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第十一話「グレーフにて」

シリーズものです。

「そういうことだったのか」

「そうなんですよ。こいつせっかくのチャンスを棒に振ろうとしてて……」

 馬車に揺られながら、ルーベルはアレインとの事情をグレイセスたちに告げ口した。

「もう終わったことだろ。ぶり返さなくていいから」

 アレインが制止しようとするが、ルーベルは続ける。

「いや、これは大事な話だぞ。お前はこう変な自己犠牲と諦め癖があるからな、これからの学校生活でもそうするんじゃないかとな」

「う……。そんなの入ってみなきゃわからないし」

「いやあ、するね。お前は困っている人がいたら助けて、自分の苦労は隠す性格だからな」

「悪いのかよ」

 アレインは見透かされたことが恥ずかしくてつい悪態をついてしまう。

 アレインは生前周りの人に助けられてばかりだった。その反動で他人の手助けを率先して行っていたのだ。

「その性格自体はいいよ。ただそれでお前が学校生活を楽しむことを我慢しないかが心配なんだよなぁ」

「杞憂だよ」

「他人のために、って自分を蔑ろにして、自分一人で色々と背負い込んで潰れそうでなぁ」

「よく見ているんだね」

 ミカエルが口を挟む。

「10年も一緒にいるとわかるんですよ」

「当たっている?」

「まぁ、近からず遠からず」

「ビンゴみたいだね」

 車内が笑いに包まれた。

「まぁ、色々言ったが、もうちょっと自分のしたいように生きろ。友達も作って頼れ。先生にも相談しろ。夢の学校生活が後悔のないように」

 ルーベルはそう言って言葉を締めた。

「わかったよ、ルーベルは心配性だな」

「じゃあ、心配になるような生活送るなよ」

「町が見えてきました」

 ステイシーが御者席から声をかける。

「早いね」

「歩いて1時間ですからね」

「少しいいかな」

 グレイセスが口を開く。

「はい」

「少し話を合わせてほしい。まず、私たちは親子ということにしてほしい」

「親子!?」

「詳しいワケは後で。そして、私たちは旅行の帰りにアプリオへ向かっている。ミカエルたちは護衛で雇った傭兵ということにする」

「は、はぁ……」

「そして、アレインくんの魔法だが、誰かに聞かれたら風魔法の使い手ということにしよう。その方が色々と都合がいい」

 グレイセスは矢継ぎ早に告げる。

「それと、これを纏ってくれ」

 グレイセスが着ているような白いローブを手渡された。

「それは、魔力を遮断する特別性のローブだ。それを着ていれば魔力感知には引っかからない。外を出るときはそれを着ていてくれ」

 アレインは受け取ったローブを身に纏った。

「どう?」

「似合う似合う」

 ルーベルは親指を立てた。

「到着しました」

 またもステイシーが呼び掛けた。

「さて、行こうか」

 アレインたちが馬車から降りた。太陽の日差しが彼らに降り注ぐ。

 ルーベルは大きく伸びをした。

「んー、それにしてもグレイセスさんが母親役ねー」

「流石にマズかったか?」

「あー、いえいえそういうことではなくて、何か歳とか合わなそうだなって……」

「年齢的にはおかしくないが」

「え?」

「グレイセスは35歳だよ」

 ミカエルが小声でこっそり教えた。

「おい」

 勝手に年齢を言われて少し機嫌が悪くなった。

 アレインとルーベルは驚いた。

「そうなんですか。全然見えませんでしたよ」

「そうそう、もっと若いと思っていました」

「そ……そうか」

 二人に褒められてグレイセスははにかんだ。

「これでも結構年を取ったと感じるんだ。最近は代謝も落ちてお腹周りなんかが……」

「ほう、どれどれ……」

 ミカエルは事もなげにお腹を摘まんだ。

 ぷにっと言う効果音が聞こえそうな柔らかな感触をミカエルの指は捉えた。

「お前……」

 グレイセスはミカエルの手を思いっきり掴み上げた。

「確かに昔よりは筋肉落ちたかもなぁ」

 ミカエルは飄々としている。

「何がしたいんだ?」

「いや、気になっただけだよ。……あー、今のは僕が悪かった。ごめん」

 グレイセスの表情から何か察したのか、ミカエルは謝罪した。

「なぁ、アレイン」

「なに?」

「あの二人どういう関係なのかな?」

「さ、さぁ……。ただならぬ関係?」

「大人の関係ってやつだよな」

「探るのは野暮だよ。気になるのはわかるけどさ」

「うーん、そうだよな。アレイン、いつかわかったらこっそり教えてくれ」

「それが野暮なんだって……」


 突然だが、魔話糸(まわし)というアイテムがある。糸の両端を互いに持ち魔力を糸に込める。それを2つ作り互いの腕などに装着する。そうすると、魔力を込めた者同士が念話のように会話ができるという代物だ。音声の精度と距離はお互いの魔力量に依存する。


 グレーフに入り、ルーベルは頼まれた買い物をするために、ボブとステイシーはグレイセスの指示により魔話糸を付けて別行動となり、アレインはミカエルとグレイセスと共に歩いていた。

(さっきのやり取りが気になる……)

 アレインは後ろについてくる二人の様子が気になり、時々降り向いたりしてしまう。

 だが、すぐにグレーフの様子の変化に気づき、アレインはそちらに意識を向けた。

(ん?何だか今日は騒がしいな……)

