混沌竜と筆頭魔術師
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
五十歳前後と思われる中年男性。褐色の肌に金髪、纏っている服は帝国内では見ないデザインのものだが、細かな装飾が施されていて高位の人間であることがわかる。
しかし問題はその人物の服装ではない。
「アヴェンタドール国王っ?」
今の人生での賢者としての俺は、アヴェンタドール国王とは面識がないが、彼はゲーム中に登場するため、前世の記憶には彼の顔がしっかりと刻まれている。
間違いなくコイツは、アヴェンタドール王国の現国王、あのメリッサの父親だ。
「何がどうしてこうなったんだよ!」
「ああ? コイツがよくわかんねぇことをうだうだ言いやがって、挙句の果てにはアタシを馬鹿にしてきたから黙らせてやったんだ」
憤慨している様子のフィアに、ネオが溜め息交じりに捕捉してくれる。
「国王の話を要約すると、アヴェンタドールは決して他国と外交しない。助けたければ勝手にやれ。だが見返りを求めるな。混沌竜を倒したければ国外に連れ出してからやれ、とのことだったわ。それで、どうせお前のような小娘では混沌竜の餌になって終わりだろうが……って言ったところでフィアがブチギレて魔力を全開放したものだから、失神したのよ」
おいおいおい、何してくれてんだよ筆頭魔術師!
国王を失神させただけじゃなく、混沌竜をぶっ倒して、死骸と一緒に持って帰って来るなんて、どうすんだこの状況!
二の句が継げないでいると、そこへキースを伴った皇帝が登場した。
皇帝は静かな瞳で中庭を見渡し、最後に転がったアヴェンタドール国王に視線を留め、高らかに笑い出した。
「はははっ! お前、やってくれたな! まさか混沌竜だけじゃなく、アヴェンタドール国王までぶっ倒してくるなんてな!」
さも愉快そうに笑い、皇帝は俺を振り返る。、
「コイツを筆頭魔術師にして正解だったな!」
「笑いごとじゃありませんよ。どうするんですか、今後アヴェンタドールと……」
「そんなもの、国王を討ち取ったんだ。侵略完了で良いだろう」
さも当然と言わんばかりの皇帝に、俺は返す言葉に詰まる。
言われてみれば、まだ先の予定だっただけで、アヴェンタドールはいつか侵略するつもりだったのだ。それが早まっただけだと考えれば大した問題はない。
「そもそも、アヴェンタドールの第二王女が突然こっちの城を攻めてきたのが先なんだ。それで状況把握のため送り出した筆頭魔術師が、現地で国王を敵と認識した。それだけのことだ」
皇帝の言葉に、メリッサが突然来訪した時の様子を思い出す。
あれを攻めてきたと言えるか否か。
……うん、いける気がする。
あれは、ある意味立派な攻撃だ。
俺なんか小物扱いで侮辱されたし。
「……そうっすね」
すん、とした顔で思わず頷いてしまった。
そんな会話をする俺達をよそに、突如城の中庭に混沌竜の死骸とアヴェンタドール国王を持ち帰った美女の登場に、兵士達は色めき立っていた。
無理もない。
皇帝は筆頭魔術師にすると宣言していたが、周知はまだしていないので、当然誰もフィアの正体を知らない状態なのだ。
本来であれば、任命式を行うことで世間に周知するのだが、まだその予定すら立っていない。
「フィア・チャージャー、帝国の筆頭魔術師としてよくやった」
皇帝が高らかに言い放ったことで、彼女が筆頭魔術師になったことが一瞬にして広まった。
「……皇帝陛下、もしやこうなることを予想していたのですか?」
思わず尋ねると、彼は飄々と肩を竦めた。
「さぁな……まぁ、お前のことだから、フィアを行かせるんじゃないかとは思ったが……こうも上手くいくとは流石に予想以上だ」
やはり予想していたか。
盗賊のフィアが筆頭魔術師に就任するなんて、当然ながら反対意見が続出するだろう。
皇帝は一度決めたら曲げないと痛感している俺は大人しく従ったが、どうやって民衆を納得させるつもりなのかとは思っていた。
だが、まさかフィアに隣国の侵略と混沌竜の討伐をさせてしまうとは。
これで、フィアは帝国にとって英雄であり、脅威になった。
味方でいるなら良いが、敵になったら厄介、民衆にそう思わせられれば筆頭魔術師となることを反対する者はいなくなる、という訳だ。
「さて、俺は戻る。クロード、あとは頼んだぞ」
この状況の後始末を俺に丸投げして、皇帝は身を翻して去っていく。
俺はその場に集まっていた魔術師に、混沌竜の死骸の処理を指示した。
混沌竜の死骸は、彼らによって解体され、様々な薬品や魔具、武具に加工されることになる。
これだけ巨大な死骸だ。大量のアイテムになるし、売ればかなり儲けることができる。
魔術師達は大盛り上がりだ。
「アヴェンタドール国王はいかがしますか?」
キースが気を失っている国王を指して問う。
「捕虜だからな。とりあえず牢に入れた上で介抱、目が覚め次第取り調べを行う。それと、すぐにアヴェンタドールに騎士団を送れ。他の王族や貴族が団結して楯突いてくる前に制圧しろ」
「承知しました」
キースが部下に毎時で国王を運ばせるのを尻目に、俺はフィアを見た。
「お前、やってくれたな」
皮肉を込めて言ったつもりが、フィアには通じなかったようで、彼女は混沌竜から飛び降りて得意げな顔で笑う。
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてる訳じゃない」
だが、結果オーライといえば結果オーライだ。
「……あれ? ネオはどこ行った?」
相棒の姿がいつの間にか見えなくなっていることに気付いて、フィアがきょろきょろと辺りを見渡す。
「ちょっとネオを探して来る」
そう言って、彼女は小走りに消えていった。
何だかどっと疲れた気がして、俺は自室へと向かった。
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