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第十二話「グレーフにて その2」

シリーズものです。

「あの、なぜ僕が……」

 アレインは当然困惑している。

「アレインくん、これはチャンスだ」

「え?」

「最近この周りをうろついているという盗賊はこいつらだろう。ここで盗賊を大人しくしてしまえば君の村にも被害が及ばなくなるはずだ」

「それはそうですけど……」

「私たちが無理矢理解決してもいいがどうする?」

 アレインの頭に村のみんなのことが思い浮かんだ。

 村のみんなを守る。ルーベルと誓ったことだ。それは村を離れることになっても消えない約束だった。

 この盗賊たちを倒すこと。それはライ村のみんなを守ることになる。

「何もみんなに恩返しできてなかったな……」

 ぼそりと呟いて、アレインは決心した。

「やります」

 その言葉を聞いてグレイセスは満足した。

「とりあえず、そのローブを脱ぎなさい。魔法を使うときには妨げになってしまう」

 アレインはローブをグレイセスに渡した。


 一方で盗賊団のボスもジャギイと言葉を交わしていた。

「ジャギイ、あのガキを殺すつもりでやれ」

「ええ!でも、ボスあいつは生け捕りだって……」

「わかっている。いいか。あの女が決闘を提案し俺たちは受け入れた。そして俺があのガキを対戦相手と指名するところまでは読まれているだろう。あいつが一番場慣れしていないからな」

「だから一瞬で殺しちまうかもしれないんですぜ」

「俺たちが殺せないって所も読まれているだろうな。だからその裏を突く」

「どういうことです?」

「あいつらも殺されるのはマズいってことだ。だからあの女が敗北の判断の主導権を握ったんだ。あのガキがくたばる前に待ったをかけられるようにな」

「つまり、殺しかければ……」

「ああ、自然と負けを認めることになる。殺せないと思っている意表を突けば慌てて敗北宣言だ」

「さっすが、ボスだぜ」

「そういうわけだ。しっかり()()()()()()

「了解、ボス」


(相変わらず、目的のためなら保護対象も平気で危険にさらすなぁ)

 ミカエルは内心呆れていた。

(聞こえているぞ)

(ありゃ、繋がってた)

(この展開は色々と都合がいいんだ。彼の魔法の性質を見極める意味でも、依頼人を引きずり出す意味でもな)

(効率がいいの間違いでは?)

(時間があまりないのは事実だな)

(で、通話を繋げたってことは何かしてほしいことでも。こっちの準備はできているが)

(もしもの時はよろしく頼む)

(はいはい、状況を見て臨機応変に対応ね。いつものことだ)

(じゃあ、始めるぞ)

(了解)


 アレインは2回深く深呼吸する。

 目の前の大男からのプレッシャーを感じながら対峙する。

 ジャラジャラとモーニングスターの鎖が鳴る。

 ジャギイはさらにプレッシャーをかけるようにブンブンと振り回す。

 ジャギイはかなり使い慣れていた。狭い路地裏の中で壁に当てることなく振り回している。

(く……怖い。緊張で体が強張ってる)

 アレインは何度も体を動かして構えを変える。体勢がうまくハマらないもどかしさがあった。

 決闘が始まる前から、互いの精神状態により勝負の行方は見えていた。

「それじゃあ、始めようか」

 グレイセスが決闘の開始を宣言する。

「決闘開始」

 始まりのゴングと同時にジャギイが突っ込んだ。

 殺す覚悟の決まっているジャギイはモーニングスターをアレインの顔面に目掛けて放つ。

「止まれ」

 アレインは頭部に向かう鉄球を魔法で止める。

 ジャギイは魔法に怯むことなく突っ込み、アレインの腹部に前蹴りを叩き込んだ。

「ぐふぅ……」

 アレインは倒れる。

 ジャラ……。

 鎖の音で顔を上げると、ジャギイが目の前にいた。倒れているためアレインにはその巨体がさらに大きく見えていた。

 足によるスタンピング。アレインは間一髪転がって避けた。

 バキ……。

 地面が嫌な音を上げる。

 急いで立ち上がり体勢を整えようとする。ズキっと嫌な熱と痛みがアレインの腹部に残っていた。思わず顔を歪ませてお腹に手を添えた。

 盗賊団は勝利を確信して下卑た笑みを浮かべていた。

 グレイセスは表情も変えずその様子を見守っていた。

 魔法を知らずとも恐れず攻めてくるジャギイに、警戒心の強いアレインは後手に回るしかなかった。

 ジャギイの縦横無尽に繰り出されるモーニングスターの鉄球にアレインは振り回されていた。

 アレインは今まで「止まれ」や「吹き飛べ」といった単純なワードの魔法で対応していた。相手を止めてから次の手を考えて魔法を放っていた。

 しかし、先のルーベルや今のジャギイとの二度の決闘において、「止まれ」という魔法に対して対応されてしまった。武器と肉体。2つ以上「止まれ」の対象があると、途端に成功率が下がった。

