴン~  作者: めーめー
2章 馬車は揺れるよ、ローラシア王国へ
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第7話 物騒と陰謀は旅のおとも(後)

「陰謀めいたものを感じるわ」


 馬車の運転が再開されて早々、リオさんがそう漏らした。

 ギッチギチに金品が詰まった袋(奪いたて)が真横にあるせいか、妙にリオさんの発言に雰囲気を与えている。


「さっきの人達の事ですよね?」

「そ。…さっき、アンタの姉貴達はなんでローラシアへ? とか言ってたわよね」

「は、はい」

「ひょっとしたら、そことも関連するかもしれないわ。──事の始まりは一月ぐらい前のことよ」


 そうして、リオさんは口火を切った。


「その頃、アタシはノーステリアを目指していたの。ここから北にある街でね。

街を超えた先の霊峰が有名だから、名前ぐらいは聞いたことある奴も多いんじゃない?」

「リオさんはどうしてノーステリアへ…?」

「私用よ。アタシの師匠…もう死んじゃったんだけど。アタシに魔法の師事をしてくれた人が残した研究成果が、随分前に盗難されてね。その調査がてらよ」


 へー…。リオさんはそんな事情で動いていたんだ…。


「でも、アタシの予定は破綻した。ノーステリアまであと少しってとこの道中で、街が消し飛んだなんて知らせが入ったからね」

「消し飛ぶ!?」


 穏やかじゃない話だ。

 ただ、合点もいった。街がそんな事態になれば、職と住処を失った住人が野盗に身をやつすのも無理ない気がする…。


「原因は一緒に届いた知らせですぐに分かったわ。どこからか現れたドラゴンが暴れたのよ。結果、街が壊滅する惨事に見舞われたみたい」


 ドラゴン。なるほどそれなら仕方ない…………ドラゴン?


「え」


 隣のゼルスさんを見ると──彼は、石みたいに固まっていた。

 顔面蒼白。失神寸前。そんな雰囲気を漂わせて。


 ……あの。

 ひょっとしなくても、ひょっとします…?


「フィナって、ドラゴンは分かる?」

「は、はい。おおむねは…」 


 なにせお隣にいらっしゃいますから、とは死んでも口に出せない。


「エンカウントしたら一人では立ち向かうなってのが鉄板のモンスターね。なまくら剣じゃあ傷をつけられないぐらい硬くて、口から熱線や灼熱のブレスを吐いたり、魔法も使える程度には賢いってのがドラゴンの標準性能だから。

 中でも厄介なのがあの翼よね。とんでも加速と慣性ガン無視の飛行が出来ちゃうから、町を守るために対領空も兼ねた防護結界が大戦時に作られたなんて史実もあってね…。

 一応、ここ数十年の研究でようやくドラゴンと渡り合える魔法も開発されたけど、なんにせよ、最上位に危険なモンスターよ」


 …なるほど。改めて聞いてみると、けっこう初耳な話もちらほらあるな…。


「昔は神の使徒だったなんて話もあるけど、街をぶっ壊してるモンスターにそれはないわよねぇ…。誰がそんなことを言い始めたんだか」


 空笑いする。

 わたしは今、どう反応するのが正解なんだろう…。


「ちなみに、ノーステリアのドラゴンはトドメを刺す前に逃げられちゃったそうよ。あまり見たことのない青白いドラゴンだったらしいけど…一体どこ行っちゃったのかしらね」


 えーと…たぶんですけど、すぐそこに…。

 だらだらと、わたしとゼルスさんは仲良く冷や汗を流すしかなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 …まずい。どう考えても、この話を続けるのは危険だ。

 どうにか話の切り替えを図ろう。


「で…でも。それがどう姉さん達と繋がるんですか?」

「簡単よ。あの二人は事件当日にノーステリアの街に居たの」

「え!?」

「ドラゴン騒動にも参加してたらしいけど…詳しくは聞かなかったわ。アタシにとって重要なのは、そこじゃあなかったから」


 わたしは気になる点なのですが…という返事は抑えた。

 話が逸れるし、それでゼルスさんに飛び火しても困るし…うん、やめておこう。


「そもそも、姉さん達はどうしてノーステリアに…?」

「冒険者組合からの仕事で訪れてたらしいわ。で、その途中で厄介な事件に巻き込まれて、気がついたらドラゴン騒動にも…って感じだったみたい」


 コツコツ。リオさんが指を叩く。

 …気のせいかな。リオさん、なんだか苛立っておられる…?


