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第二十話「巻き込まれてバトル」

シリーズものです。

 セントフルール魔法学校には大きな建物が4つある。

 新棟、旧棟、体育館。それと練習場だ。練習場は生徒によっては訓練場や稽古場、トレーニングルームと呼ばれたりする。

 練習場は魔法の実技訓練のための建物で、大きなドーム状の形状をしている。

 内部はメインスタジアムを中心にそれを囲うように高い位置に観覧席がある。

 メインスタジアムは魔法によって地形や環境を変更できるが、何もしなければただの円形のステージだ。

 そこにいま、アレインとイヴリスの囲い10名が相対していた。

(なんでこう……僕は戦いに巻き込まれるんだ!)

 アレインは嘆く。

 囲いの男たちはアレインに対してプレッシャーを与えるかのように鋭い視線を送っている。

「それではルールを確認します。試合は1対10の変則マッチ。敗北条件はリングアウトかギブアップ、または作魔衣(さまえ)の破壊。最後まで残っていた側の勝利です」

 イヴリスが審判となって確認を取る。

「あの……イヴリスさん」

「なんでしょう?」

「さまえとは?」

「作魔衣はこのスタジアムの入場ゲートに設置されている機械で作る透明な魔力の膜です。当人の魔力や肉体強度などを計算してそれと同じ強度の膜を貼ります。動きや攻撃には何も影響はありませんが、耐久限界を迎えるとガラスが割れるように粉々に砕け散ります。つまり、実戦で言うところの肉体の破損、つまり死に該当して敗北ということになるわけです」

「……仮に肉体強度の2倍以上のダメージを負った場合には」

「はい、死にます」

(そんな笑顔で言わないでくれ……)

「それと非常に残念なのですが、レイくんの作魔衣はレイくんの魔力が高すぎて3割ほどしか再現できませんでした」

(入学前に死ぬ可能性あるなこれ)

「へへ、勝てそうだな、これは」

 取り巻き代表は仲間たちと笑い合っている。

「勝てー!アレイン!」

 観覧席からフィリアンが声援を飛ばす。

「俺の生殺与奪はお前にかかってるんだからなー!」

「生殺与奪の権を他人に握らせるな」

 ついついアレインから本音が漏れた。

 イヴリスが双方に向かって声をかける。

「それでは、始めます。双方準備はいいですか?」

「……はい」

 アレインは構えずにじっと相手を見据える。

「いつでもどうぞ」

 対照的に男たちはそれぞれが構えて臨戦態勢をとる。

 イヴリスはゆっくりと右手を掲げる。

 戦いが始まろうとしていた。

 イヴリスは思う。

(レイくんは魔力と特殊魔法の中身というアドバンテージがある。彼らは気持ちの面と数の有利がある。おそらく勝負は一瞬で決まる。気持ちが緩んでいるレイくんを数的有利を利用して追い詰めるか。レイくんが速攻で処理するか)

 観覧席にいるフィリアンは前のめりで見ている。エウノアは楽しそうに鼻唄を歌っている。イッテツは腕を組んで真剣に事の成り行きを見守っている。

「始め!」

 イヴリスが右手を振り下ろした。

「「うおおおお!」」

 男たちが一気に距離を詰める。

 アレインはゆっくりと右手を向けた。

「止まれ」

 男たちの動きが一斉に止まった。

 その場の全員が驚いた。フィリアンは思わず立ち上がった。

(全員止めれるのかよ!)

 アレインはそのまま右手を引いて、思いっきり突き出した。

「吹っ飛べ」

 その瞬間男たちの体は吹き飛びステージの外へと飛ばされた。

 決着。それも10秒に満たず。

 辺りは一瞬静寂になった。

 その後、イヴリスの声が響く。

「勝負あり!勝者アレイン!」

 歓声はなかった。あっさりとした幕引き。

「ふ、ふざけるなああ!」

 代表の男がリングに上って激昂した。

 あまりにも残念な結果に納得がいかなかった。

「往生際が悪いぜ、センパイ」

 フィリアンは前席の背もたれに肘を置いて見下した視線を送る。

「あんたはアレインに負けた。護衛の任も失った。それだけだぜ」

 その言い方がさらに男の神経を逆なでした。

「こ、こんな終わり方があるかよ!」

「アレインは戦うことを極力避けたかった。可能な限りの非戦闘決着。リングアウトしかないでしょ」

「あー!どいつもこいつもバカにしやがって!」

 男の怒りは収まらない。

「覚えておけよ!俺を散々コケにしたことを後悔させてやる!」

 アレインは男の様子をじっくり見た。

 取り巻きの9人すでに戦意喪失している。しかし男だけがプライドの高さでしがみついている。

 こういう男は厄介だ。何か事あるごとに嫌がらせやちょっかいをかけてくる。それに推薦者を除いてこの学校の生徒は貴族出身である。邪魔をするための資金や権力を持ち合わせていた。それはアレインだけでなくこの場にいる推薦者全員に矛先を向ける可能性もあった。

