第八話「十年一今」
シリーズものです。
アレインは15歳、ルーベルは16歳になった。
彼らの村は14歳で大人とみなされ、彼らは仕事に従事するようになる。
この村で行う仕事は農業か木こりの二択であり、アレインは農業、ルーベルは木こりになった。ただ、新人である二人は人数の関係などでお互いの仕事を手伝うこともしばしばあった。
「してぇー、修行してぇー」
土地を耕しながらルーベルは愚痴をこぼす。隣で同じく作業していたアレインが口を挟む。
「でも昔の日本じゃ、こういった農作業で体を鍛えてたってよ」
「日本ねぇ……。まぁ、確かにしっかりした角度で入れないと地面に入らないし、これをやってれば体力つきそうだけど」
「仕事と修行同時にできて効率的じゃんってならない?」
「ならないなー。こう鍛えてる!って感じが欲しいんだよ。純粋なトレーニングからしか得られない実感みたいな」
「僕はいつの間にかトレーニングになっていた!ってパターンの方が好きだな」
「前言ってた漫画ってやつの影響か?そういうのが好きなのか?」
「いや、違……。そうかも……」
「ふ……。お、そろそろ時間だろ」
「あ、そうだね」
「後はやっとくから行ってこい」
「ありがとう」
「がんばれよー」
アレインはそばに置いてあったカバンを引っ提げて農地を後にする。
彼らの村、ライ村は交易のほとんどが物々交換だ。通貨はグレーフという町との交易のみで使用した。
グレーフは鍛冶の町と呼ばれ、金属製品を購入する際にはこの町を頼っていた。
アレインは学校に通うため、そのための資金を集めるために、このグレーフの町でも働いていた。
アレインはライ村から一時間かけてグレーフに通い、「テッカ」という店に勤めている。
「おい、アレイン。おめぇ、ここ来てどれくらいになった?」
仕事終わり職人気質の店長にアレインは話しかけられた。
「三ヵ月ですね」
「どうだ。仕事には慣れたか?」
アレインは道具や材料の運搬、商品の陳列と接客を任されていた。
「はい、おやっさんの教えがうまいおかげで……」
「よせやい、照れるぜ。おめぇは真面目だし、接客の態度も悪くねぇ、それによ、学校に通うために働いてるなんて……立派じゃねぇか!」
「泣かないでくださいよ」
おやっさんは涙もろかった。
「うちのドラ息子にも見せてやりたいぜ。こんな子がいるってのをよ……」
「おやっさん、もう息子さんの話は十回以上聞いてます……」
おやっさんは忘れっぽかった。
「そうか、そうだったか……」
片づけを終えたアレインはカバンを背負う。
「帰るのか?」
「はい、明日もありますから」
「外は暗いぞ、それに最近は盗賊の目撃情報もある。危険だ。泊っていけばいい」
「ありがとうございます。でも、それならなおさら村に帰らないと……」
(村が襲われる可能性もある……)
「……そうか、なら、気を付けて帰れよ」
「はい、おやっさんまた来週もお願いします」
そう言ってアレインは帰宅した。
翌日になり、アレインは昨日のおやっさんの話を考えながら秘密基地へ向かって歩いていた。
(グレーフとライ村は遠いわけじゃない。その盗賊がこっちに来ないとも限らない。うーん、気を付けないと……)
「うぎゃ!」
考え事に集中していたアレインは眼前に差し出された剣に気が付かずぶつかった。
「気を付けろよ、アレイン」
ルーベルはいたずらっぽく笑う。
アレインは軽く鼻を押さえる。
「考え事か?」
「痛い……」
「ごめんて」
バツが悪そうに、ルーベルは剣を地面に突き刺した。
それは剣と言うにはあまりにも……棒。金属の棒を無理矢理削って、先端だけをそれっぽく尖らせただけの……棒。アレインにもルーベルにも金属加工の技術はない。剣の製造はできない。それっぽいものを剣と呼称するだけが精一杯だった。
(相変わらずテントを固定する棒にしか見えない。特に地面に突き刺さっていると)
「お、俺の最強丸がどうした?」
「いや、やっぱりその名前ダサいよ。五秒くらいで考えついた感じだもん」
