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第十三話「魔法使いの闘い」

シリーズものです。

 翌朝、日が昇るよりも前にアレインたちは出発した。まだ外は薄暗く、吹く風が体を冷やした。

 アレインは着ているローブを改めて着込む。

 なぜ彼らがこんなに早く行動しているかというと、前日にグレイセスが早朝の出立を伝えたからだった。

「昨日はよく眠れた?」

 グレイセスが尋ねる。

「あ、実は恥ずかしい話、ワクワクしてあんまり寝付けなかったです……」

 アレインは照れくさそうに答えた。それを聞いて車内が暖かな雰囲気に包まれた。

「ふ……そうか。校長としてその答えはとても嬉しいね」

 ガラガラと馬車が駆ける音だけが、草原の道に響く。

「そうだ、グレイセスさん」

「ん?なんだい?」

「僕たちが親子で行動する意図って何ですか?」

「ああ、そういえば言ってなかったね。それは単純に今私たちの進行ルートにワケがある。このルートはオーラン領内を通るルートなんだ」

「なるほど、それは面倒なことになりますね」

 アレインは何となく理由を理解した。

「秘密裏に動いているからね。オーランに私たちの存在を感づかれるわけにはいかないんだ。傭兵役の三人には街中では話さないように指示しているから、街中で何かあったら私に言ってくれ」

「おしゃべりだからなかなか辛いのよね、これ」

「お前は口が軽いから好都合だ」

 ミカエルは不服そうな顔をする。

「そうだ、ついでに魔法の件にも少し触れておこう。詳しくは入学後改めて教えるが、基本として4つの属性魔法がある。昨日見たかもしれない土と水と風、そして火だ。この4つが基本魔法と呼ばれる魔法だ。それ以外は特殊魔法になる」

「僕は……特殊魔法ですね」

「そうだ。特殊魔法を使う人間は少ない。それゆえにそんな人間は目立つ」

「バレたら厄介事になりそうですね」

「ああ、アレインくんは想像したモノを具現化する能力と見ている。もちろん基本魔法にそんな魔法はないが、風魔法ならある程度は代替できる。だから風魔法ということで話を合わせる」

「了解です」

「あと、ローブは基本街中で脱がないでくれ。君は魔力が多いからわかる人には感知される」

「……え、昨日脱ぎましたよ」

「……」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫ではないかな」

(なんで冷静なんだこの人……?)

「ところでアレインくん。奇襲をするときはいつがいいか知っているか?」

「え?いや……」

「今みたいな朝方。早朝がいいとされている」

「え、え、どういうことですか!?」

 ミカエルが御者席に声をかける。すると、馬車がスピードを徐々に落としてついには止まった。

「降りようか」

 グレイセスに言われてアレインたちは馬車を降りる。

 周りは草原のみ。目的地に着いたというわけではなかった。

 薄暗い道の先にいくつかの人影があった。こんな時間こんな場所では珍しいことだ。

「来客だ」

「招かれざるね」

 ボブとステイシーが戦闘の準備をする。剣を抜身の状態にして少しずつ近づく。

「アレインくんはミカエルとここにいてくれ。もしもの場合はミカエルの指示に従うように」

 グレイセスはローブを脱ぎ捨てる。スーツのジャケットを羽織っていないフォーマルな格好と長めの黒髪を後ろにしっかり纏めた姿はアレインの目に凛々しく映った。

 グレイセスはボブたちの少し後ろから追従した。

 ミカエルはいつでも対応できるように柄に手を添えながら、三人の様子を見守っていた。


 ボブとステイシーが人影に近づく。人数は6人。だれもローブで顔が隠されている。

 魔力感知を行い相手の実力を確かめる。魔力の大きさはそれほどでもなさそうだった。しかし、油断はできない。魔力を抑えて誤認させる技術があるからだ。

(人数が不利だ。一気に仕掛ける)

 グレイセスは魔話糸で二人に指示を出した。

 ボブとステイシーが加速して近づく。

 6人も迎撃態勢に入る。

 グレイセスが火球を手から放つ。火球はそのままステイシーに向かう。ステイシーはその火球に対してノールックで手と合わせる。手から生成された水が気化し、辺りに水蒸気が立ち上がる。