 殺傷力の高い武器に意識が向いてしまうのは本能的に自然なことだった。

 モーニングスターの鉄球の動きに気を取られ、アレインは壁際に追い詰められていた。ジャギイは慣れた様にモーニングスターの柄の部分でアレインを突き、壁に叩きつけるとそのまま彼の首を掴み持ち上げた。

 そして、そのまま片手で締め上げる。アレインは苦しい息を漏らす。

(このまま窒息……。いや、あのまま骨をへし折る気か。グレイセスどうする)

 ミカエルも状況の深刻さを感じてグレイセスに念話する。

(いや、まだだ……)

(あいつイカれているのか知らないが本気だぞ。見殺しにする気か?)

(まだ死んじゃいない)

(死ぬぞ)

(アレインくんの目は死んじゃいない)

 アレインは必死に手を伸ばす。しかし、腕の長さはジャギイに分があり、全く顔に届かない。

(ダメだ……。こんなんじゃ全然ダメだ。数的有利すらない……一対一なのに、それすらも負けるなんて……。これじゃあ、村に攻め込んできたって守れないじゃないか……)

 アレインは必死に手を伸ばす。それでもその差が縮むことはなかった。

(僕に武器があれば……この手が届けば……)

 アレインの意識が段々と薄れていく。

(僕の……武器……魔法……)

 アレインの視線からは手がジャギイの顔に届いているように見えている。しかし実際の距離は離れている。その錯覚がアレインに活路を見出した。

 次の瞬間、膝をついて倒れたのはジャギイだった。鼻を押さえており、鼻血が見えている。

 解放されたアレインも首を押さえ、必死に呼吸する。

 当然盗賊団は驚く。何が起きたのか。隠し武器もないアレインが一体何をやってのけたのか、盗賊団はわからなかった。

 グレイセスたちは何が起きたかわかっていた。魔力を持つものならわかった。

 アレインの手から透明な手が伸びてジャギイの顔面を殴ったのだ。

 透明な手。手自体は透明で、グレイセスたちにも見ることはできない。しかし、魔力の残滓、オーラのようなものがその手を包んで線になっていることで見えていた。その線はグレイセスほどの魔力感知の精度をもってやっとしっかりと形を認識できるほどだった。つまり、魔力感知できる人にとっても見えづらい魔法だった。

