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第十八話「アレインとイヴリス その2」

シリーズものです。

「今日は泣いてばかりで、あー恥ずかしい」

 リンゴを食べ終えて、濡れた顔をローブの袖で拭いながらアレインは呟いた。

「情けないですね僕は」

 彼は恥ずかしい気持ちを誤魔化すために笑って見せた。

「泣いている人間を笑うな」

「え?」

「お母さまが言っていました。泣くのはその人にとって大事なものだから、それを他人が貶してはいけない」

 イヴリスは彼の手を取って胸の前に持ってくる。

「涙を流せる人は素敵な人です」

(優しい。泣きそう。好き)

 彼は込み上げる感情をグッと抑えた。

「ありがとうございます、エバさん。僕はもう大丈夫なので行きましょう」

 彼はこれ以上この場にいるとダメな気がして移動を提案した。

「はい、では改めて案内します」


 役場でアレインは住民登録を行った。その他重要書類の作成も並行して行ったためにかなりの時間を要した。

 それでも比較的スムーズに進んだのはイヴリスのサポートがあったからだろう。

 登録を終えて外に出たイヴリスは役場のそばにあるゴークスに書類を呑ませた。

「お願いします」

 そばの店主にお金を渡すと彼はゴークスを空に放つ。ゴークスは彼方に飛んで行った。

「今のは?」

「入学に際して必要な書類をまとめて学校に送りました。グレイセスが取りに来る余裕はなさそうですから」

「何から何までありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいいか」

 アレインはイヴリスに感謝した。

「気にしないでください。……でもそうですね、折角ですし少しお話を聞いてもいいでしょうか?」

「はい、何でも聞いてください」

「立ち話も何ですから、御飯でも食べながらにいたしましょう」

 彼女は近くにある酒場を指差した。


 おいしい食事を堪能しながら二人は会話した。イヴリスの興味関心は彼の魔法や今までの人生における体験、アプリオまでの道中だった。アレインは彼女の質問に見聞きしたことすべて答えた。彼女は話をとても楽しそうに聞いていた。

 彼がライ村でルーベルと決闘し、ベルアリングスを倒した話をすると、

「そうしてルーベルが首を切り落としたんです」

「魔法もなしにベルアリングスを倒すなんて強いんですね。……ぜひ手合わせしたいですね」

 彼がグレーフで盗賊と一騎打ちした際は、

「その時に僕の魔法が拡張されて、透明な腕を展開できるようになったんです」

「強力な特殊魔法ですね。私ならどう対応いたしましょうか」

 グレイセスたちが、鎧の男と戦闘した話では、

「そうして何とか勝つことができたんです」

「二属性魔法同時展開に堅牢な魔法防具、グレイセスに奇策まで使わせるほどの実力……、外聞ではなく実際にこの目でこの肌で体感したかったです」

(あれぇ?)

 イヴリスの感心するところが何かズレているようにアレインは感じた。

(でも、楽しそうだからいいか)

 恋は盲目。

「あ、私ばかり楽しんでいましたね。ごめんなさい、私戦いが好きですから、ついついたくさん聞いてしまいました」

(かわいい……)

 恋は盲目パート2。

「私だけ一方的なのはなんですから、アレイン様ももし聞きたいことがあれば聞いてください」

「え、えーと……、年齢はいくつですか」

「16になりました」

「趣味はなんですか?」

「芸術鑑賞と鍛錬です」

「特技は?」

「魔法と剣術です」

(うおー、合コンみたいなことを聞いているー!)