「あの…厄介な事件って、一体…?」

「住人の失踪事件よ」

「な…!」


 面を食らう。

 それは、わたしには他人事では済ませられない内容だった。


「これが一筋縄じゃいかなさそうな事件でね。後で知ったことなんだけど…ここ数ヵ月、ダムレスの色々な町で住人の失踪は起きてるそうなの。それこそ、さっきみたいな盗賊連中が通行人を襲って、どこかに人身売買しているなんてのもざらみたいでね」

「そんなの一大事じゃないですか! どうして誰も対処してないんです!?」

「さっきも話したとおり、ダムレスは集落ごとの自治をしているから、その町の中で起きた出来事に別の町が介入するといった文化が希薄なの。小さな出来事への適応力は高い一方、大規模な犯罪や災害が起きた際はめっぽう弱い…。

 それこそ、先のノーステリア壊滅がいい例ね。だから事件が表沙汰になるのも時間がかかってるし、その後の対応にしても、なにかと後手に回ってるみたい」

「…リオさん。その失踪事件の中には、集落がまるごと襲われるなんて事例は…?」

「さあ。そこまではアタシには分からないわ」

「…………」


 無意識に握り締めていた両手に力が入る。

 わたし達の森が襲われたのも、ひょっとしたら……

 そう考えたら、居ても立ってもいられなかった。


「とまあ、そんな感じできな臭い状況なんだけど…アタシ的には、あの二人が事件の最中に出くわしたっていう犯人らしき奴が気になっていてね。

 ドラゴン騒動のごたごたで逃げられちゃったそうだけど、現地に残された情報から、なんとかそいつがローラシアに逃げた可能性が高いと見積もれたの。

 で、アタシ一人じゃあそろそろ支障が生じそうだったから、あの二人と交渉して、アタシと一緒にローラシアに来てもらうことになったのよ」


 ん…?

 それはおかしい。

 それなら、リオさんは二人と行動を共にしているはずで……



「……なったんだけどねぇ……」


 嫌に低いリオさんの声。

 口元は笑っているけど、歪んだ眉尻と目尻は煮だったお湯みたいにヒクヒクしている。


 …怒っている。

 何に対してかは分からないけど、とてもとてもリオさんは怒っておられる…!


「…なにかあったんですか…?」

「なにがあったと思う?」


 そこで聞き返さないで…どう返すのが正解か分からなくて怖いから…!


「……置いて行かれちゃったんですか……?」


 それでも勇気を振り絞って答えたら、



 ドッカアァァァーーーーーーン!



 そんな爆発音を耳にした。

 実際にそんな音はしてないけど、リオさんの中では間違いなくしていた。


「それだけで済めばまだマシだったわよ! アイツら、自分達の借金をアタシに返済させておきながら、アタシを置いてローラシアに行きやがったのよ!? 大恩ある相手にする仕打ちじゃないでしょ信じられる!?!?」

「それは酷いですね!」


 ヤケクソで叫んだ。そうしないと肩を掴んで揺するリオさんにヤられるからだ。

 というか借金??

 姉さん達は一体なにをしでかしてしまったの!?


「ったく! あんな書置きだけで話を済ませた気になるんじゃないわよ、あの男は…ッ! ほんと信じらんないッ!!」

「クズですね! そんな悪い人達、一刻も早く鉄拳制裁しないとですね!!」

「本当よ! ああもう、何回思い出しても腹が立つぅぅぅぅーーーーッ!!!」

「ごもっともですぅ!」


 ごめんなさい姉さん。

 わたしは他人のことをこんな口悪く罵る妹になってしまいました。

 でも今はこうしないと首を絞められそうなんですだから許して…ッ!


「それはそうとリオさん、よそ見運転は危ないから前を向いて…」

「お陰でアタシの手持ちはすっからかんだってのに、ふざけんじゃないわよねぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「あああああはいぃぃぃぃぃ! そうですねええぇぇえぇぇーーーーッ!!」


 そんな感じで、リオさんの激昂はしばらく続いた。


 とりあえず。

 蚊帳の外に徹しているゼルスさんは冷めた目で見てないで助けてくださいッ!!

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