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黒幕と脱獄者

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 倒れたジェンキンスを見て、皇帝は眉を顰める。


「何だ? 俺の魔力にあてられたか?」


 皇帝の言葉に、フィアが目を眇めた。


「いや……変な魔力を一瞬感じた」

「何者かが、ジェンキンスの意識を遮断させたということか?」


 俺が問うとフィアは小さく頷く。


「そう考えるのが妥当だろうな」

「まだ他に、黒幕がいるということか」


 皇帝が忌々しそうに舌打ちをする。


「……ちょっと、調べてきます」


 俺はそれだけ言って、他の者の返事を待たずに身を翻した。


 急いで自室に戻り、テラスに出る。


風読魔術ヴァントスレジェーレ!」


 情報が錯綜したり行き詰った時は、風の情報を得るに限る。


「……ジェンキンスが、エランを唆したのは間違いなさそうだな。狙いも、ネオの読み通りか……」


 そこまでは良い。

 問題はその先だ。


「……狙いは、皇帝の暗殺、新皇帝に成り代わること、か……」


 そこも予想通り。

 小国の当主が、大き過ぎる夢を見ちまったか。


「……他に関わっているのは……マルクとエリーゼと、ソフィか……」


 マルクとエリーゼなら先程投獄した。

 ソフィは昨日の面談で会って、まだ自宅へは帰っていないはずだ。

 ブルーバード公国のオースターへは、馬車で一週間はかかる。花嫁候補五人のうち最も実家が遠いため、数日間滞在して帰ると聞いていた。


 ちなみに、フーガ王国の首都へは馬車で半日もあれば到着する。そのため昨日の面談の後、俺に腹を立てたエリーゼはすぐに帰宅したらしい。


 と、風の中に欲しい情報を視た。


「……黒幕は……ソフィ、だと……?」


 それは流石に予想外だ。

 脳裏に浮かぶのは、無表情でこちらを見返す銀髪に青い瞳の美少女。


 魔力はあるがさほど強くもない、魔術さえ使えないはず。

 それなのに、今回の事件の黒幕だというのか。


 俄かには信じられないが、風の持っている情報は全て真実だ。 


 彼女がどういうつもりで今回の件を仕込んだのか、それを調べようとしたところで集中力が限界を迎えて風が途切れた。


「……これ、いきなり報告したところで証拠がなければ誰にも信じてもらえないよな」


 仮説として話をしようにも、肝心の動機が不明瞭だ。


「……となると、ソフィを捕まえてカマをかけてみるのが得策か」


 父親が逮捕されたのだから、事情聴取として城に呼ぶことは自然なことだ。


 俺は騎士団にソフィを城へ連れてくるよう命じるため、部屋を出た。


 廊下を歩いていると、ちょうど向かいからオーウェンが歩いてきたので呼び止める。


 ジェンキンスが捕まったことを話し、ソフィも連行するように伝えると、オーウェンは驚きつつも了承した。

 

 そこへ、血相変えた兵士が駆けてきた。


「けっ! 賢者様! オーウェン副団長! マ、マルクが消えました!」

「何だとっ?」


 俺とオーウェンの声が揃う。

 兵士は息を切らせつつ、報告した。


「た、確かに魔力封じの手枷をつけた上で牢屋に入れたのですが、先程見たら牢から消えており……」

「牢の鍵は?」

「掛かっていました」


 だとすると、何者かが外部からマルクを脱獄させか。


 城の牢屋は封印魔術が施されており、魔術では破れないようになっている。

 魔力を封じる手枷を付けられて投獄されたら、魔術師が脱出するのは不可能だ。

 しかし、別の魔術師が外から脱獄させる方法が、あるにはある。

 

 その方法を知る者がほぼいないことと、知っていたとしてもかなり熟練の魔術師でなければできないこと、できたとしてもリスクが高いこともあり、改善されてこなかった抜け道だ。


 それを成したのだとしたら、一刻も早くその犯人を捕らえなければ。


「オーウェン、ソフィの拘束を急げ。現状で一番怪しいのは彼女だ」

「承知しました」


 オーウェンはすぐに頷いて踵を返した。


 俺は玉座の間へ向かう。


 皇帝とフィアとネオは先程と変わらず、何やら議論していた。

 ジェンキンスはまだ気を失っており、拘束された状態で床に転がされている。


 ソフィを事情聴取のため拘束するようオーウェンに言いつけた矢先、マルクが脱獄したという報告を受けたと話すと、ネオが眉を寄せた。


「脱獄? 魔力封じの手枷を付けていたんでしょう?」

「城の牢屋には弱点があるんだよ。弱点と言っても、普通の人間では絶対に脱出できないし、魔術師だとしてもリスクが高くて今まで脱獄できた者はいないから、あまり問題視されてこなかったんだが……」

「そこを突かれたとなると、犯人は相当な手練れの魔術師だな」


 皇帝が重々しく頷いた、その時だった。


 凄まじい咆哮と共に、城の結界に強大な魔力の塊がぶつかった。

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