 アレインは呼吸を整えながら立ち上がる。ジャギイも彼と同時に立ち上がった。

 アレインにはもう恐怖による緊張はなかった。寸でのところで彼は彼だけの強力な武器を手に入れて、精神は安定していた。

 ジャギイがモーニングスターを振り回す。

 アレインは殴るモーションをして、透明な手で彼の右わき腹にフックを叩き込んだ。

 ジャギイはよろけた。

 そのまま右ストレート。

 ジャギイはまた膝をつく。

 モーニングスターの猛攻をかいくぐり、ジャギイに近づく必要はなくなった。「止まれ」と魔法をかける必要はなくなった。

 そこからは一方的だった。

 ジャギイがいくら屈強な男であろうと、アレインの虚をつく連撃にそう耐えることはできない。

 何度目かの攻撃の後、鳩尾に入った透明な手によるパンチを最後に、大きな体は地面に倒れた。

 戦闘不能。

 アレインの勝利だった。


「勝負ありだな」

 グレイセスがボスに聞こえるように言う。

「……そのようだ」

 ボスは平静を装っていた。

「勝負には私たちが勝った。約束通り教えてもらおうか、依頼主を」

「わかった……と言うとでも思ったか!」

 ボスの合図で周りの盗賊が一斉に武器を構えた。

「お前たちに教える気はない!どういう意図で決闘なんて提案したか知らないが、初めからお前たちを生きて帰すつもりは毛頭ない!こうなりゃ仕方ねえ、そのガキごと殺せ!」

 盗賊が雪崩れ込む。絵に描いたような悪役ムーブにグレイセスは呆れていた。

「どういう意図か……。時間が欲しかったんだよ。ボブ」

 その合図とともに路地の入り口すべての地面がせり上がった。

 土隆岩壁(どりゅうがんへき)。地面から壁を隆起させる地魔法だ。

 盗賊団は突然の事態に混乱する。

「私たちも結果はどうあれお前たちを帰すつもりはなかったさ。ステイシー」

 ステイシーが地面に手を置くとそこから大量の水が現れた。

 水成爆流(すいせいばくりゅう)。爆発的に水を生成する水魔法だ。

 勢いよく水が溢れて盗賊たちは皆体勢を崩した。

 岩壁によって、水は一気に溜まり水かさを増していく。盗賊団の大半は盗んだ武具を装着していたためにうまく浮けなかった。

 グレイセスはたちの周りはドーム状に水が弾かれていた。ミカエルが風魔法で水の浸入を防いでいたのだ。

 アレインは溺れる人間の中に全く動かない人影を見た。それは先ほど彼に倒されたジャギイだ。彼はまだ気絶していた。このままでは溺死してしまう。

 彼は先ほどの透明な手で彼を引っ張り、頭だけをドームの中に入れた。

 それを見ていた数名が真似てドームに突っ込むが、ミカエルの放つ空気弾で吹き飛ばした。

「アレインくん、気絶している者だけ頭をドームに入れろ」

 グレイセスの指示でアレインは盗賊団の何人かをドームに引き入れた。

 それから盗賊団のほとんどが気絶か攻撃する意思を削がれたところでグレイセスは指示を出す。

「ステイシーもう十分だ、ありがとう」

 ステイシーは魔法を解除する。すると、水かさがどんどん引いてきた。

「ボブもお疲れ様」

 ボブも魔法で隆起した地面を元に戻した。

 二人は大きく魔力を消費して呼吸を乱していた。

 それから路地裏は濡れた地面と倒れる盗賊たちで溢れた。半分以上は気絶しており、残りはゴホゴホと飲んだ水を吐いていた。

 グレイセスは真っすぐとボスのもとに歩むと、彼の顔を持ち上げた。

「それで、依頼主は誰だ?」

 何事もなかったかのように尋ねる。

「ぐ……」

 盗賊団の惨状を見てボスも重い口を開かざるを得なかった。

「……知らない」

 グレイセスは地面にボスの顔面を叩きつけた。

「ほ、本当だ……。依頼主は名前も知らない……」

「顔は……?」

「わからない……。フードで顔を覆っていたからだ……」

「はぁ……。他に特徴は……?」

「特徴……、そうだ、炎。炎が揺らいでいた」

「炎……ハッ!」

 グレイセスはボスの服をめくる。そこには謎の術式が刻まれていた。

「揺れる揺れる炎の瞬き、空の身体の燃ゆる幽体、気化し発火し焼き尽くせ」

 その言葉を最後にボスの体は突如燃え出した。

「口封じか……」

(だが、これができるということは相当魔法ができるやつだな……。やはり魔術教(まじゅつきょう)か)

