第二十一話「個人面談」
シリーズものです。
教科書、学校カバン、練習着が配られ、それぞれの机の上に置かれている。本来ならそれらをカバンに入れて寮への案内に移行するはずだが、彼らは個人面談のために待機させられていた。
アレインたちは順番を知らされておらず、誰から始まるのかわからない。ただ、ネロが呼びに来るのを待つだけだった。
アレインは怒られるということ事態あまりなかったので緊張している。フィリアンたちは慣れているのか平気な様子だった。
校長室に最初に招かれたのはイヴリスだった。
「失礼いたします」
彼女はいつも通り平静な態度で入室した。
「そこに座ってくれ」
校長のデスクの前に椅子が一脚置かれている。彼女はそこに優雅に座った。
「このように2人でお話しするのはいつ以来でしょうか」
彼女は世間話を始めるように話し出した。
「イヴリス、これは会話じゃない。面談だ」
「あら、どんなことをお聞きになるんですか?もう見知った仲ではございませんか」
「はぁ、やりづらいよまったく」
グレイセスはわざとらしく眉間を指で押さえた。
「本来は能力や経歴を私自ら判断するんだが、お前はパスだ。後もつかえているしな。早速本題だ。今日、勝手に練習場を使用したな」
「そうですね」
彼女は誤魔化すこともなく正直に答えた。
「どうしてだ?」
「私に恩を売りたい方が護衛を買って出まして……。丁重にお断りしたつもりですが、どうも根気強く粘るものでほとほと困り果てておりました。丁度その際にアレイン様たちがいたので、皆さんと挨拶をして私の今の状況をお話ししました。すると、護衛にふさわしいかアレイン様と比べることになりまして、あの練習場を使用することになったのです」
「あー、少しいいか。どうしてアレインが矢面に立っているんだ。彼はそんな性格ではないが」
「フィリアン様とエウノア様が焚きつけました」
「はぁ……」
グレイセスは深く頭を抱えた。
「あいつらにはより詳しく話を聞かないといけないな。……よし、イヴリスもう出ていいぞ」
「あら、これでいいんですの?」
「推薦者は全員面談するが、わかっている奴にわざわざ時間をかける必要もあるまい」
「そうですか、では私はこれで失礼いたします。今度はゆっくりとお茶で飲みながらお話ししましょう」
グレイセスはすでに次の面談者の資料を見ていた。彼女の問いかけには手をヒラヒラと浮かせて返事をした。
次に呼ばれたのはイッテツだった。
「失礼します」
「座ってくれ」
彼は促されるままに椅子に腰かけた。刀は机に立てかけた。
「面談の前に聞きたいんだが、君は練習場の一件には関わっていないのか?」
「関与はしてないですね。一部始終は見ていましたが」
「そうか。まぁ、そのようだな」
グレイセスは魔眼で彼が嘘をついていないことを読んだ。
「オッケーだ。じゃあ、面談に入ろう」
彼女は手元の経歴書に見ながら尋ねる。
「18歳。オーランのユルズ出身か。あそこはだいぶ閉鎖的な町だったな」
「ええ、そうですね」
「魔力がない……か。先天性か後天性かな?」
「……」
イッテツは無言になった。グレイセスの視線が書類からイッテツに移った。
「まぁ、ユルズがどんなことをやっているか興味はないが、魔力がないと苦労するぞ。なんせここは魔法学校だからな」
「わかっています。しかし師匠が入るならここにしろと」
「ほう、それはどういう」
「魔法使いの戦い方、技術や知識を理解して、幅広く戦えるようになれと」
「確かに、今は魔法や魔法具を主軸とした戦いが主流だからな。ここならその技術を高水準で学べる」
グレイセスは今度は机に立てかけてある刀を見た。
「そんな苦労をする君のためにその刀か」
