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第六話「異世界の洗礼 その3」

シリーズものです。

 他人の家はどうしてこうも自分の家と違うのだろうか。

 家の形状や室内のレイアウトの違いはもちろんある。

 でも一番は匂いだと思う。その空間の独特の匂い。その空間が持ち合わせた歴史の残り香。

 他人が入れば、自身が家族ではないことを理解させる匂い。

 そんな空気を僕は今味わっていた。

 今日僕はルーベルの家に招かれて泊まることになった。

「お世話になります」

 頭を下げてルーベルの両親に挨拶する。

「ああ、今日はゆっくりしていきなさい」

「もうすぐご飯できるからね」

 両親ともに柔和な雰囲気を感じる。緊張気味な心が少し和らいだ。

 母親の発言通り、すでに美味しそうな匂いが僕の鼻腔をくすぐる。お腹の虫も反応する。

「はらへったー!」

 ルーベルが元気よく叫ぶ。自分の家にいるからか、かなり甘えている様子だ。

「はいはい、待ってなさい」

 母親は手慣れた様にあしらって、鍋の中をかき混ぜている。

 僕もご飯が楽しみでわくわくする。

「楽しみだね」

「お母さんの料理はうまいからなー、びっくりするなよー」

 ルーベルはハードルを上げる。それだけ母親のご飯が好きだとわかって微笑ましかった。

「うん!」

「できたわよー」

 母親が重い鍋を持って、僕たちのテーブルに置いた。鍋からいい匂いと湯気が立っている。

「ミチ特性スペシャルスープよ」

 彩りの良い野菜や動物の肉が煮込まれた、まるでポトフのようなスープだ。

 母親がお玉ですくって皿に移す。

 全員に行き渡ったのを確認してみんなで手を合わせた。

「いただきます」

 僕はスープを飲む。

 動物肉から溶けた油とうま味、野菜の優しい甘みが見事の調和となってスープになっている。シンプルな味付けゆえに食材本来のおいしさを味わうことができる。単純な料理かもしれないがそれゆえ、火加減、煮込む時間、タイミング、量やカットの大きさなどの要素が重要になっていく。この味は一朝一夕で出せるものではない。

 星3つです!

