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第二十四話「提案と実力」

シリーズものです。

 レストラン『アプリオット』。学生街で人気の飲食店だ。

 赤い三角屋根の木造造り。店内は広く、木の温かみが感じられるデザインになっている。

 複数人掛けのテーブルに通されたアレインたちは好きなように席に座った。

「はぁ、レイさぁ……」

 見せつけるように大きなため息を吐いてエウノアが項垂れる。

「何やってんのよ、もう」

「おっしゃる通りです……」

 アレインもまた頭を垂れていた。

「そこは自分からガっと手を掴んで「行きましょうか、お姫様」って言うところでしょう!?」

「僕キャラが違くない?」

「黙りなさいヘタレ」

 アレインは「うぅ……」と唸りながら、視線がさらに下に落ちる。

「ノアちゃん、これは私が悪いのです。私の行動がはしたなかったと……」

 イヴリスが助け船を出そうとした。

「イヴちゃんは悪くない!はい、レイも言って!イヴちゃんは悪くない!」

「はい。イヴリスさんは悪くないです」

「……イヴリスさん?」

 新たな地雷を踏んだ。

「ちょっと待って。まってまってまって。イヴリスさん?あだ名で呼んでない?え、あたしのことは呼べているよね?なんで呼ばないの?イヴちゃんはわざわざ、わーざわーざ()()()()があだ名で呼んでもいいように「レイくん」って呼んでくれているよね?それなのになに?未だに「イヴリスさん」って?」

