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急報

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 自室に入った後、一休みするつもりでソファに横になったら、いつの間にかぐっすり眠りかけてしまった。


 気が付いた時には部屋は真っ暗で、窓の外がぼんやり明るくなっており、夜明け間近なのだと悟る。


 その時、部屋の外から慌ただしい足音が響き、やや乱暴に部屋の扉がノックされた。


「クロード様! 早朝に失礼します! カイル殿から通信があり、急用とのことです! 至急、通信室までお願いします!」


 オーウェンの声だ。

 俺はすぐに応じ、通信用の魔具が設置されている部屋に急いだ。


 小さな部屋の中央にはテーブルがあり、その上に拳大の水晶玉が嵌め込まれた羅針盤が置かれている。これが通信用の魔具だ。

 水晶は淡い光が点滅している。これが、相手からの通信要請の合図だ。

 手を翳して魔力を流し込むと、水晶から光が出て、空中にカイルの顔が映し出される。


『クロード様。朝早く申し訳ございません』

「いや、お前が急ぎだと判断したなら良い。何があった?」

『ええ、かなりきな臭くなってきました』


 深刻な表情で告げる彼に、その先を促す。


『ベルフェール公爵の長女が、ウェスタニア王妃を呪った罪で逮捕されたらしいのです』

「公爵の長女が?」


 思わず眉を顰める。


 ウェスタニア王国はこのゲームの姉妹ゲームである恋愛シミュレーションゲームの舞台であり、ベルフェール公爵の長女は、主人公であるヒロインの手助けをしてくれるキャラクターとしてゲームに登場する。


 公爵の長女が正妃を呪う理由がない。


 ある可能性に気がついて、「いや」と呟く。


「…… 確か、ベルフェール公爵の長女は第二王子の婚約者候補で、第二王子の母親である第二王妃がベルフェール公爵家の出だったな」


 賢者たる者、周辺諸国の王族の家系図は網羅している。


 ただでさえ、ゲームのシナリオや設定、キャラクターの性格が異なっているのだ。

 前世でのゲームの設定やシナリオは置いておいて、今の状況から考察してみるのが賢明だろう。


 彼女が第二王子の婚約者候補、第二王妃がベルフェール公爵家の出身ということを考慮すると、正妃を亡き者にして、第二王妃を正妃に繰り上げさせ、第二王子と正妃の息子である第一王子を同格にさせる狙い、と考えるのが妥当か。

 そうなれば、最終的にベルフェール公爵家の格が、他の公爵家より頭一つ抜けることになる。


 ちょっと待て。

 公爵の長女が逮捕されるなど、当然だがゲームのシナリオにはない。

 ヒロインが第一王子または第二王子のどちらかと結ばれるメインストーリーの進行上で、公爵長女はかなり重要なポジションだが、ヒロインは大丈夫なんだろうか。


 この世界でまだ出会ったことのないヒロインの心配をしても仕方ないが、姉妹ゲームのシナリオも狂っているとなると、その皺寄せがこちらにも来そうな気がしてしまう。


『ああ、あともう一点、事件とは関係ないとことですが、ウェスタニア第一王子の婚約者候補がレリア・ルーン・メルクリア侯爵令嬢に決まったそうです』

「は?」


 思わず間の抜けた声を出してしまった。


 レリア・ルーン・メルクリアといえば、姉妹ゲームの悪役令嬢だ。

 どのルートのシナリオでも、第一王子の婚約者候補になることはない。そもそも、ゲーム開始時点で五人いる第二王子の婚約者候補の一人だったはず。


「第二王子の間違いじゃないのか?」

『俺もそう思ったんですが、舞踏会で第一王子がレリア嬢を気に入って、第二王子の婚約者候補から自分の婚約者候補に変更させたようです』

「……シルヴィ・ブランシュ伯爵令嬢の間違いではないんだな?」


 シルヴィは姉妹ゲームのヒロインの名前だ。

 念のために問うと、カイルは怪訝そうにしながら首を横に張る。


『ええ、確かにレリア・ルーン・メルクリア侯爵令嬢だと聞きました』

「……そうか」


 どうやら、姉妹ゲームの方でもシナリオがかなり狂ってきているようだ。

 それがこちらのエンディングに影響しなければ良いのだが。


 後で、ウェスタニア国内の現状について、風を読んでみるか。

 

 だが、いくら万物を知る風と言えど、この世界が、俺の前世で作られていたゲームの世界だということは認識していない。

 そして、風は未来まではわからない。


 これほどゲームのシナリオから逸脱してきてしまっている以上、風を読んだとしても、俺のバッドエンド回避に関して有益な情報が得られるとは限らない。


『引き続き調査を続けますが、ベルフェール公爵失脚の件でウェスタニア国内もかなりバタついていますので、時間が掛かるかと思われます』

「ああ、わかった。引き続き頼むぞ」

『承知しております』


 通信を終え、俺は足早に自室へ戻った。

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