「そうですね、師匠が俺のために持たせてくれました」
「対魔刀か。確かに君ぐらいしか扱えん」
彼女は軽く笑った。
「いくら君専用といっても過言じゃないとはいえ、この武器の価値を知らない師ではあるまい。君に託すということは剣技のほどは十分あるんだろう」
「まだまだ半人前です」
「はは、そう言う人間ほど強い」
彼女は手元のメモにペンを走らせた。
「まぁ、この学校の授業は魔力があることを前提にしている。特に実技の際はケガなどに十分気を付けてくれ」
「はい」
「これで面談は終了だ。今日はゆっくり休め」
「失礼します」
彼は深く頭を下げると刀を肩に引っ掛けて部屋を後にした。
お次はアレインだった。
「し、失礼します」
アレインはロボットの様に全身を強張らせながら入室した。
「そんなに緊張しなくていい」
グレイセスは落ち着かせるように言った。
「そこの椅子に座ってくれ」
「は、はい」
彼は背筋を伸ばして着席した。
「まぁ、アレインのことはよく知っている。経歴などは省略して今回は練習場の件について……」
「すみませんでした!」
彼は立ち上がって、深く頭を下げた。
「今回の件は僕に非があります。この責任は取るつもりです」
「あー、待て待て」
勝手に話を進めているアレインを彼女は制した。
「何か勘違いしているかもしれないが、君が怪我させたことはさほど問題じゃない」
「え?」
その言葉でアレインの肩の力がスッと抜けた。
「やはり、それを気にしていたな。練習場を利用すれば怪我することは茶飯事だ。それでいちいち問題にしていたらキリがない。今回責任を取るのは君が保健室に送った生徒側の方だよ」
「ど、どういうことですか」
「まず、在校生が今日学校にいること自体がおかしな話だ。今日は入学式だ。在校生が登校するのは明日の始業式だ」
彼女はペンで机をコンコンと2回小突いた。
「それと、練習場の利用。これは申請すれば生徒誰でも利用できるが、今回その申請がなかった。それと、新入生の利用が開始するのは明後日の学校案内後だ」
彼女はペンを置いて、椅子に深く腰掛けなおした。
「この3点。在校生は当然知っている規則だが破っている。これについて当人たちはきっちり絞られるだろうな」
「そうですか……」
「それに、アレインはどちらかと言えば被害者だろう。フィリアンたちに唆されて」
「ま、まぁ、騙されやすいのかもしれないです」
アレインはバツが悪そうに笑って頭を掻いた。
「後はあの2人だけだ。厳しく言っておくから安心してくれ」
グレイセスは口角を意地悪く上げた。
「ありがとう。面談はこれで終わりだ」
「はい、失礼します」
彼はきびきびとした動きで退席した。
次に呼ばれたのはフィリアンだ。
彼は無言で入室する。
「座れ」
グレイセスも先ほどの態度とは打って変わっていた。
フィリアンはドカッと投げやりに座った。
「面談をする」
彼女は彼の経歴書をぱらぱらと捲る。
「15歳。ネーブル出身。ネーブルと言えば数年前に消えた町か」
彼は興味なさそうに窓の外を見ている。
「町が消えたこととその体は何か関係あるか?」
「わかっているなら答える必要ねえだろ」
「視えることにも限度はあるんでな。答えてもらおうか」
「さぁ、わかりませんね」
白々しい回答だった。
「パラサイトパーツ。お前の体に施された禁術。誰の性格が乗り移ったんだ?」
「誰も。俺は俺だ」
(嘘はついていないか)
グレイセスは魔眼で読み取った。彼女は改めて経歴書に視線を落とす。そして、何かに気づいた。
