踊り子の正体
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
クロエはやや呆れたように、ステラを指差した。
「だって、コイツ、男ですから」
「……は?」
全く別の言語を聞いたかのように、言われたことが理解できなかった。
今、何と言った?
ステラが男だと言ったのか?
いやいやいや、嘘だろ。
儚さのある色気が魅力の踊り子、ステラ・ヴィラージュが男である訳がない。
ないない。あり得ない。
やめてくれ! 嘘だと言ってくれ! 頼むからマジで!
俺の中にある前世の記憶が、全力でそう叫んでいる。
しかし。
「んもー! クロエちゃんったら! 何でバラしちゃうかなー!」
否定せず、頬を膨らませて抗議するステラ。
いやいやいや! 否定してくれ!
「え、ちょ、嘘だろ? 男?」
しどろもどろになりつつ聞き返した俺に、ステラは不満げに頷く。
「ええ、身体はね。でも、アタシは性別に興味ないの。アタシは、ただ綺麗なものが好きなだけ。だから、お兄さんが男でも女でも気にしないわよ」
賢者クロードは、自分で言うのも何だが確かにこの世界でそれなりに美形だ。
前世の推しキャラにそう言われること自体は、正直悪い気はしない。
だが、おい神この野郎! キャラクターの性別を勝手に変えてんじゃねぇ! マジで巫山戯んな!
心の中で神に中指を立て捲る。
「……えっと、申し訳ないけど俺は、人並みに性別は気にするんで」
言葉を選びつつ断ろうとするが、ステラはずいと、その可愛い顔を近づけてくる。
「大丈夫よ! アタシに任せて! 新しい扉を開いてみせるから!」
そう言った瞬間、クロエがステラの頭をゲンコツで殴った。
「いっ……!」
「お客さん、悪いことは言わないから、コイツの誘いには乗らない方が良いですよ。コイツを女だと思い込んで一夜を共にしようとした男共は、皆ある意味で骨抜きにされて人生狂わされちゃったんだから!」
「男共か、ある意味で骨抜き……?」
嫌な予感しかしない。
ステラよ、まさかそんな形して攻めなのか。
前世の俺はそこそこオタクだったから、BLについて知識はそれなりにある。
だからこそ、この感じの女装男が、と想像できてしまって、脳内の警鐘がガンガンと鳴り響いた。
「お兄さんも体験してみる?」
「断固として遠慮します」
尻の危険を感じた俺は食い気味に答え、少し冷めてしまった焼肉定食を食べ始めた。
不満そうな顔のステラは何か言いたそうにしていたが、クロエに睨まれて言葉を呑み込んでいた。
その後、食事を終えて食堂を後にした俺は、落胆しながら帰路についた。
前世の俺の推しキャラであるステラが、まさか男でバイセクシャルで攻めだったなんて。
バイセクシャルなのは良いとしても、男である時点で皇帝の花嫁としてはアウトだ。
しかも、ステラの件がショックすぎて、クロエについてあまり探りを入れられずに店を出てしまった。
「……はぁ」
溜め息が無意識に零れ出る。
ゲーム中の攻略対象である十人全員が現れた訳だが、高飛車傲慢が四人、メンヘラ一人、無表情ミステリアスが一人、女装男一人、まだ性格がよくわからないのが一人。
皇帝の花嫁の座に執着していないという意味でぎらついていないのは獣人ルーナと女盗賊フィアのみだが、その二人は皇帝曰く「違う」らしい。
二人共風が教えてくれた場所で出会っているというのに、だ。
何なんだよ。おい神この野郎。こんな無理難題用意してんじゃねぇ!
内心叫びまくった時、強烈な魔力を察知して空を仰いだ。
「っ!」
この魔力は知っている。フィアだ。
猛烈に嫌な予感が胸をざわつかせる。
俺は城へ向かって走り出したが、一刻を争うと判断して、遮蔽魔術を用いた上で飛翔魔術で空へ駆け上がった。
城からほど近い食堂にいたこともあり、すぐに城に到着する。
城は上から見てロの字型をしており、広い中庭がある。
その中庭を上空から見て、俺は目を瞠った。
「なっ! あれは混沌竜かっ?」
中庭には、ドラゴンの巨体が転がっている。
その巨体の上で仁王立ちしているのは、我が帝国の筆頭魔術師に任命されたばかりの、フィア・チャージャーだ。
当然ながら、城にいた兵士や召使いが集まり、騒然としている。
俺は中庭の人目に付かない場所に降り立つと、変化魔術と遮蔽魔術を解いてフィアの正面に回り込んだ。
「おい! 何のつもりだ!」
「お! ケンジャじゃねぇか。探す手間が省けた。ショジョーはアヴェンタドール国王に間違いなく届けてやったぜ。んで、これは土産だ」
巨体の上から俺を見下ろして、にかっと上機嫌に笑うフィア。
「土産って……」
改めて、その巨体を見る。
漆黒の鱗、鋭い爪と牙、蝙蝠のような巨大な翼。
見開かれた深紅の眼は作り物のように鈍く光っている。
加えて、漏れ出ている邪悪な魔力。
間違いなく、混沌竜だ。
「いやぁー! コイツ強ぇな! 久し振りに楽しかったぞ! ……ああ、それと」
フィアが視線を後ろに投じる。
ネオが、一人の人間を肩に担いで現れた。
気を失っているその人間を無造作に地面に転がし、彼女は俺に意味深な視線を向けて来た。
「私のせいじゃないわよ。フィアに妙な指令を出したアンタの責任だからね」
どう意味かと思いつつ、転がされた人物を見て、度肝を抜かれた。
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