表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

ブルーバード公国の公女

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 皇帝が刺される、間に合わない。

 そう思った。


 しかし。


 かきん、と軽い音がした。

 瞬きひとつの間に、ネオが皇帝と影の間に滑り込んで、双剣のうちの一振りで光るものを受け止めていた。


 それーーーーー黒い外套を纏い、短剣を突き出していたソフィは、ぎろりとネオを睨みつける。


「邪魔をするなっ!」


 もう一度剣を振りかぶるが、魔剣士であるネオに公女であるソフィが敵うはずもない。

 呆気なく短剣を弾き飛ばされ、後ろ手に掴み上げられてしまう。


 その様子を見ていた皇帝は、小さく鼻を鳴らした。


「……真犯人自ら出て来てくれるとは、親切な奴だな」


 その表情に、彼はソフィの存在に気付いていて泳がせていたのではないかと悟る。


「黙れ! お前を殺しブルーバード家が帝国を支配するんだ!」


 ソフィは殺意に満ちた目を皇帝に向ける。


「お前ごときにこの俺が殺せる訳ないだろ」


 心底呆れた風情で溜め息を吐き、皇帝は指をパチンと鳴らした。


 刹那、ソフィが意識を失ってかくんと項垂れる。


 これは皇帝が弱い相手に使う小技だ。

 指を弾いた音に魔力を乗せ、相手に一瞬魔力の圧を掛けることで失神させるのだ。

 魔術師やある程度の魔力を持っている者には通用しないが、一般の兵士レベルなら数十人を一発で無力化できる恐ろしい技でもある。

 ちなみに、皇帝が本気で魔力を解放すれば、もっと大人数を失神させることが可能だ。


 と、彼女の首に怪しげなペンダントが掛かっていることに気が付いた。

 深紅の宝石が鈍く光るそれには、魔力が込められている。


「……魔力を増大させる真具だな。これで魔力を底上げして、マルクを脱獄させたか」


 ソフィは魔術師ではないが魔具の扱いに長けていると聞いたことがある。


 脱獄の抜け道、魔術により空間を繋げ、対象者を別の場所に移す、というものだが、複雑な結界が張られている城パラティアム城内の牢屋に空間を繋げることは至難の業だ。

 だが、魔具で魔力を増大させ、安定して転移魔術を使うことができる魔具を()()()()()()()()()()使用すれば不可能ではない。

 牢屋の正確な位置の把握と、座標となる脱獄させる者に強い魔力があること、ということが絶対条件となるが、後者は問題なく、前者は皇帝の花嫁候補として面談のために登城した際に調べていたのだろう。


 俺はソフィに念のため魔力封じの魔術を掛けた上で拘束魔術を掛け、皇帝にそっと耳打ちした。


「……皇帝陛下、仮にも花嫁候補だった女ですが、怖くはないのですか?」


 すると、皇帝はふっと、謎に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「もう、女が怖いフリをする必要はなくなったからな」

「……え?」


 女が怖いフリ? あの怯え切った態度は演技だったというのか。


「ど、どういう訳か、ご説明いただけますか」


 訳がわからず尋ねると、皇帝はけろりと肩を竦める。


「どうもこうも、花嫁選びが面倒で、女が怖いフリをしてたんだよ。『好みじゃない』ってだけだと、条件や後ろ盾だけで強制的に決められかねないが、『怖い』となると跡継ぎ問題にも関わるから、勝手には決められないだろう?」


 嘘だろ。あの怯えた様子が全部演技だったなんて、どんな役者魂だよ。

 俺の気苦労を返せ!


 皇帝に向かって怒鳴りつけたくなる気持ちをなんとか堪える。


「まぁ、実際に、『権力に固執する女』には畏怖に近い感情があるから、強ち嘘でもないんだがな」


 皇帝の呟きに、隠居しながらも確かな影響力を持つ皇太后の姿が脳裏を過った。


「……だが、俺の花嫁は決まった。もう芝居はいらない」

「ええっ! 花嫁をお決めになったんですかっ? 誰に……」


 俺が尋ね終えるより早く、皇帝はネオの腰を抱き寄せた。


「ネオ・マスタング。コイツが俺の花嫁だ」

「……はぁぁぁっ?」


 驚きのあまり大きな声が出てしまった。


 ゲームの攻略対象ではないネオを選ぶとは予想外だ。


 だが、思い起こせば、風が示した『皇帝の花嫁に相応しい女性の所在』の場所に、ネオは二回とも現れている。


 風は嘘をつかない。


「ネオ! いつの間にそんな話になってんだよ! 聞いてねぇぞ!」


 フィアも初耳のようで驚いている。


 ネオは力一杯皇帝の腕を押し退けて逃れると、苦虫を何百匹と噛み潰したような顔をして額を抑えた。


「私だってまだ受け入れた訳じゃないわ」

()()ってことは、プロポーズはされてたんだな」


 いつの間にそんな関係になっていたのか。

 あれか、フィアが混沌竜カオスドラゴンとアヴェンタドール国王を持ち帰った後姿が見えなくなった時か。


「今口説いている真っ最中だ。だが、ノーと言わせるつもりもない」


 自信満々な皇帝。

 まぁ、皇帝程の美貌と強さと金と権力があれば、大体の女は簡単に口説き落とせるだろう。

 ネオが落ちる様は想像つかないが、声を大にして否定しない辺り、意外と満更でもないのかもしれない。


「……さて、キースを呼べ。すぐにコイツらの取り調べをさせろ」


 気を取り直した皇帝は、転がっているマルクとソフィを指す。


 一夜にしてフーガ王国王家と、ブルーバード公国の公爵家が権力を失った。

 これで帝国内は暫く騒がしくなるだろう。


 それに、ウェスタニアのベルフェール公爵の人身売買疑惑もまだ片付いていないし、アヴェンタドールに混沌竜カオスドラゴンが襲来した原因もまだわかっていない。


 皇帝の花嫁候補が決まっただけ良しとするか。


 とりあえず、バッドエンドだけは回避できたということで良いだろう。


 俺は心の底から安堵の息を吐くのだった。

もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援頂けると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