反乱分子
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
俺とフィアの報告を聞いた皇帝は、僅かに目を眇めた。
「……ジェンキンス、か……ブルーバードがわざわざフーガと共謀する理由は何だ?」
フーガ王国は帝都から見て北西、ブルーバード公国は南にあり、両国の距離は馬車で二十日は掛かる程に遠い。
魔術や魔具を使えば連絡自体は容易く取れるが、他に近い国がある中でわざわざ遠い国と共謀するなら何かしら合理的な理由があるはずだ。
と、不意にネオが口を挟んだ。
「国王はともかく、あの王女はかなりバカのようだったから、そこから取り入って利用するつもりだったんじゃない? 帝都襲撃に北西の森に棲む魔狼を使えば、襲撃に失敗しても立地的に近いフーガに罪を被せやすくなるし」
なるほど、それは確かに一理ある。
「ほう? ならば、そもそもブルーバードの目的はなんだと思う?」
皇帝はネオの話に興味を持った様子で更に問う。
「さぁ。帝国内の小国が企むことなんて、下剋上くらいじゃないかしら。帝都を攻め、混乱に乗じて皇帝を暗殺するつもりだったんじゃない?」
まぁ、そう考えるのが妥当だろう。
だが、実際には魔狼の群れは帝都に辿り着く前にフィアに一掃されてしまった。
「今頃、計画が台無しになって焦っているんじゃないかしら」
「……なら、叩くとすれば今だな」
皇帝は小さく頷き、何か思案するように顎に手を添えた。
っていうか、今のやり取り、俺よりネオの方が賢者っぽくないか?
今の状況がゲームのシナリオにはないもの故に、俺が賢者として役に立たないのは仕方ないが、ネオが役に立ちすぎる。
これでは、いずれ賢者の座を奪われかねない。
俺が僅かな焦燥に駆られているのをよそに、皇帝は立ち上がり、右手を掲げた。
「召喚魔術! ジェンキンス・ラー・ブルーバード!」
刹那、皇帝の前で光が集約し、弾けたと思ったら、驚きに満ちた顔の男が立っていた。
銀髪に深い青の瞳の男こそ、ブルーバード公国の当主であるジェンキンス・ラー・ブルーバードだ。
「こっ! 皇帝陛下! ご機嫌麗しゅう存じます!」
突然皇帝の前に引き摺り出されたジェンキンスは、慌てた様子で跪いたが、明らかに動揺し、怯えている。
「ジェンキンス、何故喚ばれたかわかるか?」
静かに、しかし強く当皇帝の声が重々しく響いた。
ジェンキンスは皇帝を見上げて、ぐっと息を呑む。
「さ、さぁ……私には、さっぱり……」
「マルク・ウィングロードという名前に聞き覚えは?」
「ありません」
考える様子もなく即答したことがかえって怪しい。
「そうか。だが、エランがお前に唆され、魔狼を操り帝都を襲撃させる手助けをしてしまったと自白したぞ」
皇帝は真っ直ぐにジェンキンスを見た。
エランとはフーガ国王の名前だ。エリーゼの父である。
もちろん、エランはまだ何も喋っていない。ずっと黙秘を貫いている。
皇帝のカマかけに、ジェンキンスは明らかに狼狽した。
「……っ、エランめ裏切ったか……」
「ジェンキンス、お前に選ばせてやろう。誰に拷問されたいか」
皇帝は冷たく言い放ち、ジェンキンスの周りに立つ俺達を一瞥した。
「選べ、俺か、賢者クロードか、筆頭魔術師フィアか、その補佐ネオか」
皇帝がネオを候補に入れたことは意外だが、彼女の魔剣士としての腕と冷静な性格考えるとある意味一番適任かもしれない。
ジェンキンスは俺達に視線を向け、フィアとネオを見た瞬間にぎょっとした。
「こ! 皇帝陛下! こ、こやつは盗賊ではありませんか! 筆頭魔術師とは一体どういう……」
「それは今関係ない。そもそも、俺は貴様に自由に発言する権利は与えていないぞ」
しん、と重い沈黙が降りる。
「さぁ、誰に拷問されたい?」
皇帝の手元に、光が集まる。
バチバチと爆ぜるそれは、攻撃魔術としても使われる電気の球だ。
扱いが難しい攻撃系の魔術を、無詠唱で成立させる皇帝の魔術スキルの高さを思い知る。
掌サイズでも、あれが当たったら相当痛いだろう。
「まぁ、誰を選んでも、洗い浚い吐くまで四肢が一つずつもげていくのは変わらんがな」
無表情で残酷に告げる皇帝に、ジェンキンスは青褪め、がたがたと震え始めた。
「……ん?」
様子がおかしい。
ただ怯えているだけじゃない。
訝しんだ俺が一歩足を踏み出した瞬間、ジェンキンスは白目を剥いてその場に倒れ込んだ。
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