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皇帝と獣人の娘

この小説は『悪役令嬢に転生したら正体がまさかの殺し屋でした』と同じ世界観のお話です。

 玉座の間は、独特の緊張感がある。


 広い室内の最奥、数段高くなった場所に置かれた豪奢な椅子。

 そこに腰を下ろしている美貌の青年は、いるだけで周囲を威圧するほどの魔力を有している。


「お待たせしました。皇帝陛下。獣人族の娘、ルーナ・センテナリオをお連れしました」


 玉座の前まで歩み寄った俺が、左斜め後ろに立っていたルーナを示す。

 彼女は怯えた様子で皇帝を見、深々と一礼した。


「る、ルーナ・センテナリオ……です」


 彼女はおどおどとしているが、獣人族では貴族の挨拶など知らなくても当然なので、その辺の無礼を追及するするつもりはない。


「……ふむ」


 皇帝はルーナを見て一つ頷いた。


 皇帝はあの強烈な花嫁候補を前にしたとしても、人前である限り、決して取り乱したりはしない。

 裏で盛大に怯えはするが、表向きは常に傲岸不遜な態度を崩さないのだ。


 だから今この状況で、皇帝がルーナに対してどう思ったか、見ただけではわからない。


 反応を待つと、皇帝は出入り口に視線を投じた。


「……廊下にいるのは何者だ? 凄まじい魔力を感じるが」


 しまった。彼の感知能力を甘く見ていた。

 まさか、壁一枚隔てた先にいる平常時のフィアの魔力を感じ取るとは。


「……ルーナのボディガードと言いますか……」


 誤魔化そうかとも思ったが、皇帝相手に嘘は通じない。

 俺は観念して、自分が魔力を使えるということ以外の事情を包み隠さず話した。


「女盗賊だと?」


 珍しく、皇帝が興味を示している。


「……まさかお会いになるんですか? かなり気が強い女ですが……」


 意外に思って問うと、皇帝は何か考えてから頷いた。


「面白そうだ。通せ」


 皇帝が女相手に自分から「会う」と言ったのはこれが初めてだ。

 俺は驚きつつも、踵を返して出入り口の扉を開けた。


「皇帝がお前達に会いたいそうだ。入れ」


 俺の言葉に、廊下の壁に凭れて待機していたフィアが目を瞠り、ネオは眉を顰める。


「どういうつもり?」

「どうもこうもねぇ。皇帝陛下が、廊下にいたフィアの魔力を感知して、興味を示したんだ」

「皇帝とは誓約を交わしていないのよ。私達を捕えようとするかもしれないのに、入る訳が……」

「面白ぇじゃん。会ってやるよ」


 警戒するネオを遮って、フィアは不敵な笑みを浮かべながら、俺の前を素通りして玉座の間へ入っていった。


「っ! おい!」

「フィア! ダメよ!」


 慌てて俺とネオが後を追う。


「よぉ、アンタが皇帝か」


 玉座に向かって仁王立ちする人間を、俺は初めて目の当たりにした。


「……お前が噂の女盗賊か」


 皇帝は感情の籠っていない声で呟く。


「ああ、アタシがフィア・チャージャーだ。皇帝なら強いんだろ? ちょっとアタシと勝負しろよ」


 言いながら右手を掲げるフィアに、「あちゃー」とでも言いたげに額を抑えるネオ。

 俺はすかさず、フィアの前に出た。


「おい、いくら何でも無礼だぞ。それと言い忘れていたが、城の中では魔術は使えないからな」

「はぁ? 何だそりゃ。罠か?」


 不愉快そうに眉を顰め、フィアは己の右手を見た。


「……結界魔術の一種か。堅そうだな」


 今にも結界を破りそうな口ぶりで呟き、フィアは皇帝に向き直る。


「アタシとの勝負を受けるなら結界を解け。受けないと言うならアタシが力づくで結界を破ってやるぞ」

「……この結界を破れると言うのか?」


 皇帝が眉を上げる。


 この城に張り巡らされた結界は、先代の筆頭魔術師が全力を注いで張ったもの。

 そんじょそこらの魔術師では破ることなど不可能だ。

 

 しかし、フィアは不敵に微笑み頷く。


「余裕だ」

「……悪いが、この結界を張ったのは俺ではない。俺が解くことはできない」

「つべこべ言ってねぇで勝負しろよ! アタシが勝ったら何でも一つ言うことを聞け!」

「つまり、魔術師同士の決闘だと言うんだな? ならば、俺が勝ったら俺の言うことを一つ聞けよ」

「このアタシに勝てるからな!」


 フィアがそう叫んだ瞬間、彼女の身体から凄絶な魔力が迸った。

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