 一瞬にして視界を奪われた6人は動きを一瞬止めた。

 それに対してボブとステイシーはそのまま近くの二人を斬り付けた。

 グレイセスは水蒸気に包まれた空間へ火球を連発する。ボブたちを考慮していないほど満遍なく放つ。

「あんなに撃って大丈夫なんですか」

 アレインが当然のように質問する。ミカエルは答える。

「問題ないよ。この鎧は火魔法に耐性がある。あれくらいの火球なら受け流せるよ」

 そう言っている間にグレイセスの火球がさらに2人を燃やし尽くした。

 さらに、1人が水蒸気を飛ばすために風魔法を発動しようとするが、ボブとステイシーが剣で突き刺して阻止した。

 これで残りは1人のみとなった。

 ボブとステイシーが剣を引き抜こうとしたその時、頭上に気配を感じて顔を上げる。

 残りの1人が跳んでいた。

磐闕衝ジャッジメントインパクト

 1人は刺された味方ごと魔法で叩き潰した。地面に大きなクレーターが広がる。

 ボブとステイシーは剣を引き抜く動作を止めて、回避行動に移っていた。寸でのところで直撃は避けられたが、それでもかなりのダメージが二人を襲った。

「ぐあぁ!」

「きゃあ!」

 二人はそのまま倒れて動けなくなっていた。鎧にいくつかの亀裂が入っている。

「戦いの練度はそちらが上のようだ。さすが王国騎士団、烏合の衆じゃ何もできんか」

 焼け残ったローブを無理矢理引きはがして男が佇む。

 漆黒をベースに紅色のストライプが入った鎧を全身に纏っている。

 その男を見て、グレイセスとミカエルは同時に理解した。

 この敵は強いということに。


 グレイセスは眼帯を取り外した。これは彼女が出し惜しみできない相手と悟ったからだった。

 ミカエルはアレインを連れて逃走する算段を立てていた。

 鎧の男は対峙するグレイセスの瞳を見る。黄色い虹彩と縦長に鋭い瞳孔。およそ人間の目ではなかった。

「”魔眼(まがん)”のグレイセスか。ということは後ろの男は”千騎(せんき)”のミカエルかな」

「おしゃべりする気はない」

「グレイセスなら厄介だな。ブラフが効かん」

 グレイセスたちは魔話糸で会話する。

(ミカエル、周りにこいつ以外の魔力は感知できない。隙をついてアレインをどこかへ)

(わかっている。しかしこの男に今マークされている。下手に動けない)

 鎧の男は目的であるアレインに意識を向けていた。

「その小僧がターゲットか……ふむ」

 鎧の男は左手を掲げて火球を作り出す。その大きさは先のグレイセスが放った火球とは比べ物にならないほどだった。

真火紅炎球(しんかこうえんきゅう)!!)

 ミカエルは内心戸惑った。そして行動が遅れたことを理解した。

 巨大な火球は放てばここ一帯を焦土にできる。つまり、ミカエルたちが逃走しようすればすぐに真火紅炎球が襲ってくることになる。下手な行動はできなくなった。

(チャンスだ。これで奴の左手は使えない)

 グレイセスは風魔法で風の刃を撃ち込む。しかし風の刃は鎧に弾かれる。

「止めておけ。この鎧はどんな魔法も受け付けない」

 ハッタリのようには聞こえなかった。あの鎧の耐性を正面から打ち破るにはかなり強力な魔法を使う必要があるようだ。

(接近する)

 グレイセスはナイフを構えて接近する。魔法によるダメージはもう期待できない。物理による直接攻撃、それしかない。

「まぁ、そう来るな。だが……風刃(ふうじん)

 鎧の男は剣を振り、風の刃を放った。それは先のグレイセスの風魔法と同じだった。

 グレイセスはとっさに避けるが、風の刃は右肩を掠めた。

「くっ……」

(二属性魔法同時展開ができるのか……)

 グレイセスは高度な魔法技術に圧倒された。

 鎧の男はなおも風刃を連射する。

 グレイセスは地面に手を置き、土魔法で複数の土の柱を作り出す。そしてその土柱を盾や壁にして接近を試みる。

 だがしかし、鎧の男の風刃の方が速く土柱がどんどん壊されていく。このままではグレイセスはジリ貧になる。

「アレイン、1つやってほしいことがある」

「やります」

 ミカエルの提案にアレインはノータイムで返答した。


 土柱が間に合わなくなってグレイセスは覚悟を決めて正面から突っ込んだ。正中線や急所に当たらないことだけを意識し、多少の被弾は承知の上で接近する。

 その捨て身が功を奏したか、ナイフの届く距離まで来た。ここまで来ればリーチの短いナイフの方が速く刺せる。

 グレイセスは鎧の継ぎ目、ヘルムとアーマーの隙間にナイフを突き立てた。

 バキン……

 音を立てて壊れたのはグレイセスのナイフだった。

 鎧の男は首元に土魔法で硬度な岩の膜を張っていた。

 そして……。

 ドス、っと鈍い音がして男の剣がグレイセスの腹部に深く突き刺さった。

 グレイセスは思わず膝をついて吐血した。

「終わりだな」

(このまま燃やし尽くす)