 平穏な学生生活を送りたいアレインにとっては厄介極まる男だ。

 ここで不安の芽を徹底的に潰さないといけなかった。

「わかりました。先輩、サシでやりましょう」

 アレインは提案した。

「あ?」

「リングアウトもギブアップもなし。作魔衣の破壊のみで決着。どうです?」

(納得できないなら納得させるまで)

「おおう、やってやろうじゃねえか」

 頭に血が上っている男はその提案に易々と乗った。

 フィリアンは思う。

(バカが!怒りで状況が見えてねえ。いや、プライドがそれを許さなかったか?)

「合図はいらないですよ、いつでもどうぞ」

 アレインは右手をクイクイと煽った。

 男はアレインに接近する。隠しナイフを懐から取り出す。

火走(ひばしり)

 切っ先が赤く染まると、発火して刃全体を覆った。

 動物は本能的に火を恐れる。アレインも例外ではなかった。彼はバックステップした。

「おらあ!」

 男はナイフを振り回す。刃と火がアレインの前でブンブンと飛び交う。

 アレインは避ける。しかし、相手に背を向けずに下がるスピードは真っすぐ接近するスピードよりは遅い。2人の距離はどんどんと近づく。

 そして、後ろを見ずに下がっていたアレインは躓き、バランスを崩した。

「そこだあ!」

 男はチャンスとばかりにアレインの顔面に刃を突き立てた。

 ピタッ

 アレインの顔面数センチ手前で男のナイフが止まった。

「な、なにい!」

 男は驚愕する。

「う、動かねえ」

 男は何が起こったかわからなかった。それは彼の魔力感知の精度が満たしていなかったからだ。

 イヴリス、フィリアン、エウノア。3人はそれぞれの解像度が違えど認識できていた。

(これがレイくんの言っていた見えない手)

(なんだ……あの魔法は。透明な手がナイフを掴んでいる)

(へぇ~、そんなこともできるんだ)

 男は嫌な予感がした。アレインが何かした。でもそれがわからない。焦る気持ちが募っていく。

(早く逃げねえと……)

 咄嗟にナイフを手放す。しかし今度は見えない左手が男の腕を掴む。ナイフがカランとステージに落ちる。

「ヒッ」

 得体の知れないものに触れてしまった。その恐怖が男の全身を駆け巡った。

 アレインはただ立っている。腕は下がっている。それなのに男は掴まれている。

(なんなんだ、こいつの魔法は!)

 魔法のような体系的なものではない。もっと原初的で禍々しい、不定形な存在。そのように男には感じられた。

 見えない右手が拳を作る。

「ま、負けだ。俺の負けだ!」

「ギブアップはないよ」

 ガシャン

 見えない右手の右ストレートが男の腹部にヒットした。その瞬間、彼の体からガラスの様に被膜が音を立てて散らばった。

 男は体液で顔をぐしゃぐしゃにしながら無様に倒れた。

 文句なし。アレインの完勝だった。

 その結果を見てフィリアンは興奮した。思わず前の座席を力強く握っていた。

(やっぱり強えじゃねえか、アレイン)

「アレイン!次は俺だ!」

 フィリアンは叫んだ。しかし、アレインからの反応はなかった。

「……ん?」

 アレインは苦々しい顔を浮かべていた。

 自身のエゴで人を傷つけたことを悔いていた。

「レイくん」

 そばにイヴリスが駆け寄る。

「これしかなかったんでしょうか。怪我させることなく決着させる方法があったのではないでしょうか」

「……これは双方の合意の上で行われた決闘。負傷も覚悟の内です。あなたが気に病むことはありませんよ」

 彼女は優しくアレインの背中に手を置いた。

「……ありがとうございます」

 アレインは倒れた男の腕を肩に乗せる。

「とりあえず先輩を保健室に連れていきます」

「そうですね。案内します」

 イヴリスは周りに視線を回す。そして取り巻きやフィリアンたちに言った。

「決着はつきました。皆さんも早く移動しましょう。入学式が始まってしまいます」

「タイムリミットだね」

 エウノアは逸るフィリアンを牽制した。

「ちっ、まぁ、楽しみは取っておこうか」

「行こうか、ほらテツも」

 イッテツは腕を組んだまま考えていた。

「……これが魔法使いの戦い」

「いや、これはかなり特殊事項だよ」

「そうなのか!?」

「まぁ、目に焼き付けておくのはいいけど、魔法使い同士の戦いはもうちょっと理屈的だよ」

「ふむ、そうか」

(……レイ。君は本当におもしろいな)

