第九話「学校への切符」
シリーズものです。
「ふむ……」
ローブの女性がアレインに顔を近づけて凝視する。
凛とした顔から放たれる視線は、まるで全てを見通すかのようで、アレインに緊張が走った。
「グレイセス、近すぎだ。怖がってる」
鎧の一人が声をかける。
「ん……すまない」
グレイセスと呼ばれた女性は体を戻して話しかけた。
「魔法が使えるのは君だね」
「はい……あの……」
「自己紹介がまだだったね。私はグレイセス・アイリーン。セントフルール魔法学校で校長を務めている」
学校。その言葉にアレインは反応する。
「が、学校の校長先生が……そのこの村に何の御用で……?」
「君を我が校に推薦するために来た」
アレインの心拍数はドンドン上昇する。
突如として湧いてきた学校への切符。アレインの長年の夢が叶うかもしれない。
「アレイン、やったな!」
隣で聞いていたルーベルが彼の背を叩いた。
「君は?」
「ルーベル。アレインの親友だ」
「……君は学校に興味はあるか?」
ルーベルは首を横に振る。
「いや、俺は他にやりたいことあるし。それに、魔法学校ってことは魔法が使えないといけないんだろ。俺はてんでダメ」
「そうか。それなら強制はできんな」
「それよりも、アレインが学校に行けるんですか?」
「ああ、強大な魔力を持ち、才能がある人間を国が支援し、我が校に通わせることができる」
「そして、彼は文句なしの才能の持ち主だ」
先ほどグレイセスに声をかけた鎧の一人が村長と共に近づいてきた。
「そんなに魔力があるんですか?」
「ん?」
「その、他に魔法とかに詳しい人がいないから、わからなくて……」
「なるほど」
グレイセスは少し笑みを見せる。
「そうだな……君と普通の魔法使いの差は、人間とリッチュくらいある」
(……?知らない存在と比較された……)
「なんと、それほど!」
驚いたのは村長だった。
(素直に喜べない……)
「あの……村長。リッチュとは?」
「ああ、リッチュは質の良いエサのみを食べる齧歯の小動物だ。その特性から『リッチュいるところ栄あり』と言われる害獣じゃ」
「ネズミみたいなものか」
「?」
(こっちはピンときてない!)
「そうだな、ネズミみたいなものだ」
答えたのはグレイセスだった。
「あ、こっちは伝わるんですね……。そっちの例えならすぐわかったのに」
「まぁ、これは確認も兼ねて聞いたからな」
「確認?」
「君がこの世界の人間かどうかの」
アレインは目を丸くする。
「その反応、当たりかな」
グレイセスはニヤリと笑う。
「僕のことを知っているんですか?」
「ああ。教えてあげよう、君のことをね」
日が落ちて、グレイセスたちはライ村で1日を過ごすことになった。寝床は診療所のベッドを借りることになった。
四人はアレインの家に招待された。アレインについて話を聞くためと、夕飯をご馳走してもらうからだ。
「そう言えば、他の三人は誰なの?」
ルーベルはしれっと鎧を着た三人に聞いた。
「まだ紹介してなかったね」
彼はヘルムを取り、素顔を見せた。
ミカエル・ライトラインは金髪碧眼あまいマスクの青年だった。
「僕はミカエルだ。よろしく」
彼に倣って二人もヘルムを外す。
「ボブ・モラッコです」
「ステイシー・ロックアウェイです。よろしくお願いします」
ボブは短い茶髪の男、ステイシーはショートの栗色髪の女だった。
「二人は若い感じがする」
「そうだろー」
ミカエルはニコニコしながら二人の肩を持つ。
「二人はアプリオ王国騎士団の期待の新人だからなー」
そう言って二人を自慢する。
「や、やめてください」
「相変わらずっスね、団長」
ステイシーは照れくさそうに、ボブは慣れたように対応していた。
「王国騎士?団長?どんどん情報が増えていく……」
アレインが困惑して頭を抱える。
「まぁ、そういうことも含めて話すよ」
