使者の選定
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
玉座の間のすぐ隣にある、大臣らが常駐する執務室で書状を素早く作成した俺は、書状を抱えつつ誰を使者として送るべきかを思案しながら、廊下を歩いていた。
向かう先は帝国所属の魔術師が常駐する部屋だ。
アヴェンタドールに行くだけならば、魔術師の誰を派遣しても問題はない。
しかし、混沌竜に襲われている場所に行くとなると、それなりの戦闘経験が必要になってくる。
それ考慮すると、適任者がいないのが現状だ。
と、廊下の向こうからフィアとネオが並んで歩いて来た。その後ろにはルーナもいる。
「あれ? 出かけるって言ってたくせにまだ城にいたのかよ」
嫌味でも皮肉でもなく、ただ思った疑問をそのまま口にしたフィアに、俺は渋い顔で頷いた。
「ちょっとトラブルがあったんだよ。お前達は、これからルーナを送っていくのか?」
「いや、もう送って来たんだけどさ、ルーナの親父、ちょっとヤベェ奴だったから、金だけ貰ってルーナ連れて戻ってきたんだ」
どこから突っ込んで良いのかわからない答えに、俺の思考が一旦ストップする。
「もう送って戻って来た? リグナムの森へか?」
「ああ、移動魔術使えば距離なんて関係ねぇしな」
そうだった。こいつは移動魔術をホイホイと使える猛者だった。
気を取り直して質問を変える。
「ヤベェ奴っていうのは?」
「ルーナを無理矢理、族長の息子? だかなんかと結婚させようとしててさ。ルーナは嫌がってんのにしつけぇから、ぶっ飛ばしてやった」
フィアの話が本当だとすれば、それもゲームの設定と異なる話だ。
公式のシナリオでは、確かにルーナは次期族長となる青年と無理矢理結婚させられそうになっていたが、それは相手が一方的にルーナに好意を寄せていて、次期族長という立場から圧力をかけ、ルーナは両親共に逆らえない、という設定だったはずだ。
両親はルーナの意思を尊重していたはずなのに。
やはりこの世界、俺が知っているゲームと少しずつ違うようだ。
「……それで、お前は大丈夫なのか?」
ルーナを見る。三角の耳もぺたりと下がって、見るからに元気がない。
「私は大丈夫……いつもの事だから。でも、これからどうしたら良いか……」
不安そうに俯くルーナ。
フィアとネオが、無言で俺を見る。
彼女達の意図を察した俺は、努めて優しくルーナに声を掛ける。
「……お前は誘拐事件の被害者だ。当面は捜査に協力するという名目で城に滞在したら良い。部屋は用意させよう」
丁度通り掛かった召使いにその旨を告げ、ルーナを部屋に案内するよう命じる。
「今日は疲れただろうからゆっくり休め。これからのことは、また改めて考えれば良い」
「……ありがとう」
ルーナははにかみながらそう呟き、召使いについていった。
「……案外優しいところもあるのね」
「案外は余計だ。念のため確認しておくが,一度ルーナを送り届けているからには、誓約は解除ってことで良いんだよな?」
「ああ。だが、アタシは今筆頭魔術師だ。捕まえようなんざ……」
「そんなことはしない。俺にとっても、お前が筆頭魔術師でいてくれるとメリットがあるからな」
そう言い返して、ふとフィアを見た。
「……何だよ? アタシの顔に何か付いてんのか?」
不審そうに眉を顰める彼女に、俺は妙案が浮かんだ。
「お前、竜と戦ったことはあるか?」
「ねぇよ。そもそも、大陸にほとんどいねぇじゃん」
「実はな、大陸の東端にあるアヴェンタドールって国に、混沌竜が襲来して暴れ回っているらしいんだ」
俺の言葉に、フィアは目をきらーんと輝かせた。
「何だってっ? んじゃ今なら竜退治ができるんだな?」
「フィア、落ち着いて。アヴェンタドールは帝国外の国よ。しかも閉鎖国家……警戒した方が良い」
フィアをしてから、ネオは俺に鋭い目を向ける。
「フィアにこんな話をしたら食いつくに決まっている……何を企んでいるの?」
「企んでるとは人聞きが悪いな。俺は皇帝陛下の命令により、アヴェンタドールへ書状を持っていく魔術師を選定しなきゃならなくなったから、筆頭魔術師の意見も聞いておこうと思っただけだ」
「書状を持っていく魔術師? 混沌竜に襲われているからって、閉鎖国家のアヴェンタドールを帝国が助けるとでも言うの?」
「ああ。これは皇帝陛下のご判断だ」
ネオは賢い。俺の言いたい事を、すんなりと理解してくれる。
「んじゃあ、そのショジョーってやつ、アタシが持って行ってやるよ」
来た。
皇帝との一件で、フィアの戦闘狂な一面を垣間見ていた俺は、混沌竜の話をすればフィアがアヴェンタドールに行くと言い出すだろうと踏んでいたのだ。
「念のため言っておくが、書状を持っていくだけじゃない。アヴェンタドール国王が助けを求めたら、その場で混沌竜を倒すか、国民を避難させるか、対応する必要があるんだぞ?」
「それを踏まえてもアタシ以外にそれができる奴がいるのか?」
意外と鋭い指摘をしてきたフィアに、俺は内心でニヤリとする。
「それもそうだな。お前達二人に頼むとしようか」
ネオが恨みがましい視線を向けてくるが、俺は気付かないふりをしてフィアに書状を手渡した。
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