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閉鎖国家に起きた事件

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 俺の報告を聞いた皇帝は、訝しげに呟いた。


『アヴェンタドールの第二王女が?』


 やはり皇帝も解せない様子だ。


「国内で何かあったんでしょうか?」

『可能性はあるな。あの閉鎖国家が、第二王女とはいえ進んで嫁に出すなど考え難い』

「調べますか?」

『そうだな。頼んだ』

「承知しました」


 俺は自室に戻り、テラスに出た。


風読魔術ヴァントスレジェーレ


 唱え、アヴェンタドールで何が起きているのかを風に尋ねる。


「なっ! 嘘だろっ!」


 視えた光景に、思わず声に出して叫んでしまった。


 アヴェンタドール国内は、ほとんどが焼け野原になっていた。

 まるで戦争でも起きたかのようだ。

 しかし、原因は戦争ではない。


混沌竜カオスドラゴンだと? 馬鹿な!」


 混沌竜カオスドラゴン

 ゲームの中ではラスボス的な存在だったモンスターで、この世界においてもなかなかに厄介な存在だ。

 魔力を喰らうため半端な魔術による攻撃は逆効果になるという特性を持っている上に、鱗が固く物理攻撃にも強いため、倒すのが非常に困難なのだ。


 しかし、基本的には大陸の北にある島に棲み、よほどのことがなければ大陸にはやってこない。


 ゲーム中でも、大陸全土が支配領域となった時、初めて襲来するのだ。

 現在の支配領域は大陸全土の七割弱。バッドエンド回避となる条件の一つはクリアできているとはいえ、まだ混沌竜カオスドラゴンがやって来るタイミングではない。

 いや、そもそも、混沌竜は何故、帝国ではなくアヴェンタドールへ現れたのだろう。


 現在、混沌竜カオスドラゴンはアヴェンタドールの王城付近の山に居ついているらしい。

 対処に困った国王が、帝国に助けを求めるため、その足掛かりとして娘を皇帝に嫁がせようとしたという訳か。


 アヴェンタドールは閉鎖国家で、これまで帝国との取引は一切ない。

 これまで取引のない国が、突然助けを求めて来たって、帝国が助けてやる義理はない。

 だが、その国の王女が皇帝の花嫁になったなら、話は変わって来る。


「……だから、護衛もほとんど連れずに来たのか」


 正確には、王城の警備に割いていて、王女の護衛にまで回せなかったのだろう。


 さて、どうするか。

 とりあえず皇帝に報告してすべきだが、問題はその後だ。

 賢者として、皇帝と今後の方針について話し合うことになるだろう。


 今までは、ほぼほぼゲームのシナリオ通りだったから、前世の記憶がある俺の助言は完璧だった。

 しかし、混沌竜カオスドラゴンがアヴェンタドールに襲来するなど、ゲームではあり得ない状況だ。これでは前世の記憶にあるゲーム攻略情報が全く役に立たない。


 幸い、混沌竜カオスドラゴンの倒し方だけは覚えているので、倒すこと自体は可能だが、問題は帝国としての動きだ。


 悩みつつも、俺は玉座の間へ急いだ。

 今日だけで何回目になるだろうかとげんなりしながら、足を踏み入れると、皇帝は玉座にはおらず、その後ろの大きな窓から外を眺めていた。


「陛下?」

「……嫌な気配だ。混沌竜カオスドラゴンでも来たのか?」


 突然言い当てられてぎょっとする。

 しかし、ガルイース程の魔術師であれば、気配で混沌竜カオスドラゴンの飛来を察知しても不思議はない。


 俺は窓際に歩み寄りながら、アヴェンタドールで起きていることを報告した。


「……なるほど、アヴェンタドールに混沌竜カオスドラゴンが……」

「それで第二王女を皇帝の花嫁にし、帝国に助力を乞おうとしたものと思われます」

「ふむ……」


 何か考えるように黙り込んだ皇帝に、俺はおずおずと口を開いた。


「まさか、メリッサ王女とお会いになるのですか?」

「なる訳ないだろうが。お前がぎらついていると判断したのなら、会う意味がない」


 きっぱりと即答して、皇帝は窓の外を眺めた。


「……だが、アヴェンタドールを見捨てるかどうかは話が別だ」

「皇帝陛下、まさか……」

「俺が今からアヴェンタドールに行って混沌竜カオスドラゴンを退治して……」

「駄目です」


 妙に目を輝かせて何を言い出すのかと思えば、混沌竜カオスドラゴンを皇帝直々に退治すると言うのか。


 正直、この皇帝ガルイースであれば混沌竜カオスドラゴンも倒せると思う。

 しかし、万が一皇帝が死ぬようなことがあれば、反対勢力はここぞとばかりに出しゃばって来て、俺は賢者の地位を追われるだろう。結果終身刑になりかねない。


 その可能性がある以上、おいそれと皇帝を危険な目に遭わせる訳にはいかない。


「何故だ? 俺が行ってちゃちゃっと混沌竜カオスドラゴンを倒して来たらそれで終いだろう?」

「アヴェンタドールが他に何か企んでいる可能性もあるんですよ。貴方を行かせる訳にはいきません」


 断固阻止という姿勢で言い放つと、皇帝は不満げに唇を尖らせた。

 そんな子供みたいな顔しても、駄目なものは駄目だ。


「……とりあえず、アヴェンタドールに支援はする方向で進めますか?」

「そうだな……閉鎖国家とはいえ、国民が苦しんでいるなら、救いの手を差し伸べてやっても良いだろう。勿論、国王には話を通す必要があるだろうが……となると、あの石頭が応じるとも思えんな」


 国王と直接の面識はないが、過去に取引を持ち掛けた事があり、書面でのやり取りはしたことがある。

 しかし、アヴェンタドール国王は、外との取引絶対にしないの一点張りで、にべもなかった。


「では、取り急ぎ使者を送って、状況の確認がてら、こちらの意向を提示しましょうか。必要ならば国民の避難先と食料の提供を無償で行うと」

「そうだな。それで進めてくれ」


 自分がドラゴン退治に行かないと決まって、皇帝は途端にやる気をなくしたようだ。

 大人しくしていてくれるのであれば、俺は何でも良いのだが。


 俺は一礼して、玉座の間を後にした。


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