 会話に合わせて机をコンコンと指で小突きながらまくしたてる。そんな彼女にアレインは閉口してしまった。彼女は続ける。

「アレイン、これは失礼だよ。不敬だよ。極刑だよ」

「そ、そこまでは……」

「国の王女の懇意を無視しているのに?」

「う……」

「はい、あだ名で呼んで」

「……イヴ、さん」

「イヴちゃん」

「イヴさん」

「ちゃん!」

「さん」

「さん!」

「さん」

「乗りなさいよ、そこは」

「ノアちゃん、いいんです。レイくんもその名で呼んでくれて嬉しいです。ありがとうございます」

 イヴリスは穏やかな笑みを2人に向けた。

 エウノアは彼女をそばに引き寄せて強くハグをした。背中に回した右手で頭を撫でる。

「ホントにイヴちゃんは良い子だねー。はぁ、こんな可愛い子をこんな軟弱者に任せられるかいねー」

 溺愛する孫娘のように甘やかしていた。

「なぁ、これ長くなるか?」

 話に毛ほども興味のないフィリアンが尋ねる。

「腹減ったんだが」

「とりあえず、注文しないか?」

 イッテツのお腹も我慢の限界のようだ。


「美味しそうー」

 運ばれてきた料理を見て、アレインは呟いた。

 彼はハンバーグのような料理とライスを注文していた。ジューシーな肉と合わせソースの香りが彼の鼻腔を刺激する。

 学生街の人気店だけあってボリュームがある。それでさらに値段も抑えられているので、学生に人気なのも納得だった。

「季節の野菜のパスタです」

 イヴリスの料理が運ばれる。

「ありがとうございます」

 持ってきたウェイトレスに彼女はお礼を述べる。

「あ」

 ウェイトレスは何かに気づいて一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに表情を戻した。

「ごめんね、今忙しいから」

「大丈夫だよ。また今度ね」

 ウェイトレスはパスタを置いた後、一礼をして持ち場へと戻っていった。

「知り合い?」

 エウノアが問う。

「はい。今後機会がありましたら皆様に紹介しますわ」

 彼女は笑顔で答える。

「食べるか」

 全員の料理が来たのを確認してフィリアンが言う。

 アレインは手を合わせて「いただきます」と言った。

 みんながそれを見ていた。

「食べるときにそれをするのか?」

 フィリアンが尋ねた。

「ああ、そうか。僕が元いた世界ではこうやってから食べていたんだよ」

 アレインがはにかむ。

「俺の国でも食事前に儀式することがあったな」

 イッテツが手を合わせて「いただきます」と言った。

「相手を知るには相手の文化を知ること……ですね。いただきます」

 イヴリスもそれに倣った。

 フィリアンもエウノアも同様に手を合わせて「いただきます」と言った。


「それで、さっきの話だけどね」

「まだ言うか」

 食事も終えて食後のティータイム。エウノアが話をぶり返そうとしてフィリアンに止められた。

「違う違う。気軽に手を繋ぐって行為もご法度だったりしたの?」

 エウノアは先ほどのやり取りから改めた考えで尋ねた。

 ティーカップに入れた砂糖を溶かしながらアレインは答える。

「え、いや。別にそんなことはなかったです」

「やはりヘタレか」

 エウノアは露骨に見下した表情でアレインを睨む。蛇に睨まれた蛙のようにアレインは背筋が凍った。

「よく考えたら、レイって一番謎が多いかも。この世界と前の世界の知識と経験があるんでしょ?」

「俺からしたらお前が一番謎だけどな」

 フィリアンが口を挟む。

「あたしのことはいいのー。持ってる魔法も特殊だし、価値観とか考え方もやっぱり変わっているよね」

「それには同感だな。平和ボケした思考回路してる」

 フィリアンはティーカップの紅茶を啜る。

「いいじゃないですか。私はレイくんの考え方は好きですよ」

 イヴリスはアレインに微笑みかける。

(好き)