グレイセスが落ち着いた態度で話す。フードを外した彼女は黒髪を後ろで軽く結んでいた。
「そろそろ座ったらどうだ。食事が始まる」
美味しそうな匂いが辺りに漂う。
「客人に振る舞うならこれだよねー」
ルーベルが興奮する。この匂いはアレインたちの好物だ。
「ミチ特性スープ!」
「ご客人の口に合うかわかりませんけど……」
ミーシャは照れくさそうに謙遜した。
「いやいや、この匂いは……」
「とってもおいしそうです」
「お腹が空いてきました」
「うん、楽しみだ」
「ありがとうございます」
「おいしかったです」
「また食べたいです」
「満足だ」
客人四人に特性スープは大好評だった。お腹を満たしたみんなは思い思いに感想を述べた。
「奥さん、後でレシピを教えてくれませんか?」
ミカエルが尋ねる。
「ええ、後でお教えしますね」
ミーシャはご機嫌に答える。
「ふむ、お腹も満たしたところで、本題に入ろうか」
グレイセスが口を開く。
アレインは真剣に耳を傾ける。
「まずは、少し歴史の話だ。このフルール大陸にはアプリオ王国、オーラン公国、グル帝国の三強国がある。30年以上前その三国による戦争が起きた。三国戦争と呼ばれるこの戦争はちょうど30年前に終結した。結果はアプリオの勝利。この戦争の戦利品として建設されたのがセントフルール魔法学校。フルール大陸一番の魔法学校だ。ここまでは大丈夫か?」
「うん」
「さて、今の三国の関係性はそこまで悪い状態ではない。アプリオの和解を二国が受け入れた形だからな。だが、友好的な関係性にはなっていない。今は戦争状態になっていないが、三国で技術競争や資源の開拓競争などを行っている。互いが互いに、相手を制するために一歩出し抜こうとしている状況だな。抑止力なんて大義名分を掲げてね。そしてその争いの場は、セントフルール魔法学校でも行われている」
「それが僕と関係あるってこと?」
「そうだ。魔法学校の生徒のほとんどは貴族の子だ。お金がかかるからな。だが、それとは別に国の推薦という形で入学する生徒もいる。それは、国の魔法と言う部分での強さを見せつける恰好の場所だ。こんな人材を持っているぞと見せつけるためのな」
「その国代表にアレインが選ばれたってことか」
ルーベルが納得したように口を挟んだ。
「今年、オーランから二人、グルから一人推薦で入学する」
「アプリオは0ですか?」
グレイセスは困ったように頭を搔く。
「いや、一人いる。いるが、国の第三王女なんだ。王の娘なら国からの推薦になるのは当たり前だろう」
「なるほど、だからアプリオ国はもう一人ほしいんですね」
(そこで僕に白羽の矢が立ったわけだ)
「ああ。そして、アレインくん、君がその一人に選ばれたんだ。ここまでが私たちが来た経緯だ」
「そして、僕たちはアレインを無事アプリオに送り届けるための護衛さ」
ミカエルが胸に手を添えて答えた。
「もしもの時に備えて、王国騎士団の団長とその補佐にボブとステイシー、そして、魔力感知担当の私が赴いた」
「魔力感知担当……」
「初対面の時に気になったと思うが……」
グレイセスは右目の眼帯を軽く指差す。
「私の右目は少々特殊でね。人一倍視えるんだ」
「それで、次はアレインくんのことだな」
グレイセスはまた話し始めた。
「まず前提として、今目の前にいるアレインはアレインの魂じゃないということは聞いているか?」
「うん、僕が昔みんなに話した」
「それなら話が早い。結論から話そう。君は天移魂魄によってこの世界に生まれた」
「……それっていったい」
「禁術だ。といっても禁術指定されたのは三国戦争終結後すぐだがな。それ以前は魔法の心得のある地域で使われることも少なくなかった。生贄の魔力、生命力を使って依代の肉体に別世界の人間の魂を入れ込む魔法だ。魔力の多さは二の次で、本来は別世界の知識や技術で危機を解決してもらうことが目的だ」
