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第二十六話「決意、改めて」

シリーズものです。

 生徒たちは興奮冷めやらぬまま練習場を後にする。

 彼らは皆満足したような顔をしている。それもそのはずだ。魔法使いの高度な魔法戦を観戦できたからだ。それも無料で。娯楽の少ないのこの異世界で、このような体験をできたことがどれほど喜ばしいことか想像に難くない。

 この話題は明日も持ちきりだろう。しかし翌日は休日だった。学校中で騒ぎになるのは少しの先のことであった。それでも休日の話のタネは決まり切っていた。

 その話題の中心である2人、つまりは健闘したイヴリスとフィリアンは長い廊下を歩いていた。練習場のステージを降りて、選手控室へ向かう長い廊下だ。

 2人は一言もしゃべらなかった。つかつかと歩くイヴリスを、少し後ろからフィリアンがついていた。

「お疲れ様」

 そんな2人に話しかける人物が1人。

 エウノアは手を振りばがら2人を迎えた。そばにはイッテツの姿もあった。

「ナイスファイト」

 エウノアは激励の言葉を送る。

「ありがとうございます」

 イヴリスはいつも通りの元の口調で返事をした。

「アレインを見なかったか?先に出ているはずだが」

「アレインはさっき廊下ですれ違ったよ」

 イッテツが答える。

「あたしが声を掛けようとしたらさ、イッテツが今は止めておけって言うんだよ」

 エウノアが文句を垂れる。

「当たり前だ。あんなにこっぴどくやられたんだ。今は1人にしてやれ」

 フィリアンが言う。

「俺はあのまま心が折れちまわないか心配だぜ」

「大丈夫です。レイくんは戻ってきますよ」

 イヴリスが穏やかに答える。

「ほー、それは一体全体どんな根拠が?」

「私、人を見る目はあるのです」

 彼女は堂々と言ってのけた。

「なるほど、人を見る目ね……。俺は節穴だったわけだが」

 フィリアンは自虐的に笑った。イヴリスは訝しんだ。

「箱入り娘かと思ったらとんだじゃじゃ馬娘だったってわけさ」

 イヴリスは「あら」と口に手を当ててわざとらしく驚いた。

「あの動きと魔法に対する適切な対応は相当な鍛錬を積んでいないとできない」

 イッテツが腕を組んで言う。

「どんな修行をしたんだ?」

「そうだねー。あれは巧みな技術の応酬だったねー。あ、テツ、あれが参考になる魔法戦だよ」

 3人から興味の矛先を向けられて、イヴリスは重い口を開く。

「実は、偽名を使ってギルドで冒険者をやっていまして……。実戦経験はそちらで培いました」

 3人は唖然とした。

「な、何をやっているんだこの王女様は……」

「それで命を落としたら大問題だぞ」

「イヴちゃんって案外クレイジーよね」

「この話は内緒でお願いします」

 イヴリスは申し訳なさそうに頭を下げた。

「言えるか、こんなもん。……はぁ、場慣れした相手は厄介だ」

 フィリアンは悔しそうに頭を掻きむしった。

(でも……、もしあれが実戦なら、私が火竜炎巻(かりゅうえんかん)を受けた時に決着はついていたのかもしれません。それにフィリアン様、あなたもレイくんと同じで作魔衣が完全には再現されていないでしょう)

 イヴリスは声には出さず心の内に留めた。

(それを指摘しないのなら私がわざわざ言及する必要はないでしょうね。……私もまだまだ修行が足りません)

 イヴリスは内心で高揚した。

「さぁて、あたしたちもそろそろ帰りますか」

 エウノアが3人に提案した。

「そうだな、健闘した2人がずっと立ちっぱなしなのは申し訳ないな」

 そう言ってイッテツたちは会場を後にしようとした。

「行くぞ、お姫様」

 イヴリスは少し考え込んだ後、からかうように呼び掛けるフィリアンに気づいて駆け足で3人の後ろについていった。

(レイくん、私は待っていますよ)


 旧校舎の廊下には他に生徒は居なかった。

 アレインはカバンを取りに教室へと向かっていた。

 彼の心境はぐちゃぐちゃだった。

 イヴリスに惨敗した。フィリアンはそんな彼女と善戦した。

 自分は強いと思っていた。魔獣や盗賊を退け、上級生に完勝した。国から特別だと扱われた。生徒たちから注目されていた。

(……勝てると思っていた)