「おいしい……」

「本当?お口に合ってよかったわ。たくさんあるからおかわりしていってね」

「ありがとうございます」

 おいしすぎてその後3杯もおかわりしてしまった。お腹の容量は満杯だ。


 その後ルーベルと一緒にお風呂へ入り、体を洗いっこしたり、ペニスフェンシングしたり、頭を洗って、ペニスフェンシングして、水を掛け合ったりした。

 これくらいの子どもはおちんちんがお好き。


 楽しい時間はあっという間。就寝の時間になった。

 僕とルーベルはルーベルの部屋で一緒に寝ることとなった。ルーベルの部屋は僕の家と同じように二階にある。両親は一階に寝室がある。

「へへへ、楽しい」

 ベッドに潜りながらルーベルは声を漏らす。

「ねー、またお泊り会したいね」

「な、今度はアレイン家なー」

「そうだね、いつでも来てよ」

「へへ、楽しみ」

 僕はルーベルの隣に寝転がる。

 僕たちは他愛のないことを話し合った。今日遊んだ感想や次何で遊ぶか。そしてこの村のみんなのこと。

 そして話はだんだんと真面目なものになっていく。それは夜の暗さと静けさのせいかもしれない。

「なぁ、アレインは夢ある?」

 ルーベルが気恥ずかしそうに訊いてきた。

「夢?」

「俺は……さっき言った。強くなる。強くなってみんなを守る。……それでさ、お願いがあるんだ」

「なに?」

「俺の修行を手伝ってほしいんだ」

 彼の声色に若干の気恥ずかしさを感じる。

「うん、僕にできることがあるなら協力するよ」

「ホントか?」

「うん。僕たち……友達だし」

 友達という言い方に僕も気恥ずかしくなる。

「やった!」

「シー」

「あっ……、そうだな」

 ルーベルはひそひそ声で話を続ける。

「それで、アレインの夢は?」

「僕は……」

 僕は考える。この世界に来て僕がしたいこと……。

「僕は、学校に行ってみたい」

「学校?」

「あ、ないのかな」

「んー、カシのじいちゃんが大きな町にはあるって言ってた」

 ということは、ここらへんにはないのか。

「でもお金がかかるって聞いたぞ」

「なら、お金を稼いで通いたいな」

 学校、僕が前世で十分に通えなかった場所。この世界ではしっかりと通いたい。

 改めてこう口にすると、やる気が湧いてきた。

「うん。うん!絶対に学校通うぞ!」

「シー!」

「あ……」

 僕たちは顔を見合わせて軽く笑った。

 その後、どちらともなく眠りについた。


 寝る環境が変わるとあまり深い眠りにつけないのか、僕は目が覚めてしまった。

 ガタガタガタガタ

 まどろむ心は現実に一気に引き戻された。僕はすぐさま体を起こす。そしてそばの窓を見る。

 揺れていない……。

 ということは、外の風じゃない。

 音は一階の方から聞こえる。

 異様に大きい。そう感じるのは夜の静寂さからだろうか。

 心音が激しくなる。背中にじんわりと汗がにじむ。

 明らかに異常な音だった。

「んー、どしたー?」

 隣で眠るルーベルも目を覚ます。

「シー」

 僕はルーベルの口を軽く押さえる。その様子でルーベルも覚醒した。

「なにこの音」

 小声でルーベルは呟く。

「わかんない。下から音がする」

 僕は警戒しながらベッドから出る。ルーベルもゆっくりとついてくる。

 音をたてないようにゆっくりとドアの前へ行く。短い距離なのに異様に長く感じた。

 ドアに耳を当てる。音は聞こえない。

 なるべく音を出さないようにドアを開いた。

 廊下の冷ややかな空気が肌に当たる。

 廊下を歩く素足の皮膚が床にくっついては離れる、その感触がよくわかる。

 僕の感覚は鋭敏になっていた。

 階段のそばまで来ると一階のダイニングに火の灯りがあった。

 何かとてつもなく嫌な予感に襲われた。僕は思わず口に手を当てた。鼓動がさらに早まる。

「アレイン……」

 ルーベルも何かを察したようだ、か細い声で僕に声をかけた。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 何も根拠はない。自分自身を落ち着かせることも目的で、ルーベルに答えた。