「じゃあ、僕以外にも同じ方法で生まれた人がいるの?」
「禁術指定されて今は観測できないが、昔にはいた。彼らは共通した言語知識をもっていることがわかっている。ネズミ、ネコ、イヌ。これらの言葉は天移魂魄を受けた者が当たり前のように使っていた名詞の一部だ」
「さっきのカマかけも……」
「そういうことだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
ルーベルが声を上げる。
「どうしたの?」
「おかしいぞ。アレインは十年前にその、なんだ?天ぷらこんにゃく?」
「天移魂魄」
(ルーベルも転生者か?……って思うほどのピンポイントの聞き間違い)
「そう、その天移魂魄でこっちに来たんだろ?でもその時にはこの術は禁術になってるんじゃないか?だれがその禁を破ったんだよ」
「ルーベルくんの言うことは最もだ。実は十年前ある組織が天移魂魄を行った。儀式が終わる直前、情報を聞きつけた王国騎士団が突入し計画を阻止しようとした。しかし一瞬間に合わず、生贄たちは絶命しており、天移魂魄の魂はどこかへ流れてしまった。依代にも入っていない。どこへ行ったか結局わからず、途方に暮れた。それが三ヵ月ほど前になって急に大きな魔力の反応を感知した。魔法の大きさからその事件で呼び込まれた魂だと推測した。それがアレインくんだったのさ」
「そういうことだったんですか……」
アレインは情報の濁流に軽く頭がフリーズしていた。
「まぁ、今日はこれ以上話すのは止めておこうか」
グレイセスは席を立つ。
「ただ、申し訳ないが入学まで一ヵ月しかない。王国までの移動も考えると、明日には出発しないといけない。そのことに留意してくれ。それでは失礼する」
グレイセスはそのまま家を出ていった。
「今日はごちそうさまでした。アレイン、ルーベル、グリムさん、ミーシャさんおやすみなさい」
ミカエルが爽やかな笑顔で挨拶をして後に続いた。
ボブとステイシーも深く頭を下げて退出していった。
そのままの流れでアレインたちも部屋へと戻っていった。
ベッドに横になり、ルーベルが話しかける。
「色々と話されてよくわからなかったけど、アレインが学校に通えるってことだよな」
「うん……」
アレインは空返事した。
アレインの頭の中は今日のことでいっぱいだった。良い知らせに悪い知らせ、この世界に来た原因とこの世界の歴史の一端、それらを踏まえて、彼自身どういう判断や決断をするべきか。頭の中を整理しながら、長い時間彼は考えた。
しばらくして、彼は考えが決まったのか、肩の力を抜いて軽く笑った。
その様子を隣のベッドで見ていたルーベルは何かを察したようだ。
「なぁ、アレイン」
「……なに?」
「明日、仕事が始まる前に秘密基地に来てくれないか?」
「いいけど、何するの?」
アレインは横に顔を向けてルーベルを見ようとするが、ルーベルは彼に背を向けてしまった。
「明日秘密基地のところで言うよ。絶対来いよな」
「うん」
不思議に思いながらも、考え過ぎて頭が疲れていたアレインはそのまま眠ってしまった。
翌日、アレインが目を覚ますとルーベルはすでに出ていた。
彼はルーベルが待ち合わせに指定した秘密基地に向かった。
ルーベルは、秘密基地周りの開けた場所で腕を組み、目の前に例の剣を突き刺したまま待っていた。
「来たか、アレイン」
「うん、来たけど、用っていったいなに?」
ルーベルは真剣な表情で剣を引き抜く。
「お前は頑固なところがあるからな、言うだけじゃダメだと思うんだ……だから!」
彼は剣を剣先をアレインに向けて大きな声で宣言した。
「アレイン、俺と決闘しろ!」
冗談じゃない本気の眼差しにアレインは言葉を失ってしまった。
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