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ネオの勘

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 城へ戻ってすぐ、不機嫌そうな顔のネオに捕まった。


 一連の経緯を話すと、彼女は額を抑えて深々と溜め息を吐いた。


「……大丈夫かしら」


 彼女は、何を心配しているのだろう。


「アイツが負けることはないだろ」

「その心配はしてないわ。私は、アヴェンタドールの二の舞になることを懸念しているの」

「アヴェンタドールの二の舞? 帝都の北西はもう大陸の端まで帝国の支配領域だ。二の舞にはならないだろう」


 正確には、大陸の中央のやや北に位置する帝都に対して、東北東から南南西までは、端までがっつり帝国の支配下にある。


 つまり、新たに別の国を侵略してしまう心配はないということだ。


「侵略どうこうの話ではなくて、国王レベルの人間がフィアにやられるってことよ」

「国王レベル?」


 ネオの言わんとすることが理解できず首を捻ると、彼女は焦れたように言葉を足した。


「賢者のくせに察しが悪いわね。魔狼単体ならともかく、群れを操って帝都に向けて放つような真似ができる人間なんて限られるでしょう? それこそ、帝国内であれば各国トップレベルの魔術師でないと不可能よ」


 そこまで言われて、ようやくはっとした。


 確かに、魔狼の群れを操ることができる魔術師なんて、帝国所属の魔術師を除けば一握り、各国に一人か二人程度だろう。


 魔力は遺伝することが多く、長い歴史の中で国王や国王の側近の家系に集約されてきた。

 つまり、帝国内外の国の王族は大なり小なり魔力を有していて、国王ともなるとそれなりに強い魔術師であることが多いのだ。


「……帝国に属する国の王族が、帝都を狙ったと?」

「その可能性が一番高いでしょうね。勿論、帝国外の国の魔術師である可能性もゼロではないけど、もしそうだとしたら、北西の森に棲む魔狼を操って帝都を襲わせるのは不自然だから」


 確かに、帝国外の魔術師が、わざわざ帝国の支配領域内を移動して北西の森まで行って、魔狼を操るのは手間がかかる上に本人のリスクが高い。


 とはいえ、帝国に属する国の王族が、皇帝の住まう帝都を魔獣に襲わせたとなると、当然だが大問題だ。


 ちなみに、帝都の北西にある国は、高飛車傲慢キャラになったエリーゼの国であるフーガ王国だ。


 フーガは帝国が最初に支配領域に加えた国で、戦争による侵略ではなく、話し合いの末、自ら支配下に降ったという経緯がある。


 フーガ国王には俺も会ったことがある。

 エリーゼと同じ金髪碧眼の、いかにも国王といった風情の壮年の男だった。

 国民のことをしっかりと考えている名君と謳われ、自身はかなり有能な魔術師である。


 彼ならば魔狼を操ることくらい造作もないだろうが、魔狼を操っていたとみられる魔力の残滓は、彼のものではなかった。


 だとすると、他に考えられるのは、彼以外の魔術師が、わざわざ北西の方角から魔狼の群れを操ったということか。


 各国の国王には面識があり魔力も識別できるが、王族まで範囲を広げてしまうと、流石に面識のない者が多く、魔力だけでは誰のものか判断できない。


「……そもそも、魔狼を操っていたとみられる、あの微かな魔力がブラフだったっていう可能性も……」

「もしそうだったとしても、フィアなら隠れている真犯人を見つけ出すでしょうね」


 俺の仮説を一瞬でぶち破り、ネオは嘆息する。


「……あくまでも私の勘だけど、フィアがとんでもない厄介ごとを持ち帰ってくる気がするのよね」

「とんでもない厄介ごと?」


 ネオの勘、というワードで思い出した。

 前世の俺が作った、ゲーム中では特に言及されないがファンブックに載っている、裏設定。


 ネオは勘が鋭く、直感が大体当たるのだ。


「……あくまでも勘の話よ」


 それが無視できるレベルのものなら、どれだけ良かったか。


 魔狼襲撃事件の黒幕について、風を読んで調べてみようかと思った直後、凄まじい魔力の波動を感じ取った。


「フィア?」


 姿が見えなくてもわかる、このどでかい魔力の塊は、間違いなく彼女のものだ。


 俺とネオは顔を見合わせ、ほぼ同時に駆け出した。

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