 エウノアは男を担ぐアレインの後姿を眺めていた。


 男を保健室に運び、アレインたちは何とか入学式の時間に間に合った。

 式は何事もなく行われた。

 強いて気になるところを挙げると、グレイセスの目の隈が明らかに濃く浮かび上がっていたことだった。本当にこの1週間満足に寝られなかった様子だ。

 式を終えると、新入生は新棟の自身のクラスに移動となった。

 アレイン、フィリアン、エウノアはなぜか旧棟に移動することになった。

「確か、僕たちだけ旧棟の教室だよね」

「だねー、不思議ー」

「ここか」

 フィリアンが教室のドアを開ける。

 そこには机が3つと教卓があった。

(田舎の学校?)

 アレインは当然の感想を抱いた。

「よし、入れ」

 後ろから声がして振り向くとグレイセスが立っていた。改めて近くで見るとひどい隈だった。

「グレイセスさん、どうしてここに」

「説明するから入ってくれ」

 彼女に促されるまま教室に入った。

「席は好きに選べ。3人しかいないしな」

「じゃあ、アレイン真ん中」

 フィリアンが指図する。

「え……まぁ、いいけど」

 真ん中にアレイン。彼の左隣にフィリアン。反対のエウノアが着席した。グレイセスは教卓に立ち、説明を開始した。

「この特別クラスを担任することになったグレイセスだ。よろしく頼む。と言っても私は校務が忙しいからな。授業は基本、副担当のネロに頼む」

 彼女に呼ばれネロが教卓の前に立つ。

「どうもネロ・ザルゴです。グレイセスさんの秘書をしています。よろしくお願いします」

 彼女は元気よく笑顔を振りまいた。若々しいというか初々しさがあった。

「はい、ネロちゃん質問」

「なんでしょう?」

 エウノアはネロを早速、ちゃん呼びで尋ねた。ネロはそれを特に気にしなかった。

「ネロちゃんは秘書の仕事忙しくないの?兼任って大変じゃない?」

「ああ、それはね。グレイセスさんが優秀過ぎて秘書と言っても、給仕と話し相手していただけだから」

 あはは、とネロは笑った。

 アレインたちは授業が大丈夫か心配になった。

「どうしてあたしたちだけこのクラスなの?」

「それはですね……」

 ネロはチラリとグレイセスを見た。

「……話していいか?」

 ネロがどうぞどうぞとジェスチャーして教卓から降りた。

「お前たちがこの少数クラスになったのはある共通点からだ。お前たちは皆禁術により莫大な魔力を持っている。持ちうる魔法と魔力も一教師に任せるには荷が重すぎるからな。校長である私が全ての責を負うことになった。それだけだ」

 3人は互いを見やった。

 自身が禁術によって今存在することは理解していた。しかし、他に2人いることをここで告げられた。

「まぁ、同じ学び舎で学ぶ仲間だ。仲良くしてくれると楽で助かる」

 グレイセスは本音を言った。

「自己紹介は……なぜか済ませていそうだからいいか。これからのことについて説明する」

 グレイセスは1つため息を吐く。

「今から教科書と学校カバンと練習着を配る。本来ならその後解散して寮に案内するのだが……」

 グレイセスはまた大きくため息を吐く。

「その前に個人面談をする」

「個人面談?」

 アレインが尋ねる。

「ああ、国の推薦者と私による個人面談だ。本当なら明日以降にしようと思っていたんだが……」

 グレイセスは3人を見回す。

「どうやら今日、入学式前に練習場が()()で使用されたらしい。さらにその後1人の生徒が保健室に運ばれたとか……」

 アレインの背中に冷や汗が伝う。

「それもどうやら推薦者全員が関わっているとかでな、話を聞かないといかん」

 フィリアンとエウノアは左右に視線を逸らす。

「そこも含めて個人面談を今から行う」

 そして最後、グレイセスは力強く付け加えた。

「覚悟しておけ」

 アレインたちの学校生活は波乱の幕開けだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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