 緊張感がなかった。慢心していた。油断していた。

 彼は今までの自分の言動が恥ずかしくなった。

 アレインは早くその場を後にしたい気持ちとドンドンと内向的になる思考で、自分自身の歩く速度がよくわかっていなかった。実際には段々と足取りが重くなっていた。

 だからこそ間に合ったのかもしれない。

「アレイン」

 呼ぶ声が聞こえてアレインはふと現実に戻った。

 いつの間にか足元に落ちていた視線を上げると、目の前にグレイセスが立っていた。

「グレイセスさん」

「間に合ってよかった。明日は休みだからな。ちょうど君に渡したいものがあったんだ」

 そう言うと彼女は彼に一通の封筒を手渡した。

「これは……?」

「ライ村からの手紙だ」

 彼は驚いて顔を上げた。

「今朝方届いたそうだ」

「返信はできませんか?」

「村までの運搬ルートが確立できていない。できるまでもう少し時間がかかる。今は向こうから一方的に送れるだけだ」

「そうですか」

 彼はまた頭を垂れた。

「送れるようになったら真っ先に知らせる。私の要件はこれだけだ。それでは失礼するよ」

 彼女は踵を返して戻っていった。

 再び1人になった廊下で、封筒を持つアレインの手に力が籠った。

(早く読みたい)

 彼は駆け足で教室に駆け込むとカバンを手早くひったくり、すぐに教室を出る。そしてその速い足取りのまま寮へと帰った。


 寮部屋にはまだフィリアンはいなかった。

 彼は自身のデスクの横にカバンを置いて、自身のベッドに腰かけた。

 封を切り中の手紙を取り出した。手紙は2枚入っていた。この世界の紙は貴重だ。あまり豊かではないライ村では2枚ほどが限界だった。

 彼は1枚目を読む。

 

 アレインへ

 元気ですか?この手紙を読んでいるということは無事にアプリオ王国に着いたということですね。一安心です。

 私たちはあれからも毎日平和に過ごせています。

 アレインはどうですか?学校は楽しいですか?友達はできましたか?

 学校に通うのが夢でしたものね。楽しい日々を過ごせていることを願っています。

 風邪ひかないように気を付けてください。

 私たちはいつでもどこでもあなたの幸せを祈っています。

 ミーシャ・グリムより


 文章自体は母ミーシャが考え、字が書けるルーベルが書いたものだった。口下手な父グリムがこういった文章は思いつけないと踏んで、彼女が最後に名前を付け足した。アレインはそう解釈した。

 アレインの胸が熱くなった。目頭も熱くなった。

 ちょうど今彼の気持ちが落ち込んでいたため余計に胸に響いていた。

 続けて彼は後ろに重なる2枚目を読む。


 アレイン

 元気か?俺は元気だぜ。

 あれからもお前から貰った剣で毎日修行してる。最近は少し遠くの村に道場があるらしくて、そこまで走って出稽古してる。誰かと競って高め合うのはいいな。アレインも学校でそんな奴を見つけたか?練習しているか?帰ってきた時に弱っちかったら承知しないぞ。

 お前は結構立ち止まったり考え事したりするけど、落ち込んだりはするなよ。

 お前は俺のライバルだ。ずっとずっと強くなるために突き進んでくれよ。

 俺ももっともっと強くなるからよ。負けねえぜ。

 じゃあな、頑張れよ。

 ルーベル


 文字のバランスが悪く、最後の方は小さく文字の間隔が詰められていた。それに思わずアレインは苦笑してしまった。

 あまりにもおかしく少し涙が出た。

 一通り笑った後、彼は一息ついた。

(ルーベルは相変わらずだな。ずっと強くなることに貪欲だ)

(……口先だけだったな。努力していなかった)

(10年間サボってしまった……)

 アレインの体に熱が宿る。

(強くなりたい。ルーベルとの約束。フィルへの発言。不誠実に戦ってしまったイヴさんへの償い。その全てに応えられるように。もう誰にも負けないように。そして、僕自身が皆を守れるくらいに。僕は強くなりたい!)

 アレインは決意した。決心した。その目に映る覚悟は本物だった。

 強くなる。改めて彼はその目標を掲げた。

(明日は休みだ。早速始めよう)

 

 翌日、アレインはある場所に向かう。それはこれから彼が強くなるために重要な場所であった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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