第二十二話「寮の初日」
シリーズものです。
5人全員の個人面談が終了した。
終了した生徒は空き教室に集められ、寮の案内が行われた。
個人面談がなかった他の新入生は先に案内されていた。
5人は正門前で男子寮・女子寮に分かれる。男子組と女子組で別れの挨拶を交わした。
アレイン、フィリアン、イッテツは男子寮に向かう。
寮は3階建て。長屋の様に横長の造りになっている。
1年生であるアレインたちは3階の部屋だった。
3人は寮母のハナに挨拶をしながら階段を上っていった。
「アレイン様とフィリアン様は向かって左側、一番奥301の部屋です。イッテツ様はこちらの313です」
案内の職員はそれを告げると自身の職場へと帰っていった。
「じゃあ、また後で」
「ああ」
イッテツと別れた2人は奥の角部屋に入る。
部屋開ける。真っ直ぐな廊下を進むと、奥は左側に二段ベッド、右手側に勉強机が2つ置いてあり、手前の角にはクローゼットがそれぞれ置いてあった。
クローゼットに各々荷物を仕舞うとフィリアンが尋ねた。
「2段ベッド、上がいいか下がいいか」
「フィルの好きな方でいいよ」
「じゃあ、上もらい!」
彼はサッと梯子を登ってベッドの上に滑り込んだ。
アレインも疲れた体を休ませるように腰かける。
「さすがアプリオだぜ。布団がふかふかだ」
フィリアンは興奮して布団の上で跳ねていた。その振動がアレインまで届く。
(やっぱり場所替えてもらおうかな……)
「あのーフィル……」
「なぁ、アレイン!」
被せるようにベッドから身を乗り出してフィリアンが尋ねる。
「お前の禁術ってなんだ?」
「え?」
「ほら、校長が言ってただろ?それぞれ禁術によって莫大な魔力があるって。お前のは何だ?」
「天移魂魄だよ」
「なんだそれ?」
アレインは勘違いしていた。グレイセスがまるで常識のように平然と話しているので、皆が天移魂魄のことを知っていると思っていた。だが、本来禁術として指定を受けている以上、その情報を知っている者は少ない。
アレインはグレイセスから受けた説明をそのままフィリアンに伝えた。
「はぁーなるほどなるほど」
フィリアンは後ろで手を組み、そのまま後方へ倒れた。
「だから、そうなんだな」
「なにが?」
若干遠くなった声に反応してアレインは少しばかり声のボリュームを上げて尋ねた。
「お前がさ」
フィリアンも少し声を大きくする。
「お前が戦わないことだよ。この世界で生きていたら、嫌でも弱肉強食の精神になるわけ。強力な力があったら最大限利用して弱者を蹴落とす。お前みたいな気持ち悪いくらい優しい奴はいねえよ。……まぁ、騙すつもりで優しくする奴もいるがな」
「騙すつもりはないよ!」
アレインはそれを否定するように声を張り上げた。
「わかってるよ。これでも人はたくさん見てきたからな。そういう嫌らしい連中は感覚でわかる。だからこそ気味悪いんだよ、お前の考え方が」
フィリアンは腕を振り、その勢いで上体を起こした。
フィリアンは吐き捨てるように言った。
「今でも戦闘の絶えないこの時代でその平和主義。よっぽど平和な時代に生きていたんだろうな」
「……確かに僕が生まれた時代はここより平和だったよ。だからこそそんな幻想を求めていきたいのかな」
アレインは顔を見上げた。
「フィルは、そういう考え方は嫌い?」
「……気に入らない」
フィリアンが体を乗り出さないので、アレインに彼の表情を読み取ることはできなかった。
「フィルは思ったよりもいい人かもね」
「騙されやすそうだな、お前」
これ以上この話をするのが嫌になったフィリアンは話題を強引に変える。
「……なぁ、エウノアはどんな禁術なんだろうな」
「ノアさんか……」
アレインは天井を見たまま腕を組んだ。
「なんかとてつもない魔力だからなぁ……」
「俺たちだって並みの魔法使いから見れば規格外の魔力量だ。それなのにあの女はそれを一回りも二回りも超えてやがる」
フィリアンの両手は震えていた。
「あれは強いぜ」