 あっという間にボスの体は灰となった。

「な、なんだこりゃあ!」

 路地裏に男の声が響く。

 みんなが視線をそちらに向ける。

「おやっさん!」

 アレインは思わず駆け寄った。

「ど、どうしてここに……」

「おめえの反応が、どうも怪しくてな。変なことに巻き込まれてないか心配で来てみたらよ……。そいつらどうしたんだ?」

 仕方がないのでアレインは事情をおやっさんに説明した。


 おやっさんに説明した後、盗賊たちは自警団に連行された。

「はぁ、おめえ魔法使いなんか」

「あ、はい。そうです」

「それで魔法学校に行くと……」

 アレインはおやっさんに魔法学校へ通学することを伝えた。それがセントフルール魔法学校ということはうまく誤魔化して。

「やったじゃねえか。おめでとさん」

 おやっさんは思いっきりアレインの背中を叩いた。

「あ、ありがとうございます」

「いやあ、そっか、独り立ちかぁ……」

 おやっさんの瞼に涙が浮かぶ。おやっさんは涙もろい。

「お、おやっさん……」

 おやっさんは袖で涙をぬぐった。

「ダメだダメだ。湿っぽいのはナシだ!元気でやってけよ!」

「はい!」

「……おっと、そうだ。アレイン、俺の店から1つ何か持って行けよ。餞別だ」

「え、本当ですか!?」

「ああ、おめえには助けられたからよ」

「ありがとうございます」

 アレインはおやっさんのお店で武具を見る。

 武器や防具。どれも魅力的に見えるが、アレインにはしっくりとしたものは見つからなかった。

「アレインくんのスタイルにはなかなか合わないかもな」

「うーん、難しいです」

「それなら、誰かにプレゼントとかどうだ?」

 おやっさんが口を挟む。

「武具がほしいやつとかいないか?」

 その一言でアレインはどれをもらうか決めた。

「それなら……これにします」


 グレーフの一件を終えてアレインたちは町を去ろうとしていた。

 だが、その前にアレインには別れをしないといけない人物がいた。

「おーい、アレイン」

 遠くから大きな風呂敷を背負ったルーベルが近づいてきた。

「ルーベル」

「用事は済んだか」

「うん、終わったよ。ねえ、ルーベル」

「ん?」

「これ、プレゼント」

 アレインはルーベルに剣を手渡す。それはおやっさんが打った剣だった。鍛冶師の作った立派な剣だった。

「な、何だよこれ。お前まさか買ったのか?」

「ち、違うよ」

 アレインは剣を手にするまでの経緯を説明した。

「なるほど、それで俺にこれを……」

「さっきの熊でいつもの剣が折れただろ。ちょうどいいかなって……」

「まぁ、そういうことなら貰うが……。いいのか俺で?」

「いいよ。ルーベルには感謝してるから」

 アレインは微笑した。

 二人の間に少しの沈黙が流れたが、意を決したようにアレインが口を開いた。

「本当は急に学校の話を持ち掛けられたとき、怖かったんだ。天移魂魄でこの世界に来て、10年が経って、ライ村で過ごした時間は楽しかった。学校に行くことは夢だったけど、ここでずっと過ごすのも悪くないんじゃないかって思ってたんだ……」

 ルーベルは彼の話を真剣に聞いていた。

「学校にいざ行くとなったとき、僕は断る言い訳を探していたんだ。みんなと別れるのが嫌だったんだ。怖かったんだ。諦めようとしてたんだ。でも、ルーベルが気づかせてくれた。背中を押してくれた。あれがなかったら僕は絶対に後悔していたと思う」

 アレインの握る拳にも言葉にも熱が籠る。

「だから、ルーベルには本当に助けられたんだ……ありがとう」

 ルーベルは照れた様に頭を掻きむしる。

「ああ、そのなんだ……。アレインは天移魂魄で俺より長生きしているかもしれないが……、ここでは俺が年上だ。兄貴なんだ。だから困ったら頼れよ」

「はは……そうだね」

「別に甘えることがダメなわけじゃねえし、頼られるのは嬉しかったりするんだ、俺は。お前には助けてもらったばかりだったからな……」

「うん……、ありがとう」

 ルーベルは照れ隠しのつもりで声を張り上げる。

「お前は学校にどういう立場で行く!先生か?役員か?違うだろ!生徒として行くんだろ?それならもっと他人に頼ったり甘えたりしろ。お前が困ったり悩んだりしたときは」

「うん」

「それで、お前の夢だった学校生活、目一杯楽しめよ」

「うん!」

 ルーベルは思いっきり笑った。アレインもそれと同じように笑顔を見せた。

「ルーベル、僕は魔法学校で魔法をたくさん学んでもっと強くなるから。そしたら次の決闘は僕が勝つよ」

「へえ、言うじゃん。返り討ちにしてやるよ。俺とこの最強丸ツーがな」

「やっぱりダサいよ、それ」

「うるせー、俺が使えばどれでも最強なんだよ」

 二人は心の底から笑った。この別れに悲しい感情は一切なかった。

「じゃあな、アレイン」

「またね、ルーベル」

 二人は拳を打ち付けて別れの挨拶をした。


 アレインは遠くまで消えていくルーベルに手を振り続けた。

 遠くで見守っていたグレイセスたちが近寄った。

「いい友人だな」

「はい、だってこの世界で最初の親友なんですから」

 憑き物の落ちたようにアレインは笑う。もう彼にわだかまりはない。

「それじゃあ、アプリオ王国に向かおう」

 アレインたち一行はこうしてセントフルール魔法学校に向けての旅を進めた。

 時刻は夕暮れ。彼らの進む道筋を陽光が眩しく照らし続けていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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