第6話 物騒と陰謀は旅のおとも(前)
「≪フレイム・ブラスト≫!」
リオさんの杖から放たれた複数の火炎球がモンスター達を炭化させる!
周囲の草木に飛び火しない、けれどモンスターは確実に屠る連撃。
威力も凄いけど、それ以上にコントールが正確だ。
そんなリオさんを狙う気配が複数。
させない!
「≪アース・インター≫!」
わたしの魔法で隆起した岩土がモンスターを幽閉する。
一、二、三…一体外した!
こちらに疾走する大型野犬。
そのスピードで近づいてくるなら、魔法や弓矢よりこっち!
「はあ!」
ショートソードで首元をぱっくり斬り裂く!
致命傷だ。瞳孔を大きく見開いて、野犬が地面にくずおれた。
わたし達の元に押し寄せた群れは確実に数を減らしている。
この調子なら、つつがなく終わりそう。
「ゴブリンにコボルト、凶暴化した野犬ばっかね。これだけの群れを従えているなら、もう少し歯ごたえあっても良さそうなもんだけど…っと!」
会話しながら、遠くのコボルトへ炎魔法をヒットさせるリオさん。
わたしは近づいてくるゴブリン達を弓矢で牽制しながら応じる。
「ゼルスさんは大丈夫でしょうか!?」
「大丈夫なんじゃない? あっちは随分静かみたいだし──≪ライトニング≫!」
どぅん!
リオさんが放った魔法で、最後の二体が爆散した!
「目に見える奴は片づいたけど…どう? おかわりは居そう?」
「…。今ので最後だと思います」
「おっし! 終わった終わった。おどおどしてた割にアンタやるじゃん。魔法の発動も早いし。エルフってやっぱ魔法が得意なの?」
「こんなの全然ですよ。森ではわたし、落ちこぼれでしたし」
「あのスピードで発動できて落ちこぼれって……やっぱり地金が違うな…。あと、その腰の剣も飾りじゃなかったのね」
「はい。姉さんから教わったものです。故郷の森でよく一緒に狩猟したり、モンスターを退治したりしていました」
「…なるほど。あの女のお手前なら納得だわ」
ははは、とリオさんが半笑う。
多分。姉さん絡みの苦い記憶でも思い出したのだろう──
ゼルスさんが飛び出した先に向かうと、あちこちに倒されたモンスターの残骸があった。
ドラゴンの姿じゃなくても、ゼルスさんは大変お強いらしい。
実際、
「た、頼むぅ! 俺達が悪かった、見逃してくれ! ひぃぃぃぃぃぃっ!」
どべしっ!
「畜生! こんな強いなんて想定外もいいところだぎゃあぁっ!?」
ぐしゃあっ!
モンスター使いに、偽の検問を設けていた盗賊の方々。そんな人達が風船みたいにゼルスさんの物理(拳)で飛ばされている現場に出くわすと、爽快感よりも悲惨さが際立った。
「派手さに欠けるなぁ。野盗なんてブチのめしてなんぼでしょ」
「十分痛々しいと思うのですが…?」
「…なんだ。けっこう早く終わったんだね」
わたし達に気がついたゼルスさんが手を止める。
怪我はもちろん、汚れ一つない。流石だ。
「で? この連中、どうするの」
「無論、恐喝するわ」
「………」
「なによ、その非難げな眼差しは。文句ある?」
「別に…手早くすませてよ」
「分かってるわ」
ゼルスさんでもリオさんの蛮行は止められないみたいだ。
昨日も思ったけど、この物騒さが森の外では普通なのかな…?
どっしりと腰を据えたリオさんが生き残りの賊達に向き直ると、ぼう、と手の中に小さな火炎を生んだ。
「さて。命が惜しくば有り金を全部頂戴しましょうか」
「ひぃぃぃ! お助け…お助けをぉ!」
実に手慣れた脅迫だ。
これが初めての犯行なんてことは絶対にないんだろうな…。
「襲ったのは悪かった! でも俺達だって仕方なかったんだ! ノーステリアの街があんなんになっちまった以上、日金を稼ぐにはこうするしかなかったんだよぉ!!」
ぴく。
「ノーステリア…? アンタ達、あの街の住人なの?」
寝耳に水だったのか、リオさんが目を瞠る。
あと、わたしの見間違いでなければゼルスさんも動揺されていたような…?
「あ、あぁ。あのノーステリアの住人だ!」
「確かに盗賊にしては小綺麗な成りだし、賊に落ちぶれてから日が浅いって感じはするわね…」
「その様子じゃあ、あの街が今どうなってるのかアンタは知ってんだろ!? なら分かるだろ、俺達だって好きでこんなことをしてるんじゃねえんだよぉ!」
「そう。苦労してるのね」
「だろ? だろ!? だ、だからここは見逃して…」
「でも、それはそれ。これはこれよね」
上げてから落とされた盗賊の方々が、さぁっと顔色を青くしている。
「アタシ、同じことは二度も言いたくないの。──後は分かるわよね?」
そう言って彼らをしばき倒すリオさんの笑顔は、素晴らしく生き生きしていた。
本日の学び。
森の外の社会は、悪事を働いた人には特に厳しいみたいです。