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第一話「見知らぬ地、見知らぬ世界」

シリーズものです。よろしくお願いします。

 目を開けると、そこに病院の白い天井はなかった。

「眩しい……」

 眼前には太陽があり、熱を皮膚が感じ取る。風が吹いて、僕が寝転がっている草木がなびく。

 どうやら僕は外にいるらしい。

 首を動かして周りを見回す。木々が生い茂り、青々とした葉が揺れている。

 病院の中庭だってここまでしっかりと生えてはいなかった。人の手が付いていない自然だからこそ出せるキレイさだった。


 ここは僕がいた病院ではないらしい。

 確かに僕はあの時死んだような気がした。じゃあ、ここは死後の世界だろうか。

 僕は何の気なしに自身の手を目の前に掲げる。小さい。それにぷっくりしている。腕の短さも感じる。

 ん?何かおかしい。

 僕はガバッと起き上がると、両足を見た。短い……。

 僕は立ってみた。頭の重さに引っ張られ、少しふらついた。そして目の前の木を真っすぐ見る。頭が重い……。視線が低い……。

 顔に手を当てる。頬が柔らかくぷにぷにしている。喉にも触れてみる。喉仏がない!

 僕はこれらの結果から、結論を出す。

 ――目が覚めると僕は体が縮んでいた!

 怪しい組織の怪しい取引現場を目撃していたか!?そ、そんな記憶僕にはないぞ。ちゃんと病院で模範病人していたはず。模範病人って何だ?

 何だか頭が混乱してきた。今人に会ったら変なこと言いそうだ。

「ここにいたのね」

 優しい声色が聞こえて振り返る。

 そこには一人の女性が立っていた。質素なドレスと白い頭巾から、村娘といった印象だ。

 彼女は微笑みながら僕の方に近寄る。彼女の目尻と手のシワからかなり苦労しているのが見て取れる。

「心配したんだから」

 彼女は僕を知っているようだ。もちろん、僕にはわからない。

 先ほどの混乱と先の結論に意識が引っ張られていたため、僕は変なこと言ってしまう。

「僕の名前は、土井流(ドイル)ランポ」

「アレインでしょ」

 違ったようだ。当たり前だ。

「どこか頭でもぶつけたの?」

 彼女は屈んで僕の頭をチェックする。もちろん僕は頭部に痛みを感じないので、怪我はしていない。

「だ、大丈夫です」

「なんで敬語なの?」

 初対面だから、というのは僕の理屈だ。

「親に気を遣わなくてもいいのよ」

 母親だった。

 僕には前世の記憶がある。多分僕は生まれ変わったってことなのだろう。アレインという少年として。

 それとここが少なくとも日本じゃなさそうなことも何となくわかった。それは彼女と話しているときに気づいた。

 先ほどから彼女は日本語を話していない。それでも彼女の言葉が自然と日本語に翻訳され理解できる。僕から発する言葉もこの国の言語に置き換わっている。バイリンガルの人たちはこんな感覚なのだろうか……。

 何だか不思議なことばかりで逆に冷静になった。

「そろそろ帰るわよ。早くしないとここはすぐに暗くなるから」

 そういって彼女は僕の手を引いて歩く。

 我が子と手をつないで歩く。彼女にとっては何でもないただの日常だろう。

 だが僕にとって、見上げる母親の姿も、手のぬくもりも、一緒に歩けることだって、貴重なものなんだ。

 何だか胸がキュッとして、泣きそうになってきた。

 僕は生まれ変わって新しい人生を歩む。その嬉しさが胸にこみ上げた。


 家に着く。木造の小さな民家のようだ。母親の服装を見て思ったが、僕のいた時代よりも昔の生活様式みたいだ。それも日本じゃなくて西洋式だろうか。

 家の中に入る。木の机、木の椅子、木の食器類とほとんどの家屋や道具が木でできていた。ロッジみたいで僕はとても気に入った。


 考える余裕が出てきて、僕はこの国のことを何も知らないことを知った。無知の知というやつだ。

 だから母親やもうすぐ帰ってくるという父親に色々と質問してみようと思う。子どもには「なぜなに期」というものがあるらしいと昔本で読んだことがある。何歳くらいかは忘れたが、まぁ、大丈夫だろう。


 そして、今日の成果だ。

 父親の名前はグリム。蓄えたあごひげとがっしりした体が特徴だ。この村は小さい村だが、良質な木が採れることで有名らしい。だからこの村の男は木こりをやるか、農業を行うかに分かれる。彼は木こりになった。そして、驚いたことにこの家は彼のハンドメイドらしい。中の家屋や道具もお手製みたいだ。

 正直凄い。ここの村の木こりにとっては当たり前らしいが、現代で機械での生産が当たり前だった僕には考えられないことだった。

 母親の名前はミーシャ。彼女は農作物の仕分けなど行っている。隣町との物々交換のために、高品質品とそうでないものを分ける必要があった。あまり力仕事の必要がない女性に割り振られている仕事だ。さらには時折隣町への移動に同行し、取引の交渉にも従事しているらしい。

 そしてこの村について。この村は地図に載っていない辺鄙な所らしい。といっても地図に載っていない村は他にもたくさんあるみたいだ。この村は人口がおよそ50人ほどで、ほとんどが大人か老人。僕と同い年くらいの子どもは、隣家のルーベルという少年だけだ。