「なるほどね。パラサイトパーツ。肉体の一部に魔力を全て注ぎ、対象の体にその肉体を移植すると、肉体が対象に寄生して全身を乗っ取る。これを繰り返せば疑似的な不死になる。まさに禁術だ。だが、もし、1つの肉体に複数のパラサイトパーツを行うとどうなるか」
グレイセスは皮肉を込めて笑った。
「互いが互いを牽制し調律の取れた均衡が生まれる。寄生されず元の人格と魔力が凝縮された肉体の一部が残ったか。まさに奇跡だな」
「ご明察」
フィリアンはわざとらしく拍手した。
「それで、わかってどうする?」
「別にどうするつもりもないさ」
グレイセスはメモを書きながら答えた。
「どうして国の推薦を受けられたのか。その理由、実力、特異性などがわかればいいんだ。何か裏があって騙そうとしていないと納得できる」
彼女はメモを書き終え、ペンを置いた。そして、机に肘をつき指を顔の前で絡めた。
「さてと、次は練習場の件に話を変えよう。アレインを焚きつけたそうだな。なぜそんなことをした?」
「アレインが戦う気がないと言ったからだな」
「ほう」
「あいつは強い。魔力量も特殊魔法も強力だ。それなのに戦う気がない?おかしいだろ」
「それは彼が優しいからだろう」
「それでも誰かのためだったらその力を存分に使ってくれる。それならそういう状況にしてやろうと思ってな」
「なるほど、アレインと戦いたいのか」
「そうだ。あいつと全力で闘いたい!そのためなら利用できることは利用する」
フィリアンは興奮気味で答えた。
「彼は優しいからな、正直に答えればお前のワガママに付き合ってくれるさ」
(こいつはただ闘いたいだけか。行動原理が単純でわかりやすいな)
グレイセスは椅子の背もたれに背中を預ける。フィリアンという人間を少し理解して警戒は薄くなった。
「さて、オーケーだ。これで面談を終えよう。退出していいぞ」
「そうか、それなら最後1つ聞いていいか?」
「ん?なんだ?」
「エウノア、あいつは何者だ?」
辺りの空気が一瞬ピリッとした。
「さぁ?まだ面談をやっていないから何とも……」
「その魔眼は飾りか?魔力も量も尋常じゃねえ。同じ禁術によってだと!?ありえねえ。あんたの魔眼にはどう映ってるんだ?」
フィリアンは睨みつけるようにグレイセスの返事を待っていた。
「そんなに気になるなら本人に直接訊いてみるんだな。……だが、そうだな、今のお前が生まれた経緯を奇跡と言ったが、あれは言うなれば不可能だ。不可能と思われていた禁術によって存在している。今はそれくらいしか言えん」
「……そうか。なるほどな。それがあんたの答えか」
フィリアンはそれを聞いて満足したように部屋を後にした。
最後はエウノアだった。
「失礼しまーす」
彼女は元気に入室する。
「ここの座ればいいですか?」
「……ああ」
彼女はストンっとコミカルに座る。
彼女は柔和な雰囲気を見せている。しかし、グレイセスは以前の4人よりも人一倍警戒心を強くしていた。
「どうしたんですか?」
彼女が笑顔で尋ねる。その笑顔にすらグレイセスは含みを感じてしまっていた。
「いや……、面談をしようか」
「よろしくお願いします」
「先に、練習場の件を聞こうか。アレインを戦わせるように仕向けたようだが、どうしてだ?」
「えー、それはもったいないと思って」
「もったいない?」
「レイはイヴちゃんに気があるように見えてね。護衛になれば2人の距離がグッと近づくきっかけになるはずなのにレイ、そういう発想なかったみたいで。ここはあたしが一肌脱いであげようと、ね」
「そんな理由で……」
その言葉に被せるように彼女は言葉を返す。
「そんなって……、青春って大事だよ!今だけなんだから」
本人は至って真面目に答えた。
「折角の学校生活だよ。楽しく過ごさなきゃ」
(嘘は言ってない……のか?)
