隣国の姫君
この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。
メリッサは俺を見て、カッとその赤い眼を見開いた。
「おい! ガルイースは何をしているのじゃ? 妾はガルイースに会いに来たのじゃぞ!」
時代錯誤な口調で言い放った彼女は、手にしていた羽扇をぱんっと閉じた。
「わざわざ妾が出向いてやったって言うのに! 何故門でこんなにも待たされるのじゃ! お主などお呼びでないわ! 早ぅガルイースを呼ぶのじゃ!」
俺は思わず額を抑えた。
メリッサ・アヴェンタドールは、皇帝と同い年の十九歳。
ゲーム上の性格は気が強く、剣術も使えるお転婆系。
なのに、また高飛車傲慢キャラかよ。
しかも一人称が妾とは。ゲーム上では確か「あたし」だったはず。
おい神この野郎、いくら何でもキャラ変が雑すぎやしないか。
「いくら王族であっても、事前連絡もなく突然やって来て皇帝陛下に謁見できると思っているのか?」
諭すように言うが、当然のようにメリッサは怒鳴り返してくる。
「煩い! お主のような小物は引っ込んでおれ! 早ぅガルイースを呼ぶのじゃ!」
小物、そう言われてカチンとくる。
これでも俺は皇帝に次ぐ地位である賢者だぞ。
帝国に属する王国の国王よりも立場は上なのだ。
アヴェンタドールが帝国に属していない以上、地位を単純に比較することはできないが、帝国のナンバーツーは決して小物ではないはず。
「賢者クロードを小物呼ばわりとは、いい度胸だな」
思わず低い声で呟くと、それを聞き取った御者が慌ててメリッサに駆け寄って何か耳打ちした。
「ケンジャ? 何じゃそれは。妾が用があるのは皇帝ガルイースのみじゃ!」
「皇帝陛下は、傲慢な女は嫌いだ。用件は俺が聞こう」
俺がそう言い放つと、メリッサは忌々しげに顔を顰めた後、何故か得意げに笑った。
「……まぁ良い。ならば皇帝に伝えよ、妾が花嫁になりに来てやったと!」
「あ、そーいうの間に合ってるんで」
すん、とした顔になったのが自分でもわかった。
思わず食い気味に拒否した俺に、メリッサはわなわなと震え出した。
「妾が来てやったのじゃぞ!」
「だから頼んでないっつーの! お前みたいなギラギラ女子はお呼びじゃないんだよ!」
「む? ギラギラ女子とは何じゃ? 美しき乙女のことか?」
勝手に勘違いして満更でもなさそうな顔をするメリッサに、俺は深々と溜め息を吐いた。
「とにかく、事前連絡もない余所者を城内に入れる訳にはいかない。お引き取り願おう」
俺は反論を待たずに身を翻した。
残された門番達が、不安そうな顔でメリッサの乗る馬車が強行突破しないよう、いく手を阻むように横一列に並ぶ。
少し離れてから、俺は門を振り返り、誰にも聞こえないよう小さな声で唱えた。
「風操魔術」
風が巻き起こり、少しずつ強さを増して、あの傲慢姫の乗った馬車を押し戻していく。
風は兵士達を避けているので、彼らは勝手に下がっていく馬車を見て不思議そうにしている。
それにしても、アヴェンタドールの第二王女メリッサがこのように城に乗り込んで来るなんてどういうことだろうか。
帝国は支配領域を拡大してはいるが、アヴェンタドール侵略はまだまだ先だ。
侵略を恐れた国王が王女を皇帝の花嫁にと差し出すにしても、タイミングがあまりに不自然である。
更に言えば、第二王女ともあろう人物が、馬車一台でここへ来たこともおかしい。
普通に考えれば、馬車数十台と護衛の騎馬数十騎で大行列を成してやって来るべき人物だ。
アヴェンタドールで、何か起きているのだろうか。
そんなシナリオ、ゲームにはなかったが。
とりあえず、皇帝には報告しておくべき事案だ。
俺はカフスを通じて、皇帝に今起きたことをありのまま報告した。
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