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プロローグ

シリーズものです。よろしくお願いします。

  次に目を閉じるとき僕は死ぬだろう。

 ある日のいつもの病院で、何百何千回と見た白い天井を見ながら、僕はそう悟った。

 生まれたときから病に侵され、人生の大半は病院内で過ごしていた。僕は不治の病らしく、延命治療で17年生かされ続けた。医者は「これまで生きているのは奇跡」と気休めを言っていた。

 検査と手術、薬の服用で僕の体と精神は限界だった。少しずつ僕の体から「生」のエネルギーが消えていくのを感じていた。そんな状態がずっと続くものだから、もうすっかり生きることに疲れてしまった。

 それでもここ数日はそれが嘘のように元気になった。両親と長い時間話すこともできた。車椅子で外の日差しを少し浴びた。

 しかし、それこそが自分自身の死期を告げることだと僕は経験で知っていた。

 元気を取り戻した人間が、翌日には人間でなくなった。その様子を僕は見たことがあった。恐ろしい体験だった。僕も彼女と同じ死のルーレットの上に乗せられていることを強く感じた。そしてそのルーレットに今日僕は当たった。

 昨日まで元気だったのは、神様がくれた時間のおかげだと思った。神様が今まで僕を看病したり、治療に努めたりした家族や医者に感謝を述べるための猶予期間。そんな気がした。だからこそ僕は昨日までに両親たちに言葉を送った。感謝とお別れを。思い残すことがないように。

 

 僕の肉体は既に、重力にすら勝てなくなった。両腕両足の指先すらろくに動かない。

 ただ五感だけは妙にはっきり残っている。廊下からはスリッパの駆ける音。そばの心音図。窓側からは迎えに来たのか、カラスの鳴き声。リネンと毛布の感触。消毒液が混じった病院特有の臭いと不自然なほどに清潔にされた空気。そしてずっと変わることのない無機質な天井。

 ただただその様をその時が来るまで味わった。

 少ししてついにその時が来た。

 自然と瞼が落ちてくる。それに伴って五感も鈍くなってきた。眠るとは違う。電池が切れた時計のように僕の肉体は活動を止めた。


 目が完全に閉じる前、僕は走馬灯を見た。

 大半は病院での記憶だが、違う記憶があった。

 それは小学校五年生の頃の話だ。僕は自宅療養の許可を得た。日差しが照り付ける夏の日のことだった。

 自宅に初めて帰った。我が家の犬に初めて触れた。

 お菓子屋さんでお菓子を買い、少し食べた。おいしかった。

 川に家族でバーベキューをした。冷たい川に手をつけて涼しさを感じた。

 父親の車に乗って、遊園地へ行った。小さな観覧車に乗った。高いところからの景色に感動した。

 

 結果としては二ヵ月ほどしか自宅で過ごせなかった。それでも僕にとっては一番楽しい思い出だった。

 それと同時に、僕と同じぐらいの子どもたちはこんなことを当たり前のように享受できるんだな、と僕は悲しくなった。

 友達を作り、自分の足で、気になることを、何でも好きなように……。何不自由なさそうな姿を見て悔しかった。


 そんな走馬灯を見た僕はふと願った。


 次生まれ変わったら、病気なんかに負けない健康な体が欲しい。

 自分の足で好きなものを見聞きしたい。

 友達を作って楽しく遊びたい。時には恋愛なんかを経験してみたい。

 何にも縛られない、自由な人生を送りたい。

 僕の想像した楽しい生活をしてみたい。

 

 この世界で成せなかった青春を、僕は過ごしてみたい。 

彼の担当医がスーパードクターなら、物語は始まりませんでした。

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