聖女登場
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
翌日、フーガ王国とブルーバード公国の新当主をどうするか会議を開く準備をしていた俺の所に、キースが慌てた様子でやって来た。
「賢者様! 昨日陛下と筆頭魔術師様が討ち取った混沌竜が、瘴気を出しています!」
瘴気は、魔力の澱のようなもので、魔物が多く棲息するような魔力を孕んだ森でよく見られるものだ。
混沌竜のような強大な魔力を持った魔物の死骸から出て来ても不思議はない。
俺は急いで中庭に向かった。
瘴気は、少量であればさほど害はないが、大量に滞留しているところに長時間留まると死に至ることもある恐ろしいものだ。
俺が中庭に着いた時、帝国所属の魔術師たちが数人で結界を張り、混沌竜から出ている瘴気を結界内に留めていた。
「賢者様! いかがしましょう……我々の魔術ではこれほどの瘴気は対処できません」
魔術師一人が困惑した様子で尋ねてくる。
半球状の結界内は、ドス黒いモヤで覆われてしまっている。
彼らの魔力では、結界を保つのも数日が限界だろう。
少量の瘴気なら風で飛ばしてしまえば済むが、この量だと城中に蔓延してしまうだろう。死者も出かねない。
これほど濃密な瘴気を消し去るには、もう浄化魔術しかない。
しかし、浄化魔術を扱えるのは聖女ただ一人。
こっちのゲームでは登場せず、姉妹ゲームにのみ登場するキャラクターだ。
しかし、それもシナリオが狂って、本来聖女になるはずだった姉妹ゲームの主人公ではなく、悪役令嬢であるはずのキャラクターが聖女として覚醒したと風が教えてくれた。
「……聖女を召喚するか」
俺は呟くと、右手を突き出した。
皇帝に俺が魔術師だと知られてしまっていた以上、隠す必要はもうない。
聖女は強い魔力を有しているはずなので召喚に応じてもらえるかはわからないが、やってみる価値はある。
「召喚魔術! レリア・ルーン・メルクリア!」
刹那、光が集まり、人の形になって弾けた。
俺の目の前に現れた銀髪に紫の瞳の美少女は、驚いた顔で目を瞬いている。
「……え? 何ここ、どこ?」
「レリア・ルーン・メルクリアだな?」
「……貴方は?」
当然ながら警戒心剥き出しで尋ねる彼女に、俺は淡々と答える。
「ディーヴェス帝国の賢者、クロード・エイト・ロックだ。ここは帝国首都アージャーの中心、パラティアム城だ」
「帝国の賢者っ? 何でまた……」
言いかけたところで、結界に覆われた瘴気まみれの混沌竜の死骸を目に留めてぎょっとする。
「混沌竜! 何でこんな所に……こないだのより大きいし」
「こないだの? お前、アヴェンタドールに襲来した混沌竜を見たのか?」
「ええ。ちょっと色々ありまして……」
遠い目をしながら頷くレリア。
何だろうか、この違和感。
悪役令嬢であるはずなのに、そんな毒気がまるでない。
寧ろ、何というか妙な親近感が湧く雰囲気がある。
「お前が聖女として覚醒したという情報を得て召喚した。あれを浄化してもらいたい」
「え? 私が聖女? ナンノコトデショウ?」
ぎくっと肩を震わせ、目は泳ぎまくっている。
嘘が下手過ぎる。
「俺の情報網は確実だ。隠しても無駄だぞ。ああ、心配しなくても、あれを浄化さえしてくれたらすぐ解放するし、礼もする」
「へっ? 皇帝の花嫁になれとか言わないのですか?」
「確かに聖女であれば皇帝の花嫁に申し分ないが……皇帝陛下はもう花嫁を選ばれたからな」
俺がそう言うと、彼女は目に見えてほっと息を吐いた。
と、今までの流れを唖然として見ていたキースがここで口を開いた。
「賢者様! 魔術が使えたのですかっ? 何故隠されていたのです? いや、聖女を召喚したなど一大事……と言うか、皇帝陛下の花嫁が決まったって本当なんですかっ?」
完全にパニックになっている。無理もない。
だが、申し訳ないが今全てを説明してやる余裕はない。
「悪いが、説明は後だ」
キースにそう言い置いて、レリアを見る。
「やってくれるか?」
「念のため誓約を交わしていただけますか? 浄化さえすればすぐに解放すると」
「良いだろう。レリア・ルーン・メルクリア、お前と誓約を交わす。混沌竜の瘴気さえ浄化すれば、礼をし、解放すると……そしてお前も誓え、混沌竜の瘴気を責任を持って浄化すると」
「ええ、誓います」
「誓約成立。誓約魔術」
俺の体に、レリアの魔力が少量流れ込んできた。
清浄清廉で、強い魔力だ。
誓約魔術が完了するや、レリアは結界に近寄り、右手を突き出して結界に触れた。
「浄化魔術!」
唱えた瞬間、混沌竜が放っていた瘴気が一瞬にして消え去った。
「……お見事」
俺が感心していると、背後から肩を掴まれた。
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