「アレインがいった、獄炎琥珀刀の方がいいか?」
「何で覚えてるんだよ!それは忘れろ」
「じゃあ、最強丸でいいだろ」
(その名前出されると最強丸がマシに聞こえるのズルいだろ)
「ってそうじゃないよ。最近、グレーフで盗賊が目撃されているらしいんだ」
ルーベルは剣を引っこ抜いて素振りを始めた。
「こっちにも来そうなのか?」
「可能性はあるよ」
「そうなったら、今度こそ……」
ルーベルの顔は真剣そのものだった。村のみんなを守る。彼が心に誓ったことだ。
「うん、わかってる」
アレインも彼と同じ気持ちだった。
「でも、こっちも注意しないといけないね」
二人は禁じられた森へ視線を向けた。
懸念事項は他にもあった。実は二年ほど前から禁じられた森の獣たちの生活圏がこちら側へと近づいてきているのだ。その中には十年前に二人を襲ったあの熊と鳥のような大きな魔力の塊もあった。
アレインは定期的に秘密基地に足を運んで、獣たちの動向を見守っている。
十年経ちアレインの魔力も上がっていた。魔力感知の精度も魔法の効果範囲も広がっている。しかし、それがいかほどの物であるのかは、本人もよくわかっていない。比べる対象がいないからだった。
「同時に来ないことを祈るよ」
「もしそうなったら、森の方はアレインに任せる」
「うん、わかった」
二人は改めて決意した。
日が沈みかけていた。
「2998、2999、3000」
ノルマの素振りを終えたルーベルは汗をかきながら剣を置いた。
「お疲れ様、日が落ちる前にできるようになったね」
「まぁね。あー、本物の剣が振りてぇなー」
「ルーベルもグレーフで働く?」
「ちょっと考えてる」
グレーフには武器を取り扱う店がある。そこなら本物の剣が手に入る。
アレインが働いたお金でルーベルにプレゼントしようとした時、「それは学校へ行くためのお金だろ。自分に使えよ。俺は自分で稼ぐ」と言われて断れたことがある。
ルーベルは、みんなを守れるくらいに強くなるという夢と同じくらいに、自身の学校への夢を大切にしているのだとアレインは知った。
「アレインが学校行ったら、俺がテッカで働くかもな。推薦よろしく」
ルーベルはアレインの肩を叩く。
「おやっさんの相手は大変だよ」
「望むところよ」
ルーベルはニヤリと笑う。
「帰るか……、おばさんたちが待ってる」
完全に緩やかな空気が流れていた。
その空気に緊張が走るのをアレインは感じ取った。彼はハッとする。
ルーベルもその様子に気が付いた。若干体が強張る。
「どうした?」
「魔力を感じる……」
「本当か!?どこからだ。どこからやってくる」
ルーベルは剣を握り、周囲を見回す。
アレインは指をさす。それは森の方向ではなかった。むしろその逆だった。
「村の入り口だ。それも4つ」
完全に予想外の事態だった。
二人が事態を理解した時、頭は混乱しながらも、一目散に入口へと駆けて行った。
森の入り口付近には人だかりができている。その奥には人が乗っていた馬車がある。
二人は人波をかき分けて先頭に出る。
そこでは、村長のカシが話をしていた。
「カシのじいちゃん」
ルーベルが話しかけるとカシが振り向く。
馬車に乗っていたらしい4人がルーベルたちへと視線を注ぐ。
4人の内3人は同じ鎧に身を包んでいた。そして、もう一人の人物は白いローブに身を包んでいた。
そのローブの人物はアレインたちに近づいてくる。
近づいてきて二人はその人物の顔をはっきりと見る。
艶のある黒髪にキリッとした目が特徴の女性だが、なんといっても目に付くのは彼女の右目の眼帯だった。
そんな彼女が二人の顔をじっくり眺めている。
敵意は感じない。だが、アレインだけははっきりとわかる。この4人が魔力の発生源だということに。
アレインに緊張が走る。
敵か味方か。
ただこの出会いがアレインたちの運命を大きく変えることを彼らはまだ知らない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