 何があったか気になった彼は急いでおやっさんのもとへと向かった。


「おやっさん」

「お、アレインじゃねえか。今日はどうした?」

「それよりも何だか周りが騒がしいんだけど……」

「……ああ、実は今朝、コバの店が賊に襲われてな。武具を奪われたらしい」

「それじゃあ、盗賊が近くに……」

「自警団を結成して対応するみたいだが、正直心許ねえなぁ」

 二人の会話に聞き耳を立てていたグレイセスたちは魔話糸で会話する。

(予想通りみたいだね。よく読めたね、この状況)

(盗賊が何もせずに数日。何かを待っているか、監視しているか……)

(でもどうしてこんな面倒なことを?)

(この町は魔法が使えるほどの魔力を誰も持っていない。アレインには魔力感知がある。魔力が大きい人物は警戒されると踏んだんだろうね)

(魔力遮断のローブを使えば楽なのに……)

(ちょっとでも尻尾を見せる可能性が嫌なんだろうな。さて……)

 グレイセスは別の魔話糸に通話した。

 その相手との会話を終えたグレイセスは不敵に笑った。

「さて、その尻尾を引きずり出そうか」

「アレインくん、こっちに来れるか?」

 グレイセスが手招きする。

「お、知り合いか?」

「あ、そ、そうです。知り合いです。呼ばれたので行きますね……」

「おう……」

 おやっさんは怪訝な顔をしてアレインを見送った。

(マズいマズい。おやっさんには家族のこととか話していたんだ。グレイセスさんと親子なんて嘘見破られるじゃないか。後でグレイセスさんに報告しなくちゃ……)


 グレーフの町の路地裏。人気のない所でアレインたちは待ち合わせしていた。

「あの……実は先ほどのおやっさんに本当の家族の話しちゃってたんですよね」

「そうか……事が終わったら説明しないといけないかもな」

「グレイセスさん。団長」

 ボブとステイシーが合流した。人を一人引きずって。

 その姿にアレインはギョッとする。

「え、その人誰です?」

「ああ、盗賊の一人だ」

 グレイセスはさらっと答えた。

「ボブたちには私たちを監視している一人をこの路地まで捕まえてくるように頼んだんだ」

「案外監視していると自分がされていることには気づかないものなんだよね」

 ミカエルはうんうんと頷いている。

「恐らく盗賊はアレインくんを監視していたはずだ」

「そ、そうなんですか。何の目的で?」

「予想はできるがこれから吐かせる」

 グレイセスは伸びている男をビンタして叩き起こす。

 男は段々と意識を取り戻す。視界の目の前に監視対象が映りビクッと反応した。

「いくつか聞きたいことがある。答えてくれるかな?」

「……ハッ!誰が答えるかよ」

「そう言うと思ったよ。まぁ、君は囮だし、どうにでもなるけどね」

 グレイセスは冷ややかな瞳で男を捉える。男はその目に恐怖を覚えて体が震えていた。

 そうしていると、路地裏に人の足音が響いた。それも複数の靴音だ。金属の接触音も混じっている。

 あっという間に狭い路地裏で4人は囲まれた。

 20名ほどの盗賊が路地の出入り口すべてを塞いでいた。

「いたぶる前に到着とは運がいいね、君は」

 男は震えながら床を這いずり、集団の中に戻っていった。

 4人の前に一人の男が躍り出た。彼がこの盗賊団のボスだった。

「この盗賊団のボスとお見受けするよ。君たちを雇ったのは誰かな?」

「答えるとでも?」

「ないだろうね。でも、戦うのは得策じゃないよ。数の有利を活かしづらい路地裏と私たちは魔法が使えるということを情報として考えてみてくれ」

「……」

「アレイン」

 グレイセスは小声で話しかける。

「今から君が危険な目に遭うかもしれないけど、大丈夫か?」

 アレインは少し考えた後、小声で返答した。

「何かアイデアがあってするなら……」

「よし」

 グレイセスは声を張って話しかけた。

「そこでだ……こうしよう!」

 ボスがグレイセスに視線を送る。

「一対一で決闘しよう。勝者は敗者の言うことを聞く。例えば私たちが負ければアレインを引き渡す。私たちが勝てば雇い主を答えてもらう。どうだ」

「……ルールは」

「こっちは魔法の使用OK。そっちは武器の使用OK。決着は戦闘不能か負けを認めるかだ」

「いいだろう。そっちの相手をこっちが決めてもいいか?」

「ハンデとして認めよう」

 ボスはニヤリと薄気味悪く笑った。

「じゃあ、そのアレインという少年だ」

 いきなり指名されてアレインの心臓がドクンと高鳴った。

「わかった」

 アレインは咄嗟にグレイセスへ視線を送った。グレイセスは優しい笑みを見せる。

「大丈夫だ。怪我だけはさせないよ」

「その代わり、負けの判断をするのは私にさせてもらおうか」

「いいだろう。ジャギイ、出番だ」

 ボスに呼ばれて男が現れる。2メートル近い巨体の大男だ。堅牢な鎧と大きなモーニングスターを持っている。

 アレインの頬に冷や汗が垂れる。

 アレインは突如、この男との決闘を余儀なくされた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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