まさかの結末
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
振り向くと、そこには皇帝が珍しいものを見るような顔をして立っていた。その後ろには瘴気の件でオーウェンに呼びつけられた様子のフィアとネオもいる。
「クロード、あれは何者だ?」
「聖女ですよ。瘴気の量が尋常じゃなかったので、聖女を召喚して浄化魔術で浄化してもらったんです」
「ほぉ、あれが聖女か」
興味深そうな様子の皇帝の声に、レリアは振り返った。
皇帝の佇まいを見て察したのか、恭しく一礼する。
「ディーヴェス帝国皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はレリア・ルーン・メルクリア、今は家を出ていますが、ウェスタニア王国メルクリア侯爵家の者です」
「そうか。急な召喚に応じ、瘴気を浄化してもらい礼を言う」
皇帝が僅かに微笑むと、レリアは一瞬言葉に詰まるような顔をした。
「……光栄にございます」
違和感を覚えつつも、誓約を交わしているのですぐに解放するよう促す。
「約束通り、礼をしよう。何を望む?」
「じゃあ、帝国通貨で金貨二十枚ください」
即答するレリア。
現金を要求するとは意外だが、浄化魔術の対価としては安過ぎるくらいだ。
と思ったら、皇帝が口を挟んできた。
「現金で良いのか? なら四十枚出そう」
「そんなに良いんですか?」
目を輝かせる聖女に、皇帝は面白いものを見るような目で笑った。
「侯爵令嬢とは思えないな。折角だ。城で食事もしていくと良い」
「あ、いえ、その……お誘いは光栄ですが、連れが心配していると思うので、私はこれで失礼します」
皇帝直々の食事の誘いを断ったことで、彼はますます楽しそうな顔をした。
「ははっ! ますます面白い! それならば連れとやらも呼んで……」
言い終える直前、強い魔力の塊が急激に接近してきた。
それを察知した皇帝と俺、フィアとネオが構える中、レリアが「あちゃー」と額を抑えるのを視界の隅で捉えた。
直後、魔力の塊が物凄い速さで中庭に降ってきた。
「レリア! 大丈夫か! 何かされなかったかっ? 怪我はっ?」
土埃の中から、淡い金髪に深紅の瞳の青年が飛び出してレリアに駆け寄る。
その顔を見て、俺は度肝を抜かれた。
「ジーク王子っ?」
姉妹ゲームの攻略対象である王子だ。
更に、次々と土埃の中から出てくる人物に絶句する。
「レリア! 無事で良かった!」
「レリア様! その麗しいお姿が見えなくなり私は息もできないかと思いました!」
「お嬢様、急にいなくなると統制が取れず大変ですので、今後安易に召喚に応じないでください」
「まぁまぁ、レリア嬢が無事で何よりじゃないですか」
金髪に翠の瞳の青年。
金髪碧眼の、モノクルを付けた少年。
褐色の髪に黄金の瞳の少女。
燃えるような赤い髪と翠の瞳の青年。
少女以外は知っている顔だ。
全員、姉妹ゲームの攻略対象、ルイス第二王子、王国の筆頭魔術師セイン、騎士団長のアーネスト。
「……おいおい、どうなってんだよ、悪役令嬢が聖女になっただけじゃなく、これじゃあ逆ハーじゃねぇか」
思わず呟いてしまった。
それを聞き取ったレリアがばっと振り返り、俺に掴みかかってきた。
「私が悪役令嬢だと知ってるってことは、貴方も転生者なのっ?」
小声で問い詰められ、頷く。
この一言で、彼女も俺と同じ転生者だということがわかった。
「レリア?」
ジークに名を呼ばれたレリアははっとして、ひとつ咳払いをした。
皇帝に向き直り、頭を下げる。
「皇帝陛下、突然私の連れが失礼いたしました。先程のお誘い、まだ有効でしたら、連れも含めてご相伴に預かってもよろしいでしょうか」
「ああ、もちろん。滞在の許可も出そう。好きなだけ城に留まると良い」
皇帝はよほどレリアを気に入ったらしい。
状況が呑み込めない様子のジーク王子たちは顔を見合わせている。
「食事の時に色々話を聞かせてもらおう」
そう言い残して、皇帝は踵を返した。
「じゃあ、それまでちょっとお話ししませんか? 賢者様」
レリアが貼り付けたような笑顔で俺を誘う。
喜んで受けたい所だが、後ろの野郎どもの視線が痛い。
「俺は構わないが……」
視線をレリアの背後に向けると、彼女は王子たちを一瞥し、何か言いたげな王子たちを無視して俺の腕を掴んだ。
「彼らは放っておいて大丈夫です。話を聞かれたくないので、二人きりでお話ししましょう?」
聞き方によってはとんでもない誘い文句だが、お互いが転生者であり、周りにそのことを知られていないとなると、第三者に聞かれないようにするのは当然の配慮だ。
俺は応接室に彼女を案内した。
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