 おそらくツッコむところはそこではないと思われる。恋は盲目パート3。

「好きなものは?」

「鶏料理、リンゴとお洋服と強い人ですわ」

「変装用の服もいくつかあるんですか?」

「変装のためというよりもデザインが好きで持っています。街に降りる際はこういった服を選んではいますね。……服と言えばアレイン様はなぜ今も魔力遮断のローブを着ているんですか?」

「練習しているんですが、魔力を抑えることがまだまだできてないみたいで。余計なトラブルを避けるために入学までは出歩く際に着ておくようにとグレイセスさんが」

「それを着ていたら魔法が使えませんよ」

「魔法を使わずに慎ましやかに過ごします」

「では、ちょっとした裏技をお教えしますね」

 イヴリスはいたずらな笑みを浮かべてアレインに耳打ちした。

「実は手で触れている範囲なら魔法が使えるんです。もちろん魔力遮断の影響で威力は落ちてしまいますが」

「へ、へー、そうなんですか……」

(声が上擦った。恥ずかしい……)

「で、でもそう頻繁に魔法が必要になるとは限りませんから……使うことはないかもしれないですね」

 ガシャン

 酒場の奥で瓶が割れて砕ける音がした。

 二人は自然と音のあった方向へと視線を移した。

「おい、何すんだてめえ」

「うるせえ!俺を舐めた目で見やがって!」

 1人の客の服が酒で汚されていた。その推定被害者はフードを被った2人組のうちの1人で、顔ははっきりとアレインたちにはわからなかった。ただ声の感じからして若いという印象を受けた。

 もう1人、酒を浴びせ掛けた推定加害者の男は酒に酔っているようだった。彼は3人組のうちの1人で、彼らは軽装備と携帯している武器から冒険者のような雰囲気だ。他の2人も彼ほどじゃないが酔っぱらっている。ニヤニヤとイヤらしい顔で状況を楽しんでいた。

「酔って適当な言いがかりすんじゃねえよ」

「どいつもこいつもバカにしやがってよお」

 男はまともに会話できない様子だった。それほど泥酔している男に武器が携帯されている状況は傍から見ても危険だった。

「衛兵を読んでいる暇はなさそうですね、止めましょう」

 イヴリスは立ち上がって、その輪の中心に入っていった。

 女子1人行かせるわけにはいかずアレインもついていく。

「落ち着いてください」

 彼女はサッと間に入る。そして泥酔者をなだめる。

「あー、なんだ?」

 酔っ払い男は今目に映るもの全てが敵に見えている。間に入ったイヴリスが彼の次のターゲットになった。

「お前も俺に文句でもあるのか!」

 男の高圧的な態度に臆することなく彼女はなだめる。

「そんなことはありません。他のお客様に迷惑なので少し落ち着いてほしいのです」

 アレインはイヴリスに加勢しようとした。しかし、それを遮るようにフードの男が叫ぶ。

「お前強いなぁ!」

 なぜか彼の関心がイヴリスに移っていた。

「ええ、あなたよりもね」

 イヴリスは一段と低い声で制した。フードの男に対して背中を向けているにも関わらず油断も隙も見えない。

「なに無視してんだ!」

 蚊帳の外に置かれた酔っ払い男が声を荒げる。そして、携帯していた武器に手を掛けようとした。

「止めなさい。相手の力量を見抜けないほど、あなたは弱くないでしょう」

 男の手が止まる。先ほどアレインと話していた柔らかな雰囲気とは打って変わり、研ぎ澄まされた鋭い視線を男に突き刺す。イヴリスとの実力差を男は感じ取らされた。

「いいね、いいねー。俺も本気出しちゃおっかなー」

 フードの男の魔力が跳ね上がった。

「おい、何しようとしている」

 事態が良くない方向に向かおうとしていることを察してもう1人のフードの男が声をかける。だが彼の声は無視された。

「おい女、動かないとケガするぞ」

 脅すようにゆっくりと彼の右手に魔力が集まる。

 それを感じて咄嗟にアレインが立ち塞がる。

「あ?誰だよお前」

「ダメです。やめてください」

「止めたきゃ力づくで止めてみな」

 彼はアレインを挑発した。

 アレインは彼の腕を掴んだ。

「止まれ」

「ハッ、それで俺が止まるわけ……は?」

 フードの男は自分自身の体がぴたりと動かないことに気づいた。

(こいつの魔法か!?)