 2回深く、深呼吸した。

「ゆっくり、ゆっくりね」

 一段一段、音を立てないように僕たちは降りていく。

 すると、話し声が小さく聞こえた。

「うめーうめー」

「あー、久しぶりのメシだわ」

「でよー、あれどうするよ」

「男はあれだが、女はまだ使えんだろ」

「それよりも、早く二階見てこい」

「まぁ、待てってこれ食ってからでもいいだろ」

 聞きたくない、想像したくない会話が聞こえる。夢であったならどれほどよいか。

 呼吸がすでに乱れている。それほどまでに集中して動いていた。

「お父さん……、お母さん……」

 ルーベルは階段を降りてすぐ、両親のいる寝室に向かった。

 寝室のドアが半開きに開いている。

 ドクン

 心臓が一際大きく高鳴った。

 見るな。開けるな。感じ取るな。

 頭が危険信号をアラートしている。

 それでも先頭に立つルーベルがそのドアを開けて中に入った。僕もそれに続くしかなかった。

 中は真っ暗だった。何も見えない。だが、その空間がすでに異常だった。

 鼻につく嫌悪感のある金属臭。見知った臭いだ。口内の唾液が気持ち悪い粘性をもってくる。

 そして、足に伝う気持ちの悪い液体。その正体はわかっているはずが答えを考えたくない。

 胃液が喉奥までせり上がる感触も合わさって、気持ち悪くなる。

 そばのルーベルは声も発せず、動こうともしない。まるで、石にされたかのように体の機能がストップしていた。

「あーあ、見られちまったじゃねえか」

 突然室内に灯りが生まれた。

 目の前の惨状が視覚情報として入ってきた。

 二人は背中や腹や胸からどす黒い液体を放ちながら不自然な体勢で倒れていた。

 僕は思わず嘔吐した。

「ごめんねー、パパとママは静かにしちゃった」

 口元を押さえながら振り向く。

 ひどく汚れてみすぼらしい格好の男が三人いた。その手にはランプと血が付いた短剣。

 一人は意地汚い笑みを浮かべている。

「大丈夫だよー。すぐに二人のところに送ってあげるからー」

 逃げないと……!

 僕はそばのルーベルに視線を移した。

 ルーベルは先ほど変わらず突っ立ったまま動かない。目は恐ろしいほど開かれたまま瞬きもしない様子だ。それに小さく何か呟いている。

 何かマズイ状態であることは十分察せられた。

 僕は咄嗟に彼の手を強く握った。

 体がびくりと反応すると、何か力が抜けたように顔色が元に戻ってきた。だが、体が動くことはなさそうだった。

 僕がどうにかしないと……。

 ルーベルから手を放して、僕は男たちに向き合った。

「んー、何だ、ガキ。敵討ちかー?」

 男は馬鹿にするように言う。

 ルーベルの家族を殺め、それでもこのふざけた態度。

 僕の心に怒りが沸々と湧き上がる。

「じゃあ、死ねよ」

 何か気に障ったように男は短剣を突き立てる。

 ボキボキ

「……は?」

 男の指が変な方向に曲がったかと思うと、ランプは僕の手元に移動した。

 僕は男の持っているランプを、魔法を使って指をへし折り奪った。男からしたら何が起こったかわからないはずだ。

「あああああ!!ゆ、ゆびがああ!!」

 男は尻餅をついて倒れた。

 その異常な光景に後ろの二人が乗り込む。

 僕は魔法を使い、二人を向き合わせて、頭蓋骨同士を衝突させた。二人はそのまま気絶する。 

 倒れた二人をまたいで、先ほどの男を追う。

 ランプで照らすとすぐに見つかった。男は廊下を這いずりながら逃げていた。

 僕が迫ると、顔面をくしゃくしゃにしながら命乞いをする。

 何か言っているみたいだが、聞く気はない。

 僕は思いっきり彼の顔面を殴り倒した。もちろん、魔法で衝撃を上乗せする。

 歯が数本折れ、痙攣している男を僕は見下ろした。

 殴った右手には痛みと少しの出血がある。

 そのおかげか、心が少し冷静になった。

「ルーベルくん」

 僕は両親の寝室へとすぐに戻る。

 ルーベルは静かに短剣を握って僕が先ほど倒した男を見下ろしていた。

 そして、今まさに怒りのままに短剣を突き刺そうとしていた。

「ダメだ!」

 僕は咄嗟に魔法で彼の手にある短剣を弾き飛ばした。

 武器を失った彼の手はブルブルと震えていた。

「ダメだ。殺しちゃダメだ。ルーベルお願い……」

 これはあくまで僕のエゴだった。家族を殺されたのだ、復讐したい気持ちは理解できる。それでも、それでも、殺し返すことは僕自身がルーベルにしてほしくないことだった。

 何の説得でもない。ただただ僕の願い。

 ルーベルは力が抜けたようにその場にへたり込んだ。

 僕は彼のそばに駆け寄る。

 殺す手段を失った彼の胸中には途端に喪失感が埋まっていったようだ。

 彼の全身は震え、瞳から涙が溢れる。

「お父さん……。お母さん……」

 彼の心の堰が壊れた。

「あ……ああ……ああああ!あー!!あああああ!!!」

 彼は叫びながら言葉にならない思いをぶちまける。

「ルーベルくん……。ルーベルくん……。ルーベルくん……」

 僕は震える両腕で彼を抱きしめた。

 力のうまく入らない体で、全力で、ただ、ただ、ただ強く、強く抱きしめた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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