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帝都に迫る危機

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 使用人に頼んで部屋に運んでもらった軽食を食べ終えた頃、凄まじい勢いで走って来た何者かが、激しく部屋の扉を叩いた。


 扉を開けると、一人の兵士が青褪めた顔で叫ぶ。


「クロード様! 大変です! 魔獣の大群が帝都に迫ってきています!」

「何だとっ?」


 この帝都には、先代筆頭魔術師が掛けた、対魔獣用の結界がある。

 しかし、先代筆頭魔術師は引退して久しく、かなり古い結界だ。

 大群が押し寄せているとなると、どこまで機能するかわからない。


「すぐ皇帝陛下に報告、それと筆頭魔術師にも伝えろ!」

「そ、それが……」


 口籠る兵士に先を促すと、言い辛そうにしながらも口を開いた。


「筆頭魔術師のフィア様は、ここへ来る途中にすれ違ったのですが、魔獣の接近を察知していらっしゃって、ちょっと退治してくる、と仰ってました……」


 俺は思わず額を押さえた。


 俺がまだ察知できない程遠くにいる魔獣の大群を、アイツは察知したというのか。

 帝都に影響が出ない範囲で被害者を出すことなく退治だけしてくれるならそれで良いが、そうならない可能性も充分あり得る。


「……俺も現場へ向かう。皇帝陛下に報告時、皇帝陛下が面白がって現場へ出向こうとしたら、キースとオーウェンを呼んで全力で止めろ」


 それだけ言い、俺は城を駆け出した。


 人目に付かないところに入って、遮蔽魔術を掛けた上で飛翔魔術を唱える。

 上空へ舞い上がると、帝都の北西に広がる荒野の向こうから黒い群れが見えた。


「……魔狼か」


 舌打ちする。


 魔狼は、普段は北西の森に棲み、人里には滅多に現れない魔物だ。

 知能が高く、一体一体がそこそこ強い上に、群れで行動して連携を取って襲ってくるため、一網打尽にするにはこちらも知恵を絞らなければならない。

 下手をすれば、熟練の魔術師でも、闘いの最中さなかに気配を消した一匹に背後から襲われる、ということが起こり得る。

 フィアの戦闘能力は非常に高いから大丈夫だとは思うが、油断すると不意を衝かれかねない。

 それと、戦闘に夢中になるあまり、帝都に影響を及ぼさないかが心配だ。


 帝都からはまだ距離があるが、奴らの足ならあと一時間もすれば到達するだろう。

 ざっと見て、数は百を超える。結界を破るには充分だ。


 魔狼の群れに向かって飛びながら、フィアを探す。


 赤髪の魔術師は、魔狼の群れの前に立ちはだかるように滞空していた。


「いた……!」


 急いで向かうが、俺が彼女のところに辿り着く直前、フィアが両手を振り翳し叫んだ。


攻撃魔術サルベ! 太陽ソリス!」


 刹那、灼熱を帯びた魔力の塊が彼女の手から放たれた。

 文字通り太陽のようなそれは、ひゅん、とレーザー光線のような速さで魔狼の群れの先頭に直撃し、凄まじい轟音を上げて爆発した。


 その光景に、前世で観た有名映画で巨大な人型兵器が、これまた巨大な蟲の群れを一瞬で焼き払うシーンが重なる。


「……マジかよ」


 煙が風で薄れると、魔狼は跡形もなく消え去っていた。

 魔狼の群れがフィアを視認するより早く、一掃してしまった。

 確かに、それならば一網打尽も可能だ。


 まさかフィアが、これほど強力な遠距離攻撃魔術を有しているとは思わなかった。


 っていうかこれ、一歩間違えば帝都だってただじゃ済まないだろ。

 今回はまだ帝都から離れていたから、影響はなく済んだようだが。


「……お前、マジで規格外だな……」


 半ば呆れつつ声を掛けると、妙にツヤツヤした顔でフィアが振り返る。


「あー、すっきりした! でも、魔狼如きじゃ手応えねぇな」

「魔狼は魔術師が闘いたくないランキングのトップスリーには入るようなレベルの魔物

だがな」


 ちなみに、ぶっちぎりの一位はドラゴンだ。


 そういえば、ドラゴンの中でも手強いことで有名な混沌竜カオスドラゴンを、コイツは難なく退治してきたんだった。


「で、ケンジャは何しに来たんだ? 魔狼ならアタシがもうぶっ飛ばしたぞ?」

「お前がやりすぎて帝都を破壊しないかが心配で、わざわざ見に来たんだよ」

「何だよそれ。いくらアタシでも、町は破壊しないぞ」


 不愉快そうに眉を顰め、フィアは嘆息する。


「その点について、お前はイマイチ信用ならん」


 言いつつ、魔狼の群れがいた辺りに視線を移す。

 直径百メートルくらいの範囲はあるだろうか。真っ黒コゲで草一本残っていない。


「……ん?」


 僅かな気配を感じ取り、目を眇める。


 魔狼ではない、何者かの気配。これは魔力だ。

 俺のものでも、俺が今まで出会った魔術師の誰のものでもない。


「……誰かが魔狼を操っていたようだな」


 呟くと、それを聞き取ったフィアは、遠くを見晴るかすように眉の辺りに手を翳して、目を凝らすように目を細めた。


「だろうな。魔狼がこんな風に大群で大きな町を襲うなんて、普通ならありえねぇ……調べるか?」


 思いもよらぬ発言に驚く俺をよそに、フィアはくいと親指を北西に向けた。


「この魔力を辿れば、魔狼を操って帝都を襲わせようとした奴がわかる。ぶっ飛ばして良いなら、アタシが行ってくるぞ?」

「ぶっ飛ばすな。確保して城に連れてこい」

「アタシが行くのは良いのか?」

「この魔力の主を容易に探し出せるのは俺かお前しかいないだろう。だが俺は別件で忙しい。つまり、お前しかいない」


 嘆息してそう答えると、フィアはふっと微笑んだ。


「よし、んじゃあとっ捕まえて来てやるよ!」

「ちょっと待て! そういえば、ネオはどうした? 一緒じゃないのか?」


 いつも一緒にいると思っていた銀髪の美女。今、その姿は見えない。


「アタシ達だって四六時中一緒にいる訳じゃねぇよ。アタシは魔獣の気配で飛び起きたけど、ネオはまだ寝てたから魔獣退治なんかで起こしたら可哀想だろ? 今からネオを呼びに城へ戻ったら魔力が薄れて辿れなくなるかもしれねぇし、一人で行ってくる」


 てっきりいつも行動を共にしていると思っていた俺は少しばかり驚く。


 理性的なネオが一緒にいてくれれば、少しは安心できるのだが、魔力が薄れて辿れなくなるという懸念は尤もだ。


「くれぐれも、やり過ぎるなよ。もしも何かあったら、すぐ呼べ。このカフスで、お互いの居場所はすぐわかる」

「へいへい。んじゃ、ちょっくら行ってくる」


 気の抜けるような緩い返事をして、彼女は北西の空へ飛んでいった。

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