「でも、悪い人じゃなさそうだよ」
ベッドの柵を握りながらフィリアンは顔を覗かせる。
その顔は冷めた表情だった。
「はぁ、これだから平和主義者は。まだ信用できる段階じゃねえだろ。それこそ油断させるための演技の可能性だってあるんだぜ」
「じゃあさ」
アレインは彼の目を見ながら言う。
「僕たちが彼女を止められるくらい強くなればいいんじゃない?」
その言葉に嘘偽りはなかった。
突拍子のない無謀な提案にフィリアンは思わず笑ってしまった。
「バカだな、お前。……ホントバカだ」
(単純でこれ以上ないこと言いやがって。これじゃあ、あいつにビビってた俺がバカみたいじゃないか)
「そんなに笑うことないじゃない」
「いや、これは傑作だ。……はは、そうだな。その時は俺たちで対処すればいい話だよな」
「仮の話だけどね」
「ああ、仮の話だ」
気分を良くしたフィリアンはアレインとそのまま夕食の時間になるまで話し続けた。
女子寮の造りも男子寮と大差なかった。部屋の間取りも同様だった。
「イヴちゃん、上と下どっちにする?」
同室となったイヴリスとエウノアは見たことあるやり取りをしていた。
「では、下でお願いします」
「お……イヴちゃんは地に足付けるタイプ、と」
「ふふ、おもしろい解釈ですね」
イヴリスは優雅に笑う。
「それじゃあ、どうぞお姫様」
ベッドを差し出して、エウノアはカーテシーをした。
「ありがとうございます」
イヴリスはベッドに入り横になる。
「あれ?寝るの?」
「ええ。時間がある時はお昼寝をしますので」
「はー、王女様は時間の使い方が優美だねえ」
エウノアは感心していた。
「夕食まで時間がありますので、30分ほど御休みになります」
「はーい、おやすみイヴちゃん」
「おやすみなさいませ」
そう発言してからほんの10秒ほどで、彼女から静かに寝息が聞こえてきた。
「寝るの早っ」
その早さに驚きながらもそばの椅子を静かに引いて腰かける。
(本当に恐怖を顔に出さないね)
エウノアは背もたれに腕を置いた。
エウノアは魔力のコントロールが完全にできる。魔力感知で悟らせないことだってできたのだ。
それでもアレインたちの前に姿を現した時、彼女はそれをしなかった。それは推薦者たちに牽制するためでもあり、どう反応するのか知りたくもあったからだ。
最初、アレインたちがエウノアと対峙した時、恐怖を感じた。その反応は当然だった。彼女の実力が読める者ならその圧倒的なまでの力に本能的に恐怖する。だからその反応に何も驚かない。これで関わってこないだろうとも思った。
しかし、イヴリスは違った。
彼女は表情に一切の恐怖を浮かべず、社交界で初対面となった貴族に挨拶するように振る舞った。
彼女が魔力感知できなかったというわけではない。
彼女は警戒を怠らず、油断も見せてはいなかった。実力は十分理解できていた。
ただ彼女は、失礼のないように作法としてそういった振る舞いが身についていた。
だが、その立ち居振る舞いがエウノアには青天の霹靂だった。
イヴリスはエウノアにとっての興味対象となった。
(でも、まだ初日にその態度は油断しすぎじゃない)
エウノアはスッと立ち上がって彼女のそばに立った。
(アレインは監視対象。そしてあなたは警戒対象なの。ケースバイケースであなたの抹殺は許可されている)
彼女は手刀を作り、腕を振り上げた。
(さぁ、恐怖なさい)
いたずらな笑みを浮かべる。彼女の実力なら気配を察知して飛び起きるはずだと確信していた。
しかし、イヴリスの寝息が止むことはなかった。
エウノアは諦めた様に手を収める。
(そう、イヴちゃん。もうあたしを信用しているんだ。自分を襲うなんて微塵も思ってないんだ)
エウノアは柔和な笑顔を浮かべた。
彼女はそのままなだれ込むように椅子に座る。
ゆっくりと流れる時間の中、ただただ彼女の寝顔を穏やかに眺めていた。
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