 今日の成果は以上だ。あまりにも前提知識を知らなさ過ぎて、お二方が怪訝な顔をしていたのでそこで切り上げた。


 木のベッドで横になる。病院のベッドに比べたらはるかに硬い。だが、そんな場所で寝るということは、僕が病人じゃないことを意味しているようで、少し嬉しかった。

 普通に歩いた。普通の食事をした。人と楽しくおしゃべりした。死ぬ前には想像していなかったが、これほどまでに楽しいとは思ってもみなかった。

 明日はもっと楽しくなるよね、僕。

 起きたときには体はバキバキになっているだろうけどね。


 その日不思議な夢を見た。

 アレインという少年の昔の記憶のような夢だった。

 僕はグリムさんとミーシャさんに抱きかかえられている。二人とも少しばかり若い。そしてアレインは今よりもっと小さい。赤ん坊だ。僕の顔を見て二人はとても嬉しそうだった。

 それから、はいはいをする。言葉を話す。立ち上がる。歩く。走る。食べる。寝る。起きる。夢の中で加速度的に成長していく。

 そして、今日、僕が目覚めたあの森の中で、彼は太陽とは別の光を見た。その光は段々と彼に迫り、ついには光の中に包まれた。

 そこで夢は終わる。

 変な夢だが、夢とはだいたいそうである。

 僕はその内容をさほど考えずに覚醒した。


 若いっていいね!健康っていいね!

 全然平気だ。体がスッキリしている。

 外から差し込む朝日を浴びて気持ち良い目覚めだった。

 今日は朝からルーベル少年と遊ぶ予定らしい。

 年の近い子が一人しかいなかったら必然的に仲良くなるのは当たり前だった。

 僕は家族と朝食を摂る。この体験も前世にはあまりなかった。

 感動しながら味わっていると、玄関ドアがノックする。

「アレイン!遊ぼうぜ!」

 元気な子どもの声。きっとルーベルだろう。

 僕はさっと朝食を済ませると、玄関に向かった。玄関の扉に手を置いて開けようとする。その前に僕は振り返り、二人に向かって言った。

「いってきます」

「「いってらっしゃい」」

 二人が笑顔で見送ってくれる。僕は幸せを噛みしめて扉を開いた。


 快活そうな見た目のルーベルという少年は僕の1つ上らしい。だからか、僕に対してお兄ちゃんであろうと態度を取る。

 確かにこれくらいの年の子はそういうことをしたい年頃なのは十分理解できる。ただ僕の場合は精神年齢が17歳だからか、従弟の子どもを見るような微笑ましさを感じてしまう。

 うんうんそうだよね、そうしたいよね、ほほえま~、みたいな。


「木登りしようぜ、アレイン」

 木登りか。

 昔は体が弱くてこういうことができなかったからなぁ。ちょっと楽しそうだしやってみよう。

「うん、いいよ」

 僕たちは大きな木に登り始めた。

 最初は足の置き方や体重のかけ方や体勢のせいでなかなかうまく登れなかったが、何度も試行錯誤を繰り返し、やっと地上から1メートル、2メートルと登れるようになった。

 3メートル付近で先行していたルーベルが横に伸びている太めの枝へと進んでいった。

「よーし、見てろよアレイン」

 そう言うと彼は身軽に体をひっくり返し、膝裏をえだに引っ掛けて、コウモリのようにぶら下がった。

 わぁ、子どもってこういう危険なこと平気でやるよなぁ。見ているこっちが怖いよ。

「これできるか?アレイン」

 ブランコのように揺れながら彼は尋ねる。

「怖いよ、ルーベルくん」

 さすがに危険度を知っている僕には難しい。

 その返答に気を良くしたのかルーベルは上機嫌だ。

「じゃあさ、じゃあさ、これはどうだ!?」

 今度はその体勢のまま両手で枝を持ち、膝裏で支えることを止める。昔公園の鉄棒で似たような動きを見たことがある。違うのはそこが地上から3メートルも離れていることだ。

「へへ、凄いだろ!」

 彼はとても嬉しそうだ。小さい子を持つ保護者ってこんな気持ちで見守っているのか、僕はそう思った。

 その時だった。彼の体重を支えきれなくなった枝がバキバキと音を立てて折れた。

「あ!」

 頭を地面に向けたままのルーベルそのまま地面に一直線だった。このまま頭から落ちたら大けが、最悪死ぬことだってありえる。

「危ない!」

 僕は咄嗟に手を放して彼の体を掴む。二人して地面へ真っ逆さまだ。

 僕は迫りくる地面を見ながら咄嗟に叫んだ。

「と、止まって!」


 妙に周りが静かになった。

 僕たちは落下してしまったのか。だが、不思議と痛みは感じなかった。

 僕が恐怖でギュッとつぶったままの目をゆっくりと開く。

 すると、信じられない光景が広がっていた。

 僕たちの体は地面から10センチほど離れたところで止まっていた。つまり、体が浮いていたのだ。

 そんなおかしな状況にルーベルも気が付いたみたいだ。

 二人で顔を見合わせる。

「わ、わ、わぁ、あ、あわ……」

「あ、あ、わぁ、わ、わ……」

 「「わ、わ、わ、わあああ」」

 

 人間パニックを起こすと語彙力なんてあっという間に消えてしまうことがわかった。

続きできました。

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