「お前、特殊魔法が使えるのか!」

 彼の大声に酒場がざわついた。

 特殊魔法の使い手の希少性については魔法を扱う者にとっては常識だった。そんな貴重な人物がここにいる。なぜ?どうして?ざわざわとした声がだんだんと大きくなる。

「お前、おもしろいな。顔……覚えたぞ」

 アレインはフードの男と目が合う。蛇が獲物を狙うような細長い眼がそこにはあった。

 事態が面倒になることを察したイヴリスはアレインの腕を取って一目散に酒場を去った。

「あ、待て!」

 もうすでに酔っ払いのことなど眼中にないフードの男はすぐに追いかける。もう1人のフードの男もついていく。

 2人が酒場を飛び出したときには、アレインたちは往来の人々の中に紛れ込んでいて見つけられる状態ではなかった。

「ふふ……おもしれえ。あんな奴らがいるなんてな。アプリオに来た甲斐があったぜ」

 男は高揚とした気分から哄笑した。隣のフードの男は呆れたように深いため息を吐いた。


 酒場にポツンと残された酔っ払い3人組はバツが悪そうにカウンターに残していた酒を飲み干した。

「うっ……」

 飲み干してすぐに3人はお腹の不調を訴えた。彼らは一目散にトイレへ向かう。

「おい、何で来るんだよ」

「俺もトイレだよ」

「何でだよ。……クソ酒が腐ってたか」

「あり得ねえだろ。あー待てよ、俺が一番だ」

 3人が一斉にトイレ争奪戦を始めたおかげで酒場はひと悶着前の静かな雰囲気に戻っていた。

(さっきからうるさいんだよ。トイレで頭冷やしてこい)

 カウンター席に座るエウノア・エンドリッチは心の中でそう吐き捨てた。

(あれがアレイン。天移魂魄者、か。特殊魔法の使い手。情報通りね。言ったことが現実になる能力かしら。中々強力ね)

 彼女はグラスのドリンクを一口飲む。

(まさかオーランの推薦者2人を監視していたら出会えるなんてね。変な偶然ね。……変と言えば、彼の隣の女性は誰だったのかしらね。実力はありそうよね。王国騎士団の1人?いえ、それならあの恰好である必要性はない。うーん、こればっかりは考えても仕方ないわね。まぁ何にせよ……)

 彼女は大きく伸びをした。

「……楽しみだなぁ」

 エウノアは期待に満ちた顔で天井を仰いだ。


「ここまで来れば大丈夫です」

 アレインたちは路地裏や人込みを利用して2人を撒いた。

 呼吸が落ち着いてきたアレインはイヴリスに腕を掴まれていることに気づいて若干呼吸がまた乱れた。

 イヴリスも同時に気づいてパッと話すと恥ずかしさを誤魔化すように言った。

「余計なトラブル、起きてしまいましたね」

 そう言って上品に笑った。

「あ、すみません。僕が魔法を使ったばっかりに騒ぎを」

「いえ、私を助けようとして使ってくださったのでしょう。私が感謝することです」

 彼女は頭を下げた。

「あ、いえいえ、そんな……」

 彼は困って頭を掻いた。彼はこの話題を変えるように尋ねた。

「あの、ところで、ここはどこでしょうか」

 頭を上げたイヴリスは説明する。

「ここは客人用の宿屋です。アレイン様は入学まではこの宿屋で泊っていただきます」

 アレインの前には大きく豪華な宿屋がある。

「食事も毎食用意されております。娯楽も内蔵されています。入学までずっと過ごせますよ」

「す、すごいですね」

「今日のことで目立ってしまいましたし、宿屋で大人しくしていた方がいいかもしれませんね」

 彼女は冗談っぽく笑う。

「何から何まで、ありがとうございます」

「ではまた入学式でお会いしましょう。御機嫌よう、アレイン様」

 彼女は丁寧にお辞儀して去っていった。

 1人残ったアレインは思った。

 夢にまで見た学校生活が近づいた。未だに本当なのかと頭の中がフワフワしている感覚がある。それでも期待による高揚感がずっとあった。

(どんな学校だろう。どんな出会いがあるんだろう。どんな授業や行事があるんだろう。どんな経験があるんだろう)

 考えれば考えるほどワクワクが押し寄せる。

 彼は顔を上げた。

 視線の先には沈み始めた夕日がある。

 その夕日の光が今まで一番輝いて見えた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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