彼女の魔眼は嘘とはいっていなかった。それでも、彼女の底の見えない魔力が判断を鈍らせていた。見えない腹の底があるように思えてしまった。
「つまり、アレインのことを思ってこんな行動に出たということか」
「そうでーす。あたしは恋の伝道師」
エウノアは明るく答えた。
これで当事者全員に話を聞き終えたことになる。グレイセスは練習場の一件についてメモをまとめた。そして、そのメモを横において、すぐにエウノアの経歴書に視線を移動した。
(練習場の件はついでだ。本命はこっち)
「それでは、次はエウノア自身について訊こう。17歳。マカトス出身か」
「はい」
「……これは嘘だな?」
「あれ、魔眼って書類の嘘も見抜けるんでしたっけ?」
空気が一気に重くなった。
「いや、これは私の勘だよ」
グレイセスの頬を冷や汗が伝う。
「違っているかな?」
「うーん、半分正解かな。マカトス出身じゃないけど、17歳なのは事実だよ」
「ほう、そっちも嘘だと踏んでたんだがな」
「酷いなぁ。あたしが鯖読んでると思ったの?」
エウノアは自虐的に笑った。だが、その笑いは今までの笑顔よりも質が違っていた。
「禁術が天移魂魄なのも嘘だろう。そうなると、どれも出鱈目だと邪推するんだよ」
「へえ、そこまでわかってたんだ。流石だね」
「騙すつもりもないくせに」
「じゃあさ、訊いてもいい?あたしの禁術ってなんだと思う?」
「魔女核だ……」
「……凄いね」
エウノアはゆっくり立ち上がると、グレイセスの隣まで歩く。
「そこまでわかって1人であたしに会ったんだ」
横目でグレイセスを見やる。
「その胆力に感心するよ」
「目的はなんだ?どうやってグルの推薦を得た?」
「目的は楽しい学校生活を過ごすこと。あれ、さっきも言ったかな?」
「……それだけか?」
「……これは内緒話でお願いね。レイたちの監視。あなたがガルナンドを殺しちゃったから、あたしが引き継ぐことになっちゃったんだよね」
「アレインの監視?ガルナンド?……まさかお前」
グレイセスはエウノアに顔を向けて答え合わせを求めるような素振りを見せた。
「え、もしかしてこれだけでわかったの?察し良過ぎない?でもこれは内緒。もし誰かに言えば……」
彼女はそっとデスクに手のひらを乗せた。そして、グレイセスの瞳をジッと見ながら言った。
「この学校の人間全員死ぬから」
はったりではない。彼女がそれを成し得るほどの魔法使いであることはグレイセスはわかっていた。
2人はしばらく顔を見合わせていた。
その後、エウノアはクスっと笑って、先ほどの椅子に座りなおした。
「でも安心して。私は従っているわけじゃない。この機会を利用しているだけに過ぎないの」
グレイセスは無言で続きを促す。
「学校生活に憧れがあった。友達だってほしかった。その夢を実現させるためにソレは何かと好都合だった。それだけだよ」
「その話を信じろと?」
「別に信じなくていいわ。……でも、そうね。ここでなら卒業まで味方でいてあげてもいいかなって思えてきたね」
「えらい気の変わりようじゃないか」
「……レイとイヴちゃんのおかげかもね」
彼女は目を閉じて、先ほどのやり取りを思い出す。
「レイは私が付けたあだ名を気に入ってくれた。イヴちゃんは私を対等に接しようとしてくれた。2人ともあたしの実力は理解しているのにね。1生徒として見てくれた。それだけで期待しちゃった……」
エウノアは自身の発言に笑ってしまった。
「あたしって結構簡単に絆されるのね」
自嘲交じりに彼女は呟いた。
「……まぁ、そういうことだから3年間よろしくね」
「気が休まらんな」
グレイセスは頬杖をつく。
「それで面談は終了?」
「ああ、そうだな。今日は終わりにしよう。最後にドッと疲れた」
彼女は椅子に体重を預けて深く深呼吸をした。
「ふふ。お疲れ様、グレちゃん」
エウノアは労いの言葉を掛けた。その言葉がグレイセスには別の意味を含んだ様にも聞こえた。
エウノアが退出し、校長室に静寂が訪れた。
グレイセスはしばらくその場を動けずにいた。
窓の外から、帰宅する新入生の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