 アレインは内心興奮していた。

「俺はあの魔法が一番気になったな。特殊魔法というやつなんだろう」

 イッテツが腕を組みながら発言した。

「そうみたいですね。僕はあんまり詳しくないですが……」

「あれは特殊魔法だな」

「だねー」

「特殊魔法ですね」

 識者3人が口を揃えて言った。

「見たことがない魔法だった。あれ、名前は何だ?」

「?」

「無いのか?魔法は名を当てて固定化させるものだぞ」

「えっと……「吹っ飛べと言ったら吹っ飛ぶ魔法」と「止まれと言ったら止まる魔法」かな?」

「長いねー。古代の人間じゃないんだからもう少し短縮して」

 エウノアが文句を言う。

「言われても、良い名称が思いつかないや」

 5人はそれぞれ良さそうなネーミングを考える。

「無理矢理相手に強いらせる、強制魔法というのはどうかな」

 イッテツが提案した。

 エウノアが指をぱちんと弾く。

「いいね。それ、採用」

「その強制魔法、強力ですよね。今は2つだけですが、使い方次第で無限の可能性があります」

 イヴリスは早速名称を使い始めた。

「俺はそれよりも透明な手の方が厄介だと見てるね。あれにも名前はないのか」

 フィリアンがティーカップを置いて尋ねる。

「……「見えない手」かな」

「これは変えなくていいか。ただでさえ特別な魔法を2つ持っているからな。こりゃあ、骨が折れるぜ」

「強制魔法で止めて見えない手でとどめ、が基本戦術でしょうか」

「見えない手で制圧して、止まった所を強制魔法で吹き飛ばすこともできる」

 いつの間にか、イヴリスとフィリアンはアレインの戦いを分析し始めた。

「2人はやる気満々だねー」

 エウノアはティーカップの中身を冷ましながらズズッと啜った。まだ熱かったのか「あちっ」と言葉が漏れた。

「そ、そうですよ。明日からの僕の進退について考えないと」

「そう言えば、そういう話だったね」

 エウノアはどこか他人事だ。

「明日から練習場の使用解禁。それと僕にはイヴさんの護衛係の権利がぶら下がっている」

「引く手あまただろうな」

「どうしよう」

 アレインは頭を抱えた。

「策はあるぜ」

 フィリアンが手を挙げる。

「ホント!?」

 藁にも縋る思いで食い気味に尋ねる。

「さっき知ったんだが、練習場の使用は日毎に1人1回なんだと」

 彼がイヴリスに視線を送ると彼女は肯定するように頷いた。

「はい、特にメインスタジアムは人気ですから使用制限が設けられています」

「そこでだ、そのスタジアムの使用を俺たちでローテするんだ」

「つまり?」

「明日が俺、来週がイヴリスみたいに俺たちが代わる代わるアレインの相手をする」

「それで解決するのか?」

「練習場には観覧席があるだろう?そこで毎日俺たちの試合を観覧する生徒が見てわかるはずさ。アレインの実力を」

「なるほどね、アレインの強さを見せて牽制すると」

「そういうことだ、エウノア」

 フィリアンはニヤリと口角を上げた。

「どうだ、アレイン。悪い話じゃないだろ?」

「うーん、そうだね。悪くはない。ただ、フィルの欲求が見えるけどね」

 アレインは疑いの眼差しを向けている。

「副次的なものだ、気にするな。それで、他はこの話に乗るか?」

 フィリアンは他の3人に意見を求めた。

「私は構いませんよ」

「あたしはパス」

「俺も今はパスだ」

 この話に参加したのはイヴリスだけだった。

「エウノアはわかるが、イッテツもか」

「今はな。少し魔法について理解してから練習場を利用したい。俺と相性は良くないからな」

「そうか、作魔衣。魔力を持たないテツは体に纏えないんだ」

「それと」

 イッテツはそばにある対魔刀を見せる。

「この刀は使えるか?」

「無理ですね。練習場用の武器を代わりに使用します。刃が潰れて切れない刀です」

 イヴリスが答えた。

「そういうわけだ。魔法をよく理解しないうちはリスクが高い」

「残念です。剣技の手合わせをと思っていたのですが」

「まぁ、しばらくしたら俺も参加するからその時はよろしく頼むよ」

「はい、お待ちしています」

 彼女は手を合わせて嬉しそうに返事した。

「じゃあ、俺とイヴリスでアレインの相手をするか」

「そうなりますね」

「どっちから行く?」

「私が先だと嬉しいですわ」

「先は俺だな。どう決める?戦うか?」

 フィリアンは不敵に笑った。

「それは良案ですが、折角の初回です。少し豪華にいきましょうか」

 彼女は優雅に紅茶を飲むと、提案を口にした。


 翌日の放課後、練習場は賑わいを見せている。

 観覧席は生徒で埋まりつつあった。

 観客席の最前列にエウノアとイッテツが座っている。

「誰が勝つと思う?」

「そうだな」

 メインスタジアムのメンバーを見ながら彼は答える。

 リング上にはアレイン、フィリアン、そしてイヴリスがいた。彼女の右手には練習場用の剣が握られている。

「あたしもおんなじ予想」

 彼の回答を聞いてエウノアは同意する。

「後の2人がどれだけ健闘できるかよね」

「そうだな」

 

 リングの上ではアレインが観客席をぐるりと一瞥した。

「す、すごい数だ」

「当たり前だろ。特別クラスの生徒2人と国の王女による三つ巴だ。特に1人は噂の護衛係ときた。注目度としては一番だろ」

「緊張しますか?」

 イヴリスが尋ねる。

「はい、こんなに注目されることがないから」

 アレインの全身は強張っている。

「だが、願ったり叶ったりだ。まさかあんたとも戦える(やれる)とは。酒場の時から気になっていたんだぜ」

「そう思っていただけて光栄ですわ」

 彼女は左手を口元に当てて上品に笑った。

「おい、アレイン。王女様には負けるなよ。護衛係のメンツが潰れる」

「ふふ、手加減はいたしませんよ」

「が、頑張ります」

「それでは、定位置についてください」

 アナウンスが流れる。試合が始まる。

 3人はそれぞれ円形のリングの端まで移動した。

「ルールの確認をします。試合は1対1対1の変則マッチ。敗北条件はリングアウトかギブアップ、または作魔衣の破壊。最後まで残っていた側の勝利です」

 観覧席の賑わいが落ち着いた。同時に空気がピンと張りつめた。

 アレインは落ち着かずに両手を開いたり閉じたりしている。フィリアンは手首足首を回してストレッチしていた。イヴリスは1人じっとしていたが、その丸い瞳は突き刺すくらい鋭くなっていた。

「試合開始」

 アナウンスの掛け声で試合が始まった。

 フィリアンが早速仕掛ける。イヴリスにまっすぐ向かって行った。

 イヴリスは動かない。切っ先も下を向いたままだ。2人の距離が近づく。

「止まれ」

 アレインはその状況を見て、フィリアンに魔法をかけた。

 フィリアンは急ブレーキを踏んだように動きを止めた。

 彼の特殊魔法を見て、会場がざわついた。

「来たな、アレイン」

 フィリアンはアレインに睨みを利かせる。

(これがいつもの必勝パターンかもしれないがそううまくいくかな)

 フィリアンは魔法を展開しようとした。

「火走」

 しかしその前に仕掛けたのはイヴリスだった。彼女は魔法によって止められたフィリアンではなくアレインに向かって行った。

 彼女の下に下がった剣の切っ先が地面に触れた瞬間、その剣身全体が炎に包まれた。

(速い!)

 アレインは驚いて反応が遅れた。それに彼女自身のスピードも合わさり、あっという間に間合いに入られた。

 彼は咄嗟に見えない手で彼女を掴もうとする。その瞬間、彼女はさらに姿勢を低く屈めて彼の視線から一瞬消えた。

 ガシャン

 次にアレインがイヴリスを視認した時、彼は倒れ、彼女は立っていた。その鋭い瞳はアレインからは見下しているようにも見えた。

 アレインの右わき腹が焼けたように痛んだ。思わず苦悶の表情を浮かべ、左手で押さえた。

「ごめんなさい、レイくん。私、戦いでは優しくないの。棒立ちのあなたは格好の的だったわ」

 そう告げると踵を返して、フィリアンに向き直った。

 アレインはイヴリスの言葉を受けてあることを思い出していた。

 それは、アプリオに向かう道中、ミカエルに言われたことだ。

 ”君の弱点は動かないことだ。”

 その言葉を反芻させながら、リングの端、彼は情けなく倒れたままだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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