 男が剣を引き抜こうとしたが抜けなかった。

 グレイセスが傷口を剣ごと、水を凍らせて固定していた。

「いまだ!」

 ミカエルの声でアレインはローブを脱いだ。これによってアレインは魔法が使える。

 その様子を見て男は警戒する。

(一端距離を置こう)

 男はその場から離れようとしたが、足元がぐにゃっと沈み、体勢を少し崩した。

 それは、意識が朦朧としているボブたちの必死の反撃だった。ステイシーの水魔法で濡らした地面をボブの土魔法で男の足元に隆起させたのだ。

 さらに、アレインの魔法による見えない手の掌底が男の顎にヒットする。魔法はかき消されていても衝撃は残る。不意の一撃に男は面をくらった。

 そして、必死に顔を戻すと投げナイフが自身の心臓を狙っていた。

 ミカエルによる風魔法で一直線に猛スピードで加速しているナイフは、鎧をぶち抜こうとしていた。

 グレイセスの捨て身、ボブたちの機転、アレインの不意打ち。

 すべてはこの一撃のために。

 ミカエルの放った一撃は男の鎧を破壊した。


 バラバラと周囲に破片が飛び散る。男の血も飛び散る。

 しかし……。

 壊れているのは男の右手の手甲だった。咄嗟に右手でナイフを弾いた。

 この状況でも男は対処してのけたのだ。

「おもしろい!いいぞ、いいコンビネーションだ!!今のはヒヤリとした!……だが、燃えろ」

 男が左手の真火紅炎球を放とうとする。万事休すだ。

 その時だ。

 グレイセスが彼の右手に触れた。手甲を失い、素肌の右手を。

 男も一瞬何が何だかわからなかった。

魔法操術極まほうそうじゅつきわみ波流微手(ハルビテ) 」

 瞬間、男の真火紅炎球がだんだんと小さくなっていく。そして、ついには消えてなくなった。

 そして、男の体が内部で爆発し燃え上がった。

「グオオオオオオオ」

 男はまともな断末魔を叫ぶことはできなかった。そのまま灰すら残らなくなるまで燃え続けた。

 波流微手。魔眼により、魔力の()()を唯一視ることができるグレイセスのみができる魔法だ。対象の魔法の方向性を操作し、発動者本人に送り返すことができる。相手の体に直に触れないといけない制約はあるが、決まれば一撃の技だ。

 男は今、自身の体1つで真火紅炎球を受け止めたのだった。

「はぁ……はぁ……」

 決着がついてグレイセスは座り込んで、荒れた呼吸を整える。

「大丈夫か!?」

 ミカエルとアレインが駆け寄る。

「はぁ……、ああ、私は大丈夫だ。それより……」

 グレイセスは近くで倒れているボブたちに視線を送る。

 ミカエルはすぐさま近づき、確認する。

「大丈夫だ……。意識を失っているが、息をしている」

 それを聞いてアレインはホッと安堵した。

「早くここから移動しよう。追手が来るかもしれない」

「わかった。馬車は僕が運転する。どこへ向かう?」

「モアド山。そこで2、3日身を隠す」

「わかった」

 

 ミカエルは近くまで馬車を寄せて、ボブたちを乗せる。

 アレインはグレイセスの肩を持って一緒に乗った。

 グレイセスは馬車の自身の荷物の中から一本の瓶を取り出して飲んだ。少し赤みがかった紫の液体だ。

「今のは回復薬だ。傷の手当てに良い」

「じゃあ、それをボブさんたちにも……」

「いや、それは意識が戻ってからにしてくれ、すまないが、怪我の応急手当をしておいてくれ……」

 アレインはどういうことかわからなかったが、素直にグレイセスの指示に従った。

「じゃあ、出発する。全速力で行くから揺れる。注意してくれ」

 ミカエルはそれだけ伝えると馬車を走らせた。

 目的地はモアド山。


 薄暗い空間に数人の人間がいる。顔はよく見えない。

「ありゃ、ガルナンドがやられちゃったんだ?どうするの?トップ戦力の1人なのに」

「想定外だな。まさかやられるとは……」

「それなら次の計画だな、エウノア頼んだぞ」

「はー、正直嫌なんですけど」

「そういうな。私は実験が忙しい」

「あの子はどうしたのさ」

「開発が忙しいらしい」

「引きこもりばっかね……。でも、まぁ、行くだけ行きますわ。ちょっぴり楽しみだったり」

「目的を忘れるなよ」

「実行するかどうかはあたしが決めるわ。あたしより弱い人の指図なんて受けるつもりはないの」

 そう言って彼女はその場を後にした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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